避けては通れない事:メドケムの復活

Lowe DB. Nowhere To Go But Up: The Return of Medicinal Chemistry. ACS Medicinal Chemistry Letters. 2012;3(1):3-4.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml200297a

創薬化学は、新しいとはいえ不愉快な領域へと移行している。どうしてこうなったのか?何が時代遅れなのか?

製薬企業の大混乱の後、改めて創薬化学の立ち位置を問いなおすのは価値のあることかもしれない。しかし、この質問は一見奇異に思える。多くの創薬化学者はこの質問に対して、自分たちが何処でどういう役割を果たしているか喜んで応えるであろう。しかし、それが言えるのは、今でも仕事のある研究者だけであろう。即答できる研究者はかつて程多くはない。これまでにもよく話題になったのは、創薬において化学と生物のどちらが中心的役割を果たしているのか、という問いかけだ。創薬化学者は、「自分たちがいなければ、何も新しいものが生まれない」というし、生物研究者は「自分たちがいなければ、何も評価できない」と言う。このようなやり取りは未だ回答のない議論として続けられている。少なくとも過去25年の創薬化学者は努力不足ではなかった。計算化学で結合モードを予測しようと努めた(結果的に全く逆の結合様式だったかもしれないが)。ロボット技術を活かして高スループットで化合物のスクリーニングを展開した。朝から晩まで何百万もの化合物を検証した。この先に正答があるに違いないとの期待した。しかし、ロボット技術が手元にあったとしても如何に有望な開発化合物を見つける事が困難な事か?四苦八苦の末に企業が行き着いた真に効果的な手法は、高給ケミストのクビキリだった。今となっては、欧米の高給化学者が通り一辺倒な化学変換に費やす時代は終わった。簡単な化学合成は安価な人件費の上海やバンガロールでやれば済む。一方で、生物製剤と低分子医薬の境界領域にはケミストの活躍の場があり、薬剤ータンパク共役系、アプタマー、オリゴヌクレオチド、修飾酵素といった分野で能力を活かす事が期待できる。このような分野においても新規な化合物はメディシナル・ケミストにしか生み出せないのである。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

創薬化学の未来

Hoffmann T, Metternich R. The Future of Medicinal Chemistry. Angewandte Chemie International Edition. 2012:n/a-n/a.
Available at: http://doi.wiley.com/10.1002/anie.201201677

創薬化学は成熟した科学と言われる事があるが、実際はそういう事はない。プロテアーゼ阻害薬、キナーゼ阻害薬でのブレイクスルーはHIV治療薬や抗癌薬を輩出し、医薬品の進歩に大きく貢献した。これは過去もそうであり今後もそうあり続けるであろう。未だに存在する命を脅かす疾患に対して、タンパク・タンパク相互作用(PPI)阻害薬といった難易度は高いが創薬化学の叡智によって取り組める領域がある。フェノタイピングによる創薬ターゲットでもSARが取得できるに違いない。再生医療でも低分子の活躍の場があると信じられる。核酸に関連するエピジェネティクスのターゲットにおいても、ツールやケモプロテオーム手法用の分子プローブの合成で貢献しうる。ペプチド創薬は低分子では達成しえなかった創薬ターゲット(PPIなど)にアプローチできる可能性があり、再評価されるだろう。

テーマ : 科学・医療・心理
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FDA、大手製薬企業の希少疾患参入に期待感

Pariser AR, Slack DJ, Bauer LJ, Warner C a, Tracy L a. Characteristics of rare disease marketing applications associated with FDA product approvals 2006-2010. Drug discovery today. 2012;00(00).
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22564486

希少疾患とは米国で20万人以下の患者数で未だ治療薬の存在しないアンメット・メディカル・ニーズを指す。希少疾患はおよそ7000種類存在すると推定され、そのほとんどは厳しい症状にあるにも関わらず治療薬が承認されていない。Orphan Drug Act(ODA)が設立された1983年以来、FDAによって承認された新薬は約390種類程度である。FDAは現在、Center for Drug Evaluation and Research (CDER)で90%のオーファンドラッグを承認しており、残りの10%はCenter for Biologics Evaluation and Research (CBER)によって承認されいている。ここでは、2006−2010年の間にCDERが承認したオーファン・ドラッグを話題にとりあげる。以下に示すように、希少疾患は通常疾患に比べて成功確率が高い。特に患者数が少ない程、承認される確度は高い。しかし、希少疾患に参入している製薬会社は小規模会社が多い。しかし小会社の承認確率は低い。希少疾患でも臨床試験の経験のある大手企業に部がある。しかも、希少疾患の審査経験がなくても成功確率は変わらない。すなわち、大手製薬企業は何も臆することなく希少疾患に算入すべきなのである。

なお、オーファンドラッグに関しては、下記内容も関連記事。

http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-740.html

http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-123.html


この報告で評価した変数の注釈は下記の通り。
・企業規模:小企業(従業員:250人以下)、中堅企業(従業員:250人−14999人)、大企業(従業員:1万5千人以上)。
・(米国での)希少疾患普及率:FDA, NIHから得られる情報を主たるソース。
・優先審査経験:少なくとも一つのFDAに新薬承認申請提出前に承認された開発化合物をポートフォリオに有している。
・疾患別審査経験:その疾患で少なくとも1つのFDA承認新薬を有している。
・規制当局との意見交換:FDAと開発側のend-of-Phase II (EOP2)会議。EOP2会議は一般にフェーズ3開発方法とプロトコールの計画を議論する為に実施される。ここではEOP2とfirst-review-cycleでの承認との相関も検証する。

まず希少疾患と通常疾患を合わせた全体像として解析した結果がTable 1。
・承認される確率は、希少疾患77%に対して通常疾患71%と大差はないものの希少疾患がやや高い。
・承認される確率は、生物製剤96%に対して低分子(NME)は68%と低い。
・承認される確率は、優先審査87%に対して標準審査は65%と低い。
・承認される確率は、小企業50%に対して、大企業79%、中堅企業81%と規模が大きい方が確率は高い。
・承認される確率は、優先審査経験のある77%の企業の承認確率は81%で、優先審査経験のない企業の承認確率46%に比べて優れている。
・承認される確率は、EOP2会議を行なっている83%は承認確率(95%)に良い影響を与えている。

詳細を企業のサイズで解析した結果がTable 2。
・優先規制当局審査経験は、小企業26%に対して中堅企業87%、大企業100%で、小企業は経験が圧倒的に少ない。
・希少疾患で申請経験のある企業は、小企業34%、中堅36%に対して大企業は18%と低い。希少疾患の中でも生物製剤は、小企業11%、大企業9%に対して、中堅企業は25%とその依存度が高い。

次に主題の希少疾患(47種類)に関して詳細に解析した結果がTable 3。
・希少疾患が承認される確率は、生物製剤100%に対して低分子(NME)は67%と低い。
・希少疾患が承認される確率は、優先審査88%に対して標準審査は53%と低い。
・希少疾患が承認される確率は、大企業及び中堅企業が88%に対して小企業は46%と低い。
・希少疾患が承認される確率は、優先審査経験のある企業が89%に対して、経験のない企業は36%と低い。
・希少疾患が承認される確率は、EOP2会議を実施した方が(有意差はつかないが)高い傾向がある(実施:83%、非実施:58%)。
・希少疾患が承認される確率は、希少疾患での審査出願経験とは無関係。

希少疾患の患者数と新薬承認数はFig. 1に表示。患者数が少ないほど承認確率は高い。

希少疾患、通常疾患について優先審査と標準審査、EOP2の実施と非実施の承認確率を解析した結果がTable 4。希少疾患と通常疾患で大きな違いはなく、優先審査とEOP2実施で承認確率は高い。

以上から見出された結論として、まず企業規模は患承認確率に大きく関係している。大企業、中堅企業は小企業に比べて承認確率は高く、とりわけ希少疾患で顕著である。この要因は、大企業ほどより多くの薬剤開発経験と審査経験があり、多くのリソースを有しているからと考えられる。また、93%の中堅・大企業は優先審査経験を有しており、小企業では僅か26%しか優先審査の経験を有していない。この事は、規模の大きい企業ほど審査当局の要望に合致した開発プログラムを理解しているからと推定される。また、小企業ほど「新規な」臨床開発をしようとしている点が興味深い。小企業は過去に承認薬を持っていない場合が多いせいかもしれない。また小企業ほど希少疾患に挑戦しており、審査中の全体の34%が小企業由来のもので、それにも関わらず小企業の経験の浅さから承認獲得に失敗しやすい、というのが現状である。一方で新規参入の疾患での審査経験は無くとも、承認確率が低いわけではないのは特筆すべき特徴である。ここでの解析結果から言える事は、第1点として希少疾患の承認確率は高く、特に患者数が少ないほどその確度は高くなる。第2点目として、疾患特異的な承認経験は承認確率に影響はないので、開発を手がける製薬企業には新規な疾患領域への参入をエンカレッジできる。第3点目として、EOP2会議を実施していると承認確率は高い事から、審査当局との意見交換は重要であり、特に審査経験のない小企業にとっては重要な役割を果たしうる。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

報告例少ないGPR35リガンド探索

Deng H, Hu H, He M, et al. Discovery of 2-(4-methylfuran-2(5H)-ylidene)malononitrile and thieno[3,2-b]thiophene-2-carboxylic acid derivatives as G protein-coupled receptor 35 (GPR35) agonists. Journal of medicinal chemistry. 2011;54(20):7385-96.
Available at: http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=3198121&tool=pmcentrez&rendertype=abstract
Deng H, Hu J, Hu H, He M, Fang Y. Thieno[3,2-b]thiophene-2-carboxylic Acid Derivatives as GPR35 Agonists. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2012.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X12005070

GPR35は内因性リガンドにキヌレニン酸、2ーアシルリゾフォスファチジル酸が内因性リガンドと考えられ、その作動薬は高血圧、IBS、喘息、冠動脈疾患治療薬になる事が期待される。ところが、GPR35のリガンドは数えるほどしか報告例がない。ここではDMRアッセイを用いた2系統のGPR作動薬リガンド探索に成功した。代表化合物のYE210, YE120は32.5 nM, 63.7 nMと既存のザプリナストより活性面に優れていた。DMR拮抗薬アッセイ、GPR35ノックダウンのRNA干渉実験、受容体内在化アッセイ、タンゴβアレスチン・トランスロケーション・アッセイによってGPR35特異的な作動薬である事が確認された。第1報で見出されたチエノチオフェン系化合物YE210を、第2報では置換基X, R1, R2、R3を変換した。より強力な活性を有するのは唯一13のみであった。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

HTSでノーヒット、次の打ち手は内因性リガンドからの挑戦的薬物設計

Chen X, Kopecky DJ, Mihalic J, et al. Structure-Guided Design, Synthesis, and Evaluation of Guanine-Derived Inhibitors of the eIF4E mRNA–Cap Interaction. Journal of Medicinal Chemistry. 2012;55(8):3837-3851.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jm300037x


 HTSでノーヒット、この状況ほどその打開策に研究者のアイデアと創意工夫が試される時はない。アムジェンのeIF4E阻害薬はまさのこの状況であった。低分子eIF4E阻害薬の探索を目指してHTSを実施したがまともなヒット化合物は得られなかった。しかしなんとしてもこの魅力ある本ターゲットの低分子リガンドを探索する為に、活性は非常に弱いものの内因性のm7-GMPとeIF4Eとの結晶が得られている事から、ここからSBDDでリガンドをデザイン、すなわちmRNAキャップであるm7-GMP化合物1の誘導化で、結晶の詳細な考察から確認したN7位方向の脂溶性ポケットを狙って置換基を伸長し、その後に別部分の置換基を変換するする方針をとった。
 
 結晶構造情報をみると、メチル化された7位によって芳香環がカチオンにチャージされており、これが酵素側のTrp102, Trp56にサンドイッチ型にカチオンπ相互作用でスタックしている事が活性の鍵になっている(Fig. 1)。たとえばm7-GppGに比べてメチル化されず4級化されていない構造GppGでは活性は276倍低下する事からもこの芳香環上に非局在化したカチオンが重要であると理解できる。また、芳香環内のカルボニルはTrp102の主鎖アミドと水素結合を形成、N1, N2はGlu103と水素結合を形成しており、活性発現に重要と考えられ変換するのは得策ではない。そして、3リン酸部分はArg112, 157, Lys162と水素結合ネットワークを構築して活性発現に大きな貢献をしている。これが2リン酸、1リン酸では活性は39倍、407倍と低下してしまう。このような背景の元、7位メチルの先にあるPhe48, Leu60, Pro100, Ser92, Asp90で構成された脂溶性ポケットを狙った置換基変換を検討した(Table 1)。リード化合物1は14μMの活性であるのに対して、プロピオンリンカーを介してクロロベンゼンを入れた7では5.35μMまで活性が向上する。この結果に勇気を得て、周辺を変換したが、全く予想外にもリンカーの炭素原子を酸素原子に置き換えた9で、活性は59 nMまで100倍近く向上した。化合物8と比べればわかるように、クロロ基一つで活性が1000倍もの改善をしている事になる。また化合物9はリード化合物1から200倍に活性が向上している。このクロロ基9と同様の活性向上の効果は、ブロモ基10、シアノ基12でも認められた。化合物9でeIF4Eとの複合結晶構造解析が得られ、クロロベンジルが疎水性ポケットにジャストフィットしており、クロロ基が疎水性ポケットとピッタリとファンデルワールスコンタクトをとっている事が理解できた。一方でリンカーのエーテル酸素原子は相互作用に預かっていない。炭素原子を酸素原子に変換して活性が100倍向上した要因は、コンフォメーション解析で説明できる。すなわち水中での安定構造からタンパクに相互作用する際の活性構造とのエネルギー差はエーテルリンカーで0.5 kcalであるのに対して、メチレンリンカーでは3.0 kcal/molである。すなわちこのエネルギー差2.5 kcal/molは活性が1桁につき1.36kcal/molに相当し、100倍=1.36X2=2.72 kcal/molとほぼ一致する。

 こうして見出された化合物9だが、芳香環のカチオニックな性質は膜透過性の低さの要因となり細胞系での活性が見込めない。中性状態をとれる化合物24では活性が100倍低下してしまう。これは先の結晶情報の考察のとおり、サンドイッチ型のカチオン・π相互作用に不利に働くからと考えられる(Table 2)。そこで一端視点を変えて、リボース側の変換に着眼した。結晶情報ではリボース部分は特に重要な相互作用には預かっていないように見受けられる。実際に水素結合ドナーを潰した26で活性は減弱しなかった(Table 3)。このリボース骨格はコンフォメーションを折り畳み構造に固定化するように機能していると考えられる。そこで、これをごっそり除去して別リンカーを介してリン酸部分を導入するデザインを検討した(Fig. 3)。これによってみ見出した化合物33はカチオニックな母核でないにも関わらず活性は95 nMと強力であった。しかし、3リン酸構造のジアニオン構造の為に、膜透過性は低く、細胞系での活性は認められない(Table 4)。リン酸部分を種々等価体的に変換したが(Table 4)、有効な置換基は見出されなかった。今後、細胞内を透過させるプロドラッグ戦略によって課題解決を検討する予定、としている。


  ヒットがでなければ活性が弱く非ドラッグライクな内因性のmRNAキャップから最適化する、この極めて挑戦的な課題はSBDDを軸に展開して有望な化合物を見出す事に成功した。内因性リガンドからの最適化という点では、同じく抗癌剤のテーマであるNEDD8阻害薬で、武田・ミレニアムの開発化合物MLN4924がAMPの誘導体から見出されている(http://www.nature.com/nature/journal/v458/n7239/abs/nature07884_ja.html)。一方でこのeIF4E阻害薬の難しいところは、ジアニオンとカチオンが活性発現に非常に重要という点である。イオン性の相互作用を代替してかつ活性を獲得していくプロセスで脂溶性ポケットを狙っているのであるが、それが塩素原子のファンデルワールス・コンタクトというエンタルピーの寄与と、エーテル・リンカーのエントロピーの寄与によって極めて効率的に活性を稼いでいるのは興味深い。リンカーの1原子の違いでもその効果は大きい。エーテル・リンカーとメチレン・リンカーの安定構造の違いは、昨日紹介のMerck社のHIV治療薬NNRTIでMK-4965の周辺誘導体の変換でも検証されていた(http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-802.html)。このMK-4965の中央ベンゼン環、もしくはインダゾール環をピリドンに変換した新規ケモタイプの検討では、エーテルリンカーの二面角が0°、180°に鞍点があるのに対して、メチレンリンカーは90°、270°となり、ピリドン連結のメチレンリンカーの鞍点はメチレンタイプと同じプロファイルでかつそのエネルギー障壁は3ー6倍でより活性構造を安定化しうる、というものであった。僅か2つの重原子で2つの熱力学的パラメーターを呼び込んだのは、予想外の事だったとはいえその効果は大きい。また、リボースが相互作用に寄与せず構造固定化の為だと判断して大胆に変換した事が、もう一つの大きな課題であったサンドイッチ型のカチオン・π相互作用を脱却できた事も秀逸である。優れたドラッグデザインはいつも既成概念の中のルーチンワークからは生み出されず、高いハードルを越えていく為の仮説と観察力に依存しているのである。

テーマ : 科学・医療・心理
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Author:Janus
どんな小説や映画よりも、メドケムにはエキサイティングで感動的なドラマがある。趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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