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創薬パラダイム・シフト:プロセス重視からサイエンス重視へ転換せよ

Sams-Dodd F. Is poor research the cause of the declining productivity of the pharmaceutical industry? An industry in need of a paradigm shift. Drug discovery today. 2012;00(00):1–7.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612003674

過去20年の創薬パラダイムであるターゲットベースの創薬は、何千億円の投資の割にはそれほど効果的ではなかったと言われている。なぜこれほどまでに機能しなかったのか?ここでは従来の手法の失敗確率の高い理由を知り、生産性向上のための創薬手法の転換を提案する。たとえば、ターゲット選定の段階で、多くの研究者は選択的な化合物を目指そうとするが、癌のキナーゼ研究を見てもわかるように、薬効を示すのはマルチのターゲットによって複数のシグナルを同時に作用する事に発揮する場合も多い。また、製薬企業では薬効につながる明確なMOAを必要とする傾向にあるが、実際には精神疾患の薬剤のようにMOAが十分に説明できずに使われているものも実際に多い。一見すると理路整然と説明されるMOAも、実際には解釈の仕様によって異なる見解となる場合もあり、また実際の生体内でのタンパクの動きはそれほど単純ではない事も多い。単一メカニズムで最適化した化合物を100種類程度のオフターゲットに対して選択的だと証明しても、他の未解明なターゲットに対する作用があって、それが後々に臨床的に意義がある事がわかる場合もある。ターゲットとMOAが決まれば次はスクリーニングのフローを構築して評価するのであるが、実際にそのスクリーニングが臨床へと橋渡しするものとも限らない。癌細胞の場合、増殖活性の抑制で臨床効果を外挿しようとするが、生体内の実際とはかけ離れたものであるのがほとんどで、ルーチンワークで評価し続ける過程そのものが時間の無駄に終わりかねない。なんとか化合物を選んだとしても、病態モデル動物が臨床成績を正確に予測しうるわけではない。このような不確定な要因が多く、非臨床で実に97%のテーマが失敗してしまう。

現在の創薬パラダイムは明らかに疾患や生物学ではなく、プロセスに焦点を当ててしまった感が否めない。本来重要な事は、臨床での疾患にフォーカスを当てた適切な科学と原理原則を基軸にする事であり、その上でプロセスを構築し直す事である。研究開発の組織再編は重要であるが、どんなに組織を再編した所で疾患の性質を変える事が出来るわけではない。よって組織をどうするかは二の次である。疾患にフォーカスしてプロセスを考慮していく新たな研究パラダイムには、3つの原則を適用する必要がある。その一つはサイエンス・ベースのプロセスである。サイエンスは偏見のない実験と観察の積み重ねによって証明された体系的法則によって成り立っている。ここで注意しなくてはならないのが、大前提になっている教義や仮説を疑わぬまま議論が始まってしまう事が往々にしてある事だ。たとえば、地球は平坦である事を大前提とするなら、その平坦な地上の先から落ちて別の平坦な世界には何があるのか?という疑問が出てくるだろう。しかし、地球の形を認識してその根拠のない思い込みによる前提を払拭できれば、全く違う視点で正しい方向に科学を追求できる。これは創薬研究についても同じ事が言える。たとえば、ある現象が機能するとするならば、それ以外の方向性は考慮しなくなってしまう。その一例として統合失調症の原因はドーパミン過剰亢進に基づくという説が挙げられる。この概念は、Dアンフェタミンがドーパミンを放出させて統合失調症様の症状を発症する事、多くの向精神薬はドーパミンD2拮抗作用を有している事を根拠にしている。ところが、多くの統合失調症患者はDアンフェタミン禁忌ではなく、長期間の向精神薬治療はドーパミン系の亢進を招くとも言われる。しかし、こういった事実は、ドーパミン仮説という教義に背く事になるという理由でほとんど考慮される事はない。つまり、教義は本質的に代替仮説に対して我々を盲目にしてしまう。これはアルツハイマーに関しても同様の事が言える。ある仮説が原理原則の如く扱われて教義化すると、教義に背く事実が無視され、別の仮説が疎かにされ、真実から目を背ける為に科学の進歩が遅れてしまうのだ。教義と化した仮説は聖書の如く神格化され唯一絶対的存在になる。その仮説にそぐわない事実が次から次に出てきても、その原因は別の要因と解釈し、結果的に臨床後期で破綻するまで突き進むまで目が覚める事はない。誤った教義に立脚する仮説は全て誤った方向にしか導かない。地球が球体である事を知って認めるからこそ、科学の新しい道が切り開かれるのだ。また、科学の議論で支配的な要素還元主義的アプローチも注意が必要である。生体内は複数の要素が複雑に影響しあっており、本来、単一要素にフォーカスして生体を理解する事はできない。例えば車のエンジンを理解するには、ドアやミラーからエンジンを切り離す必要があるが、エンジンに重要なシリンダーやボルトの機能を知らずに外してしまうとエンジンそのものを理解できなくなってしまう。薬剤でもマルチターゲットが注目されているのは単一ターゲットでは作用が不十分でも複数の作用によるシナジー効果が期待できるからである。何度も研究を問い続け、実験のデザインを検証しなおす事は意思決定に重要であるが、意外とお粗末にされている。脳梗塞のモデルやフェンサイクリジン誘発の統合失調症陰性症状モデルはラボによって再現性がない事がずっと問題になっている。サイエンス・ベースのプロセスでは、実践と議論を尽くして確証を得ながら洗練していく事が重要である。臨床成功確率は低いので、研究を進める過程でできるだけ多くの仮説をふるいに掛けて、よりよいものが残っているべきである。2つ目の原則は、顧客を知る事である。製薬企業にとって顧客とは患者である。疾患、症状、既存薬の限界を知らずして競合力ある製品を生み出す事はできない。研究者が患者のニーズを知る上でも、医師とのコンタクトをより密にとる事が重要である。3つ目の原則は、リスクを理解する事である。リスクの許容とは、我々がそのリスクに対処するか、すなわちリスクの対応に着手するのか、そうでないならば議論を避けて通るしかない。そもそも創薬は困難なものであり、製薬企業にとって多くのプログラムは道半ばで失敗するのは普通の事である。しかし、注意さえしていれば予測可能で気がつくようなリスクは回避すべきであり、そのような将来の失敗に目を背けた為に、後々にその失敗が起こるべくして起こってはならないのである。数年前に、いくつかの製薬企業は抗不安薬としてmGluR5拮抗薬を検討していた。このMOAは抗不安薬として大いに期待されたが、一方で幻覚や妄想といった精神異常の副作用が懸念されていた。しかし、この懸念はフェーズ1でその副作用で化合物がドロップするまで十分に検証される事はなかった。多くの製薬企業が既知のリスクに対処できなかったのである。どの製薬企業も、最後は「他社もやっているのだから」という共通の理由で研究を進めてしまい、誰もストップボタンを押したがらなかった。無謀なリスク・テイクともいえる製薬企業のバンザイ突撃の結果、臨床試験で起こるべくして起きた問題によって製薬各社が全滅してしまった。このような状況を回避するには、科学的なデュー・デリジェンスのプロセスを実施する事が肝要だ。このプロセスではサポート意見と反対意見によるバイアスのない点検が実施される。このプロセスでは(1)プロジェクトを支援するだけの十分な科学的根拠があるか、(2)簡単な追加実験で不明確な面を払拭できるか、(3)鍵となる仮説は実験によって検証しうるか、(4)チェックポイントで後々のリスクを低減できるか、について決定される。研究者が「疾患の要因は余りに複雑だ」と嘆き、「他にやりようがないから」と、研究者は1つのターゲットに固執して研究を始めてしまう。しかし、その前にほんの少しの時間、疾患の臨床症状を議論し、スクリーニング方法を議論するだけで、解決できる課題もあるという事を知っておくべきである。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

オープンイノベーション型創薬のボトルネックを解除する4つの戦略

Ekins S, Waller CL, Bradley MP, Clark AM, Williams AJ. Four disruptive strategies for removing drug discovery bottlenecks. Drug discovery today. 2012;00(00):1–7.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23098820


創薬ビジネスモデルがクローズドからオープン・イノベーション型へと変貌し、新たなボトルネックが発生してしまった。ここではそのボトルネックを解除する4つの戦略を提案する。まず第1に社内でのHTSのような技術を大学や公的研究機関との連携で代替しようとしたが、パブリック・ドメインのデータベースの質は低いという新たな問題にぶち当たってしまった。まず最初の提案は、NIHや公的機関は最低限のデータ品質基準を設定し、データの提出には厳格なタイムラインを決め、公的研究費で得られたデータは全てオープン・アクセスできるようにすべき、という事である。また、公的研究費の助成を受けた研究の成果報告は、直ちに無料でアクセスできるようにする事で、ナレッジ不足のボトルネックを解除しうる。第2のボトルネックは公的・私的機関のパートナーシップ(PPP)もしくは共同研究が想像以上に機能していない、という問題がある。その理由は主に知的財産(IP)に起因している。研究機関にとってはIPが共同研究の主たるインセンティブになるので、IPが共有できるならば連携はするが、一方で排他的に独占したいという思惑が働く為に、共同研究が進まないのである。そこで、ここでのボトルネック解除の提案は、IPがまだ発生しない前競争的研究に共同研究の範疇を広げ、後々の研究の方向性を設定する為の基礎研究型共同研究を推進する事で、IP面でのコンフリクトを回避し、かつ生産性の向上につながると考えられる。第3の問題は、学際やCROとの共同研究では、情報共有にミスコミュニケーションが起こりうる、という事である。情報やデータはサイロ化された組織の全てのレベルで存在している。サイロ化される理由はタキソノミーやオントロジーに由来する技術的な問題ではなく、文化や風土に根ざした問題である。このような非技術的な問題は部門・組織横断的なデータ解析の共通認識を阻害する。とりわけ臨床に関しては開示される情報が限定的であり、一方で自社のデータは十分にわかっているので、組織によって情報の濃淡が生まれてしまい、ミスコミュニケーションの原因になる。このような問題を解決する提案は、FDAが音頭をとって関連する臨床データを積極的に開示し、共有し、創薬死の谷を埋め合わせるように働きかける事だと考える。最後の4つ目の課題は、FDAやNHSが話題に挙げている患者データの解析やビッグデータを如何に有効活用するかである。ビッグデータは指数関数的に増加しており、人々は知らず知らずのうちに貴重な情報をネット上に提供しているので、ソーシャルメディアやウェブからこれらを抽出して利用すれば病気の広がりの予測や健康状態を監視する事ができる。創薬研究では、安全性解析やドラッグ・リパーパシング、ソーシャル・メディアを利用したセンチメント解析によるマーケティングに興味がシフトしている。この課題に関するストリーム・マイニング・ツールとして、Teranode, Ceiba, Swarmologyが利用できる。スワーム・インテリジェンスは、バイオ・インフォ系人工知能で、様々なソーシャル・ネットワークのようなサブグループから健康に関連したデータに加え、リアルタイムでもデータを追跡する事ができ、これを統合してソリューションを提供する。また、同時に最適な共同研究者を発見する事が重要である。これを目的にコラボレーション・ファインダーのようなツールを利用する事ができる。最後のボトルネック解除の提案は、ソーシャル・メディア上に存在する患者の生の声に耳を傾け、これをマイニングし、オフターゲット情報などを取得する事である。また、コラボレーション・ツールを使って適切なイノベーターを発見する事である。

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フェーズ2をクリアする質の高い創薬ターゲットをあぶり出す為のチェックリストと3本の矢

Gashaw I, Ellinghaus P, Sommer A, Asadullah K. What makes a good drug target? Drug discovery today. 2011;16(23-24):1037–43.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644611002972


Morgan P, Graaf PH Van Der, Arrowsmith J, et al. Can the flow of medicines be improved? Fundamental pharmacokinetic and pharmacological principles toward improving Phase II survival. Drug discovery today. 2012;17(9-10):419–24.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22227532

 フェーズ2成功確率は2006ー2007年の28%から2008-2009年の18%に低下しており、その要因の半分は不十分な薬効であった。さらにフェーズ3の3分の2が薬効不足で中断している。優れたターゲットを同定し、ビトロとビボでの薬効を予測する事がますます重要と考えられ始めた。バイエルでは「グランツ4ターゲット」イニシアティブを2009年に立ち上げた。この活動の根本のアイデアは、アカデミアの創薬ターゲットの評価と検証をサポートする為に助成金と創薬ノウハウを提供する事にある。この活動の中で多くの興味深い新規ターゲットについて提案を受けたが、未だに良いターゲットの鍵になる性質が何なのかの議論は不十分であった。したがって、創薬ターゲットの良し悪しを判断する為に、ドラッガビリティやアッセイアビリティといった側面からチェックリストを作成し、判断する事によって整流化する事の重要性を認識した。Box1がそのチェックリストである。

<チェックリスト:理想的な創薬ターゲットの性質>
・根本治療もしくは病態の改善しうるターゲット
・他の疾患では大きな影響を及ぼさない
・仮にターゲットのドラッガビリティが不明の場合、ターゲットタンパクの3次元構造もしくはホモロジー構造からのドラッガビリティを評価
・HTSを行えるアッセイアビリティ
・ターゲットは全身分布していない
・薬効を追跡できるバイオマーカーの存在
・フェノタイプによって潜在的な副作用の予測可能性
・特許状況が厳しくない


<ターゲット定義とターゲット・クラス>
2006年にドラッグターゲットとして324種類が提案され、バイオインフォマティクスによって3573種類のノンドラッグターゲットから668タンパクがターゲットライクな性質を持つものとして同定された。現在では、大まかにTable 1のように分類されている。


<ターゲット評価>
バイエルではFig. 1による評価シートに基づいて判断する。
・unmet疾患
・ターゲットの同定
・ターゲット評価(実験的ターゲット評価:ビトロ、ビボ、siRNA, 過剰発現細胞、ビボモデル。理論的ドラッガビリティ評価:低分子結合サイト、結晶、HTS。バイオマーカー)。
・副作用評価(発現部位、フェノタイプデータ、(あれば)臨床データ、クラスエフェクト)。
・特許・競合状況(FTO解析、販売オプション、類似メカニズムの競合状況、特許性)。


・ターゲット同定
1)Fig. 2aの以下の項目を評価。
・遺伝子発現プロファイル
・プロテオミクス
・パスウェイ解析(データベース)
・フェノタイプ解析(データベース)
・機能解析スクリーニング(siRNA)
・遺伝子関連性
・文献

2)Fig. 2bの3要素の洗い出し。
・モデル、技術の入手可能性
・疾患に対する理解
・MOAに対する理解


・ターゲット検証
ビトロ、ビボ、ノックアウトといったフェノタイピングの利用。ヒトへの外挿性ある系の構築。
ITKは皮膚炎症治療薬になりうる事が細胞の過剰発現によって確認され、バリデーションに成功した好例。

・ドラッガビリティ評価
タンパクの3次元構造の確認にはPDTD。
http://www.dddc.ac.cn/pdtd/

低分子結合部位の有無を評価するにはEMBL-EBIのサイトが利用可能。
https://www.ebi.ac.uk/chembl/drugebility


・アッセイアビリティ
GPCRでもオーファンの場合は系の構築に工夫が必要。

・疾患によってターゲットの良し悪しは変わる
バイエルの抗癌薬としてマルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ(ネクサバール)は循環器系疾患治療薬としても可能性があるが、慢性疾患への適応はハードルが高い。

第2報では、ファイザー社が、フェーズ2を生き残る事ができる化合物が何なのかを知る為に、社内で意思決定したフェーズ2の44プログラムを解析した。多くの失敗は薬効不足が原因であったが、その多く(43%)は検証していたメカニズムが不適切であった為と推定された。フェーズ2で生き残りフェーズ3への確率を高めるには、「生き残る為の三本の矢」ともいえる1)作用部位、2)ターゲットへの結合、3)薬理作用発現、のPK・PDを総合的に理解しておく事が重要である。Fig. 1に示すように3本の矢をいくつ満たすかのマトリックスをターゲットのリスクマネジメントに活用している。

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利用価値ある共有結合モディフィア

Potashman MH, Duggan ME. Covalent modifiers: an orthogonal approach to drug design. Journal of medicinal chemistry. 2009;52(5):1231–46.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19203292


反応性置換基を有する低分子化合物は、蛋白との非特異的結合を起点としたバイオアクティベーションによって、発生頻度は低くても重篤な毒性を引き起こしうる。一方で、ターゲット特異的な共有結合の形成は、薬効発現に有利に働きうる。このような共有結合モディフィアは、生理学的な条件では反応性は低く、ターゲット蛋白の適切なポケットに配置した際に反応するのが理想的である。この概説では、共有結合モディフィアの実例をFDA, EMEA, CAS, IDdb, PDRのデータベースから収集して紹介している。アシル化反応を利用するタイプとして、抗肥満薬オリスタットがある。アルツハイマー治療薬としてアセチルコリンエステレーゼの活性中心のセリンと可逆的に結合するドネペジル、ガランタミンがある。アスピリンはCOX阻害薬の中で、唯一活性中心のセリンと共有結合阻害を示す化合物である。これらは非可逆的に結合するリバスチグミンに比べて安全性に優れている。脳梗塞、心筋梗塞治療薬の血小板凝集阻害薬プリノセプターP2Y12阻害薬クロピドグレルは、CYP1Aによって代謝されたオキソチオフェンが加水分解、ジスルフィド結合を形成して非可逆的に阻害する。ジスルフィド結合形成としてはオメプラゾール、ランソプラゾールの事例が知られている。またEGFR/HER-2阻害薬のHKI-272はマイケル付加によって非可逆的に阻害する。ノバルティス社のDPP4阻害薬ビルダグリプチンのシアノピロリジン部分がセリンプロテアーゼの活性中心でイミデート結合を形成するし、メルク社のカテプシンK阻害薬オダナカチブはシアノメチル部分がシステインプロテアーゼの活性中心でチオイミデート結合を形成する。共有結合モディフィアをうまく利用すれば強力な活性と高い選択性を有する化合物をデザインする事ができ、メディシナルケミストは、そのウォーヘッド部分の反応性をファインチューニングできる。非臨床では、カスパーゼ阻害薬、MMP13、THR、FAAHが共有結合モディフィアを利用している。さらに共有結合モディフィアはFBDDの最初の起点にもなりうる。ここで紹介されている化合物は、実際のところはかなり古いものが多いので、現在のFDAのガイドラインに照らし合わせてみれば、同じように適用してデザインできるとは限らない。当然のことながら、ターゲットや疾患によって、脳梗塞のような急性的なものか、生活習慣病のように慢性的なものか、癌のように生命に関わるものか、生活習慣病のように命に直接は関係しないものか、骨粗鬆症のようなアンメット・ニーズに応えうるものか、生活習慣病のように既存薬で十分に薬効を発現している領域のものかによって使い分ける必要がある。

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自動置換基変換提案ツール

Keefer CE, Chang G, Kauffman GW. Extraction of tacit knowledge from large ADME data sets via pairwise analysis. Bioorganic & medicinal chemistry. 2011;19(12):3739–49.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0968089611003488


本報では、ファイザーで開発した自動置換基変換提案ツールの構築法を紹介している。
1)無秩序で膨大に存在するADMEの”データ”(what)を、
2)ペアワイズ(マッチドペア)という切り口で解析し5つの変換カテゴリーに分類する事で”情報”(know-what)として抽出し、
3)それらを利用して化合物最適化の”ナレッジ”(know-how)としている。

この際に、ペアファインダーという解析ツールと、ペアトランスフォーマーという提案ツールを利用する事で、大規模データを自動的に処理できるようにした事が成功の秘訣になっている事は言うまでもない。

まずファイザーのADMEデータベースからペアワイズ(マッチドペア)を解析し、効果的変換の抽出を行った。大規模データを効率的にマイニングする為に、伝統的手法は利用せず、ペアファインダーと呼ばれるアルゴリズムを応用したソフトを利用して、単純変換及び複合変換のデータ抽出を自動化、高速処理化(2000 cpds / sec)を果たした。

ここで検証するADMEデータは、

ヒト代謝安定性(HLM):226,348化合物
MDR膜透過性:102,933化合物
MDRのP-gp排出比:74,624化合物
脂溶性(SFLogD):29,998化合物

たとえば、HLMの場合、22万化合物の理論的に可能な組み合わせは250億通り存在し、実際に見出されたのが1200万通り、ユニークな変換が780万通り、側鎖の変換は全体の25%であった(Table 1)。

頻出置換基変換トップ20はある程度予想の範囲内の変換(Fig. 4)。多くの変換が統計的に有意であるにも関わらず標準偏差は大きい。たとえば、プロトンをメトキシ基にすると、代謝安定性の平均的変化は10.2、標準偏差は65.4、すなわち35%は増加、22%は減少、42%は変化なし。平均としてはメトキシ基は肝代謝は増加するが、多くの場合で例外が存在する。

標準偏差が大きいとはいえ、Table 3のように、置換基変換に相加性があるのは特筆すべき点である。たとえば、代謝安定性の例で、オルトからパラの変換(18)はオルトからメタ(6)、メタからパラ(16)への変換の足し合わせが成立する。Fig. 1でカテゴライズした等価体変換や付加的変換はこれに相当するが、他にも最初の活性から比例関数的に活性が変化するパターン、すなわち相乗(乗法)効果があるものも存在する。

主活性を残して他の活性を減弱もしくはADME改善を目的にする等価体変換は、ペアワイズ解析によっても評価できる。たとえば、フェニルをm-メトキシフェニルに変換する場合、変換の前後で脂溶性にほとんど変化はないので、脂溶性の等価体変換とみなせる(Fig. 5a)。この事実はハンシュのπ値が-0.02である事によっても確かめられる。3-ピリジンから4-ピリジンの変換の変換は、MDR排出値の等価体変換とみなせる(Fig. 5b)。

フェニル基をクロロフェニル基に変換するのは脂溶性がほぼ一律に0.60向上するので相加的変換とみなせる(Fig. 6(a))。これはπ値が+0.71とも一致する。ピラゾールからイソオキサゾールへの変換は膜透過性は向上の相加的変換であるが、その標準偏差はやや大きい(Fig. 6b)。

Fig. 7aからエチルピリミジンから直結ピリミジンへの変換は代謝安定性に関して相乗的(乗法)変換とみなせる。これはパラメーターの対数をとると相加的変換同様のグラフを得られる(Fig. 7b)。アザビシクロヘプタンからメチルピペリジンへの変換も代謝安定性に関して相乗的(乗法)変換である(Fig. 7c,d)。

ペアワイズ解析で最も魅力的な成果は、スイッチイング変換を浮き彫りにできる点である。電気スイッチをオン・オフするように、活性値をオン・オフできる魅力的変換である。たとえば、エステルからカルボン酸の変換は代謝安定性のスイッチングオフ変換である(Fig. 8(a))。これは代謝安定性の測定条件pH7.4ではカルボン酸がイオン化している事を考慮すると当然の結果といえる。特筆すべき結果の一つがピリジンからピロリジノンの変換が代謝安定性のスイッチングオフ変換であり、水素結合アクセプターを残したまま代謝安定性を劇的に改善できる(Fig. 8(b))。プロトンからピペリジンの変換も代謝安定性のスイッチングオフ変換である(Fig. 8(c))。MDR排出のスイッチングオフ変換として、3-ピリジンからフェニルへの変換(Fig. 8(d))、スルホンからエーテルへの変換(Fig. 8(e))がある。膜透過性のスイッチングオフ変換として、フェニルからイミダゾールの変換がある(Fig. 8(f))。

スイッチング変換で注意すべきは、スイッチングオン変換の逆が必ずしもスイッチングオフ変換になるわけではない事。Fig. 8(d)では、フェニルのMDRは2−5のレンジにあり、ピリジンは2−45のレンジにあるが、ピリジンもまた2−5のレンジに集中して存在する。よってフェニルをピリジンに変えてもMDR基質にならない事の方が多い。

Fig. 1の1)等価体変換、2)相加的変換、3)相乗(乗法)的変換、4)スイッチオン変換、5)スイッチオフ変換を、パラメーターでカットオフして定義し、その存在比をまとめたのがTable 4。圧倒的に等価体変換が多く、脂溶性のみ付加的変換が多い。MDR排出比と代謝安定性でスイッチングオフ変換が多いのは、CYP酵素、トランスポーターの分子認識に関わる置換基の存在を示唆している。

無限の置換基組み合わせの可能性から効果的な変換を提案する事で開発化合物を効率的に創出しうる、その為にペアワイズ解析をドラッグデザインに提示する実践的インターフェイスとしてペアトランスフォーマーを開発した。これはファイザーのインハウス化合物解析ツールPCATのモジュールとして利用できる。

ケーススタディ1(JAK阻害薬):代謝安定性改善の為にシクロプロピルメチルの代替基探索。5つの変換が提示され、シアノ基に変換された化合物がCP-690550のラセミ体である(Fig. 9)。

ケーススタディ2(ADME改善):すべてのADMEパラメーター改善を指向して、2-ピリジンの代替基を探索し、イミダゾールを候補に見出す事に成功している(Fig. 10)。

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Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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