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ネガティブ・バリデーション

Shen HC, Ding F, Wang S, et al. Discovery of spirocyclic secondary amine-derived tertiary ureas as highly potent, selective and bioavailable soluble epoxide hydrolase inhibitors. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2009;19(13):3398-404.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19481932.

Shen HC, Ding F, Wang S, et al. Discovery of a Highly Potent, Selective, and Bioavailable Soluble Epoxide Hydrolase Inhibitor with Excellent Ex Vivo Target Engagement. Journal of medicinal chemistry. 2009.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19645482.

Shen HC, Ding F, Deng Q, et al. Discovery of 3,3-disubstituted piperidine-derived trisubstituted ureas as highly potent soluble epoxide hydrolase inhibitors. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2009;19(18):5314-20.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19682899.


一連の報告は循環器テーマでメカニズムベースで非常に期待度の高いsEH阻害薬が徹底した精査の結果、薬理作用が期待できない事を証明した報告である。他社状況を考えると、薬理作用が期待されても良いように思えるが、慎重かつ精密な客観的精査の結果、実はそれはオフターゲットの可能性が高い事を示唆し、このターゲット自体が循環器系疾患に魅力がない事を説得力を持って示している。テーマのステージアップに意識が集中すると、ネガティブな情報を過小評価したり楽観的解釈をしたくなるが、そうではなく、研究者は常に冷静にサイエンティフィックな判断をしてディシジョンすべき事を教えられる良い例である。

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可溶性エポキシドヒドラーゼ(sEH)はアラキドン酸とリノレン酸エポキシドの代謝に関与し、とりわけC末端sEHはエポキシエイコサトリエノール酸(EET)を対応するジヒドロキシエイコサトリエノール酸に変換する。EETには血管拡張作用があり、ラットでは過渡的な動脈血圧の低下を示す。よって、sEHを阻害してEETレベルを増加させる事で、高血圧症、アテローム性動脈硬化症に極めて有効に作用する事が期待される。実際にいくつかのsEH阻害薬はアンジオテンシン誘起高血圧モデルラットで薬効を示す上に、ラットの腎保護作用を示し、メタボリックシンドロームを標的疾患にフェーズ2開発(アリート社のAR9281)が進もうとしている。このような背景から、メルクでは、より選択的で経口吸収性の高いsEH阻害薬を指向した。デザインは、ウレアのアナログとしてスピロクロマンタイプとし、とりわけsEH活性を減弱させるCYP2C9阻害を回避し、オフターゲットのイオンチャンネルに作用しないように注意しながら最適化している。左側と右側を別々に合成検討し、見出された化合物1aは強力な活性と良好な動態を示し、実際にエクスビボでも血中のsEHを阻害しており、EETレベルと綺麗に相関、PKPDは十分に思われた。しかし、ここで驚くべき事に、この化合物では、自発性高血圧ラットで血圧低下作用はほとんど観測されなかった。この実験結果は、sEH阻害が本当に高血圧症に極めて有効かどうかに疑問を投げかけている。この報告では、この疑問について、ネガティブな回答を出している、としている。

第2報では、別ケモタイプで強力な活性と選択的を有し経口吸収性と安全性に優れたsEH阻害薬を指向した。ここでサブタイプのmEHはステロイドや生体異物の代謝に重要な役割を果たしているので、安全性の面を考慮してカウンターアッセイにおいている。また、CYP2C9, 2D6, 3A4をカウンタースクリーニグしたが、とりわけCYP2C9はアラキドン酸のエポキシ化によってEETを生成するので、これを阻害すると薬効の減弱につながるのでCYP2C9を阻害しないよう、また、循環器に影響しうるオフターゲットのイオンチャンネル、IKr、Cav1.2、Nav1.5にも細心の注意を払っている。メルクの研究者は、これまでのsEHの報告でこういったオフターゲットの議論がなされてこなかった事は極めて重大な怠慢、手抜きであると表明している。ピペリジンウレアの最適化は左側部分のアリールを6員環では活性が弱く、5員環ヘテロアリールで活性がある事を見いだし、とりわけオキサジアゾール1lで8乗の結合活性とオフターゲットに高い選択性を示した。さらに、側鎖にフェニル基が許容され、ピリジンを持つentA-2dが優れたインビトロのプロファイルを示した。結晶構造とのドッキングから結合様式が推定された。経口吸収性は優れており、エクスビボでも良好な阻害活性を示し、PDマーカーとなるDHETの生成を抑制した。α1アドレナリン作動薬のメトキサミンによる血管収縮作用も緩和した。ところが、この化合物では24時間後もしくは1週間の投薬でも降圧作用は認められなかった。その原因を調査した結果、血管収縮作用を持つ20-HETEが2.5倍以上増加しており、これによってEETの作用が相殺されたと推定された。sEHの阻害が20-HETEの増加につながった原因は不明だが、このターゲットに強力な降圧作用は見込めないと結論づけている。

第3報では、第三のケモタイプとしてピペリジン3位がフェニル基とメチル基で4級化されたリードを最適化している。フェニルウレア部分は元のアニリン構造にケアして電子供与性置換基を避けて最適化し、3位のメチル基には物性改善の為の極性基導入を行い、カルボン酸で活性保持とオフターゲットに対する選択性の改善に成功した。酵素とのドッキングから活性中心のチロシン、アスパラギン酸にウレアが相互作用していると考えられた。この化合物でも降圧作用は確認されなかった。これでメルクで揃えた構造が異なりオフターゲットに対して活性のない3ケモタイプの全てで作用が認められなかった事になる。メルクはこれまでのsEHの報告でこういったオフターゲットの議論がなされてこなかった事は極めて重大な怠慢とした上で、これらがビボで作用を示したのはオフターゲットに由来する事を示唆しており、メカニズムベースではプロミッシングなターゲットでも実際の作用としては発揮できなかったテーマだと結論づけている。一見、チャンスのあるテーマに見えても、PK-PD、バイオマーカーの動きを精査して初めてそれが機能しうるかどうかを証明した好例である。不可解なインビボアッセイ結果が出た際に、それを検証せずに、結果オーライで都合の良いように判断していては、いづれその不合理に行き詰る。サイエンスに関しては徹底して厳しく客観的に評価する。この姿勢は見習いたい。ただし、標的疾患を変えるに際して、ここで合成した化合物は良いケミカルツールになるとしており、その点で利用価値は示されている。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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PDE9Aでも

以前に紹介したPDE9A阻害薬も糖尿病治療薬としてはネガティブバリデーションされた事例。ここでもダーティーな段階の化合物ではビボで効いてしまう事例が示されている。

http://bit.ly/bPoDho
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趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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