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海図なき航海、水平線の彼方へ:100年先の22世紀未来の創薬

Reitz AB. Future Horizons in Drug Discovery Research. ACS Medicinal Chemistry Letters. 2012:120120152046006.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml3000116


<過去100年を振り返り、100年先の未来を考えてみる>
 現在の製薬企業の医薬品生産性は、FDA承認数で評価すると低く見積もられており、その為に創薬化学者の職の数も減らされている。このような状況を念頭に置くと、100年後の創薬は一体どういう状況になっているのか?誰もが不安に思う事である。それを正確に予想する事など不可能であるが、未来の100年を考えるなら、過去100年から現在までの変化を振り返って見るのも一考だろう。100年前の1906年といえば、コカインやモルヒネ、ヘロインが処方箋もなく売られていた時代である。トップ・セラーとなってる医薬品は、ヒ素や水銀のような重金属を含むものさえ存在した。1912年の代表医薬であるポール・エルリッヒの創製した梅毒治療薬サルバルサンは、ヒ素を含んでいる。当初、サルバルサンのヒ素は、二重結合で連結していると考えられたが、100年経った最近の2005年に、それは単結合で連結したヒ素を含む3員環もしくは5員環の環状構造である事が判明した。サルバルサンに至る最適化研究は、現在の創薬の王道でもある構造活性相関研究の幕開けとなった。

<サルバルサンの時代、リピトールの時代>
 これまでで最も成功した医薬品の一つであるリピトールは、既にジェネリックも出始めているが、その売上は14億ドルに達する。リピトールとサルバルサンの創製過程は構造活性相関研究という点では類似しているが、非臨床や臨床でのアウトカムの判断は、両者で全く異なる。規模もコストも全く違う。サルバルサンの場合は、合成から発売まで僅か1年6ヶ月であったが、今では8ー12年はかかる。現在は、投入している研究者の数も費用も圧倒的に大きい。
 サルバルサンが研究された1912年の創薬は、最初の土台となるイノベーションは公的機関で起こっており、企業はその後の開発に軸足をおいていた。その役割分担は今でも余り変わってないように見える。大企業は、基礎研究に資源を投下するのではなく、むしろ基礎研究を中心とした公的機関から技術をライセンスし、共同研究型ネットワークをとり、一方で内部では独自のイノベーションを推進している。かつては一人の創薬化学者の合成検体数は年間30化合物程度だったが、今ではパラレル合成といった技術の発展によって、年間200個以上が合成されてるようになった。

<貧困国、新興国での非伝染性疾病が注目>
 これまでHIVやマラリア、結核のような感染症の新薬が求められ、AIDSに関しては効果的な新薬が登場している。最近WHOはトリパノソーマ症のようなかつてのネグレクト疾患の創薬に注目している。また、WHOは貧しい国や新興国で患者数が増えつつある循環器系疾患、糖尿病、癌、呼吸器系疾患、神経変性疾患のような非伝染性疾病(NCD)についても認識している。2008年の5700万人の死者のうち、63%に相当する3600万人が非伝染性疾病によるものである。2020年には非伝染性疾病の死亡率は15-20%増加し、一方で感染症による死亡率は低下すると予想されている。マラリアの死の恐怖から救われた子供が成長して大人になれば、非伝染性疾病で悩む事になる。
 とりわけ出生率の低下と長寿命化から、たとえば、アルツハイマーや糖尿病、パーキンソン、黄斑変性、ALSのような高齢者の非伝染性疾病の治療薬が求められる。

<原発事故、テロリストからの攻撃による放射腺被曝治療>
 次の100年には、福島のような原発被害やテロリストによる攻撃といった放射線被害の治療法も望まれている。既に、急性放射線症候群(ARS)治療薬として4つの新薬が承認されている。放射腺保護として、ミトコンドリアを活性酸素種のダメージから防ぐ方法が考えられ、神経変性疾患治療薬の一つのモダリティとなっているGSK3β阻害薬といったものが期待される。
 地球上の人口は既に70億人を突破しており、国連の試算によると、女性1人が2人の子供を生むとすると2100年には10億人を突破、2.5人の子供を生むとすると150億人に達すると予想されている。限りある食料と資源の分配が問題となりうる。慢性の非伝染性疾病の治療薬は、今後も重要なポジションを占める。現在の特許法では2112年には、2091年までの新薬は全てジェネリック化している。今後は、低いコストで高品質な医薬品の提供も重要な要素になってくる。

<気候変動に伴う疾患>
 地球温暖化や水面上昇といった気候変動を考えれば、今後もチフスやマラリアのような熱帯病の治療薬も重要な位置づけになるだろう。

<個別化医療と新規技術、未来は予測できないが、予測できない新たな発見がドライバーになる>
 遺伝子スクリーニングの実践によって個別化医療が進むと思われる。より正確な投薬量が、薬物動態のリアルタイム追跡で可能になると推察される。天然物の構造をヒントにした母核の創出も継続される。タンパク・タンパク相互作用や核酸転写制御、フェノタイピング、分子モーターのようなナノテクノロジーの発展、細胞自己修復が医療に貢献していくと想像される。将来は誰にも予想されないが、サイエンスはとてもおもしろくあり、予想外な新奇の発見がドライビング・フォースになるのは間違いない。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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