スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

創薬パラダイム・シフト:プロセス重視からサイエンス重視へ転換せよ

Sams-Dodd F. Is poor research the cause of the declining productivity of the pharmaceutical industry? An industry in need of a paradigm shift. Drug discovery today. 2012;00(00):1–7.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612003674

過去20年の創薬パラダイムであるターゲットベースの創薬は、何千億円の投資の割にはそれほど効果的ではなかったと言われている。なぜこれほどまでに機能しなかったのか?ここでは従来の手法の失敗確率の高い理由を知り、生産性向上のための創薬手法の転換を提案する。たとえば、ターゲット選定の段階で、多くの研究者は選択的な化合物を目指そうとするが、癌のキナーゼ研究を見てもわかるように、薬効を示すのはマルチのターゲットによって複数のシグナルを同時に作用する事に発揮する場合も多い。また、製薬企業では薬効につながる明確なMOAを必要とする傾向にあるが、実際には精神疾患の薬剤のようにMOAが十分に説明できずに使われているものも実際に多い。一見すると理路整然と説明されるMOAも、実際には解釈の仕様によって異なる見解となる場合もあり、また実際の生体内でのタンパクの動きはそれほど単純ではない事も多い。単一メカニズムで最適化した化合物を100種類程度のオフターゲットに対して選択的だと証明しても、他の未解明なターゲットに対する作用があって、それが後々に臨床的に意義がある事がわかる場合もある。ターゲットとMOAが決まれば次はスクリーニングのフローを構築して評価するのであるが、実際にそのスクリーニングが臨床へと橋渡しするものとも限らない。癌細胞の場合、増殖活性の抑制で臨床効果を外挿しようとするが、生体内の実際とはかけ離れたものであるのがほとんどで、ルーチンワークで評価し続ける過程そのものが時間の無駄に終わりかねない。なんとか化合物を選んだとしても、病態モデル動物が臨床成績を正確に予測しうるわけではない。このような不確定な要因が多く、非臨床で実に97%のテーマが失敗してしまう。

現在の創薬パラダイムは明らかに疾患や生物学ではなく、プロセスに焦点を当ててしまった感が否めない。本来重要な事は、臨床での疾患にフォーカスを当てた適切な科学と原理原則を基軸にする事であり、その上でプロセスを構築し直す事である。研究開発の組織再編は重要であるが、どんなに組織を再編した所で疾患の性質を変える事が出来るわけではない。よって組織をどうするかは二の次である。疾患にフォーカスしてプロセスを考慮していく新たな研究パラダイムには、3つの原則を適用する必要がある。その一つはサイエンス・ベースのプロセスである。サイエンスは偏見のない実験と観察の積み重ねによって証明された体系的法則によって成り立っている。ここで注意しなくてはならないのが、大前提になっている教義や仮説を疑わぬまま議論が始まってしまう事が往々にしてある事だ。たとえば、地球は平坦である事を大前提とするなら、その平坦な地上の先から落ちて別の平坦な世界には何があるのか?という疑問が出てくるだろう。しかし、地球の形を認識してその根拠のない思い込みによる前提を払拭できれば、全く違う視点で正しい方向に科学を追求できる。これは創薬研究についても同じ事が言える。たとえば、ある現象が機能するとするならば、それ以外の方向性は考慮しなくなってしまう。その一例として統合失調症の原因はドーパミン過剰亢進に基づくという説が挙げられる。この概念は、Dアンフェタミンがドーパミンを放出させて統合失調症様の症状を発症する事、多くの向精神薬はドーパミンD2拮抗作用を有している事を根拠にしている。ところが、多くの統合失調症患者はDアンフェタミン禁忌ではなく、長期間の向精神薬治療はドーパミン系の亢進を招くとも言われる。しかし、こういった事実は、ドーパミン仮説という教義に背く事になるという理由でほとんど考慮される事はない。つまり、教義は本質的に代替仮説に対して我々を盲目にしてしまう。これはアルツハイマーに関しても同様の事が言える。ある仮説が原理原則の如く扱われて教義化すると、教義に背く事実が無視され、別の仮説が疎かにされ、真実から目を背ける為に科学の進歩が遅れてしまうのだ。教義と化した仮説は聖書の如く神格化され唯一絶対的存在になる。その仮説にそぐわない事実が次から次に出てきても、その原因は別の要因と解釈し、結果的に臨床後期で破綻するまで突き進むまで目が覚める事はない。誤った教義に立脚する仮説は全て誤った方向にしか導かない。地球が球体である事を知って認めるからこそ、科学の新しい道が切り開かれるのだ。また、科学の議論で支配的な要素還元主義的アプローチも注意が必要である。生体内は複数の要素が複雑に影響しあっており、本来、単一要素にフォーカスして生体を理解する事はできない。例えば車のエンジンを理解するには、ドアやミラーからエンジンを切り離す必要があるが、エンジンに重要なシリンダーやボルトの機能を知らずに外してしまうとエンジンそのものを理解できなくなってしまう。薬剤でもマルチターゲットが注目されているのは単一ターゲットでは作用が不十分でも複数の作用によるシナジー効果が期待できるからである。何度も研究を問い続け、実験のデザインを検証しなおす事は意思決定に重要であるが、意外とお粗末にされている。脳梗塞のモデルやフェンサイクリジン誘発の統合失調症陰性症状モデルはラボによって再現性がない事がずっと問題になっている。サイエンス・ベースのプロセスでは、実践と議論を尽くして確証を得ながら洗練していく事が重要である。臨床成功確率は低いので、研究を進める過程でできるだけ多くの仮説をふるいに掛けて、よりよいものが残っているべきである。2つ目の原則は、顧客を知る事である。製薬企業にとって顧客とは患者である。疾患、症状、既存薬の限界を知らずして競合力ある製品を生み出す事はできない。研究者が患者のニーズを知る上でも、医師とのコンタクトをより密にとる事が重要である。3つ目の原則は、リスクを理解する事である。リスクの許容とは、我々がそのリスクに対処するか、すなわちリスクの対応に着手するのか、そうでないならば議論を避けて通るしかない。そもそも創薬は困難なものであり、製薬企業にとって多くのプログラムは道半ばで失敗するのは普通の事である。しかし、注意さえしていれば予測可能で気がつくようなリスクは回避すべきであり、そのような将来の失敗に目を背けた為に、後々にその失敗が起こるべくして起こってはならないのである。数年前に、いくつかの製薬企業は抗不安薬としてmGluR5拮抗薬を検討していた。このMOAは抗不安薬として大いに期待されたが、一方で幻覚や妄想といった精神異常の副作用が懸念されていた。しかし、この懸念はフェーズ1でその副作用で化合物がドロップするまで十分に検証される事はなかった。多くの製薬企業が既知のリスクに対処できなかったのである。どの製薬企業も、最後は「他社もやっているのだから」という共通の理由で研究を進めてしまい、誰もストップボタンを押したがらなかった。無謀なリスク・テイクともいえる製薬企業のバンザイ突撃の結果、臨床試験で起こるべくして起きた問題によって製薬各社が全滅してしまった。このような状況を回避するには、科学的なデュー・デリジェンスのプロセスを実施する事が肝要だ。このプロセスではサポート意見と反対意見によるバイアスのない点検が実施される。このプロセスでは(1)プロジェクトを支援するだけの十分な科学的根拠があるか、(2)簡単な追加実験で不明確な面を払拭できるか、(3)鍵となる仮説は実験によって検証しうるか、(4)チェックポイントで後々のリスクを低減できるか、について決定される。研究者が「疾患の要因は余りに複雑だ」と嘆き、「他にやりようがないから」と、研究者は1つのターゲットに固執して研究を始めてしまう。しかし、その前にほんの少しの時間、疾患の臨床症状を議論し、スクリーニング方法を議論するだけで、解決できる課題もあるという事を知っておくべきである。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。