スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

最優先事項から着手せよ

Roehrig S, Straub A, Pohlmann J, et al. Discovery of the novel antithrombotic agent 5-chloro-N-({(5S)-2-oxo-3- [4-(3-oxomorpholin-4-yl)phenyl]-1,3-oxazolidin-5-yl}methyl)thiophene- 2-carboxamide (BAY 59-7939): an oral, direct factor Xa inhibitor. Journal of medicinal chemistry. 2005;48(19):5900-8.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16161994.

ドラッグデザインの過程では、活性、物性、安全性に関わる種々のパラメーターを充足する候補化合物を探索する。これらパラメーターには簡単にクリアできるものと、制御困難なものが存在する。ターゲットにもよるが、一般に活性は制御可能(置換基変換で向上しうる)な場合が多く、逆に物性(たとえば溶解度)や安全性は切れ味の悪いSARを示す事が多分にある。よって、活性を第一優先に追い求める最適化が行き詰ってしまい身動きがとれなくなる原因は、活性と両立するのが困難な別のパラメーターを制御できなくなっているにも関わらず、活性を落とす事が怖くて、ドラスティックな方針転換、すなわちケモタイプを見直すという作業が出来ない為である。ドラッグデザインで重要な事は、研究者個々人の信条で優先順位を付ける事ではない。制御すべきパラメーターにはヒエラルキーが存在する。そして、各テーマにおいて最も制御しにくいパラメーターを最優先事項に設定し、これらの解決策に集中する事が最善の策となるのである。

ここではその事例ともいえるファクターXa阻害薬でファースト・イン・クラスとなったリバロキサバンの研究開発物語である。ファクターXaは最も競合の激しいターゲットの一つであるが、その初期から中期は薬物動態との戦いであった。ファクターXaはセリンプロテアーゼの一つであり、S1ポケットの酵素活性中心であるオキシアニオンホールと相互作用する為の塩基性置換基が必須と考えられてきた。さらにS4ポケットには脂溶性置換基が必須である為に、その阻害薬はCAD( cationic amphiphilic drug)構造となっていた。この末端の塩基性置換基が膜透過性を落とし、経口吸収性を低下させる事が、製薬各社が薬物動態の制御に苦戦した要因である。バイエルもまたその例外ではなかった。研究当初のリード化合物1は120 nMと活性こそ強いもののS1ポケットに結合するアミジン構造を有していた。アミジンの塩基性を低下させようとしたアミノピリジン系化合物2で活性は8 nMと非常に強力になったが、やはり薬物動態は改善しなかった。他の製薬各社も同様にこの課題を克服できずに行き詰っていた。しかし、バイエルの研究者は、このままでは埒があかないと考え、このケモタイプを諦め、新たなケモタイプを探す方針へと踏み切った。この際に、これまでに取得したSAR情報はケモタイプが変わったとしても活かせると考え、ケモタイプを放棄する事が決して全てが無に帰する事ではないとの考えが勇気を与えたのかもしれない。スクリーニングヒットを見直したところ、化合物3は活性は20μMと非常に弱いながらも、予想外にも従来のファクターXa阻害薬とは異なりアミン性置換基を有していないという事に着眼した。この化合物自体はかつて抗菌薬で検討されていたものであり、ファルマシア(現在のファイザー)の研究者から、これらオキサゾリジノン構造は薬物動態に優れているという情報が報告されていた。ファクターXa阻害薬の最もクリティカルな課題を、このケモタイプであれば解決しうるという事に手応えを得、バイエルの研究者は、先に見いだした化合物2から活性が実に2500倍も弱いヒット化合物3からの最適化へと舵を切ったのである。ここで、早速、前ケモタイプのSARが機能する。リード化合物3はチオフェン部分を有しているが、前ケモタイプにおいて、S4ポケットにはクロロチオフェンが活性に重要な役割を果たす事を知っていた。そこでこの情報をマージし、クロロ基を導入した化合物4で活性は一挙に200倍向上したのである。さらにS1ポケットの最適化には、もはやアミン性置換基は必要ない事を確認し、チオモルホリン部分からモルホリノンへと変換し、フェニル基上のフッ素を除去、見いだした候補化合物はNon-CAD構造で活性は0.7 nMにまで向上し、当初からの課題であった薬物動態を完全に解決し、これをリバロキサバンとして開発したのである。

この研究には二つの教訓がある。一つは、ケモタイプを切り替えた事である。シンプルだが行動に移すのは非常に難しい。実際、上げきった活性と知り尽くしたSARを投げ打って一から最適化するのは勇気がいる。しかし、別のケモタイプは、元のケモタイプでは両立できなかったパラメーターを制御できるものが存在する可能性がある。ケモタイプを複数用意する本来の意義は、このように一つのケモタイプで行き詰った場合に、もう一方では容易に解決できる場合があるからである。逆にいくらケモタイプの数が多くとも、どれも同じ長所と短所を持っているのでは意味がない。もう一つの教訓は、「アミンは活性に必須」という当時のファクターXa阻害薬の研究の常識を疑い、脱却した点である。もちろん、このブレイクスルーの後に、製薬各社は一斉にNon-CAD構造へとシフトしたのであるが、どこもリバロキサバンに追いつく事はできなかった。イノベーションは一度起こると誰もが追随しようとするものであるが、その最初のイノベーターにこそ真っ先に勝利の美酒を味わう権利があるのである。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。