スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

前人未到・未開拓ドラッグスペースの道

Bell IM, Gallicchio SN, Wood MR, et al. Discovery of MK-3207: A Highly Potent, Orally Bioavailable CGRP Receptor Antagonist. ACS Medicinal Chemistry Letters. 2010:100112161743054. Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml900016y.

GPCRでも低分子リガンド探索の難易度の高いクラスBGPCRであるCGRP受容体拮抗薬において、メルクは既に世界に先駆けてMK-0974(テルカゲパント)を偏頭痛治療薬としてフェーズ3開発中である。ヒットに恵まれないターゲットクラスで中枢薬を実現するというのは極めてハードルが高いが、1)HTSから見いだしたリード化合物はプリビレッジド構造を二つ連結したGPCR指向型。分子量も大きく活性も弱いが、独自のライブラリーによって研究のとっかかりを見いだした。2)CGRPペプチドで重要なC末端2残基アラニンーフェニルアラニンジペプチドをプリビレッジド構造の一つがミミック。3)ペプチドアナログのオルセガパントとの重ね合わせ。4)ベンズアゼピンの環除去→再探索。5)マジックフッ素によるプロファイル改善。といったアイデアとブレイクスルーの数々から候補化合物を見いだしている。

一方で本報はバックアップケモタイプとして展開してきたスピロインダンから見いだしたMK-3207の開発物語である。化合物5はビトロでこそテルカゲパントを上回る活性を示すが、ラット、イヌで経口吸収性が良いが、サルでは溶解度を改善する為にPEG400を用いた投与でも吸収性は認められなかった。テルカゲパントではサルで腸管での初回通過代謝を受ける事からこれが原因の一つと考えられた。よって、この代謝の問題解決、さらに溶解度改善を目標に分子の極性を高める方向性で最適化を検証した。なお、サルでPKーPDを確保しなくてはならない理由は、テルカゲパントでもそうだが、CGRPは種差があり、ヒト、サルはイヌ、ラットに比べて1500倍もの差がある為である!ここでの議論では出てこないが、毒性試験をどのように組んだか気になる。最初のアプローチとして、ラクタムに酸素原子を導入(化合物7)、功を奏して活性向上、ジメチル基をジエチル基(化合物8)にすると活性はさらに向上、一方でClogPは1以上高まっているにも関わらず、当初の極性向上と逆行しているにも関わらずラットでの経口吸収性はむしろ改善し、クリアランスは低下している。このパラドキシカルな結果の理由は後に検証される。フェニル基上にフッ素導入(化合物9)でさらに活性向上、ラットでの経口吸収性は59%まで改善。化合物9でさらにイヌ、サルのPKを検証したところ、サルでは相変わらず動態が悪い。サルでの腸管初回代謝の影響、さらにこれが飽和するだけの十分な溶解度が稼げていないと推定、そこで溶解度改善の為に酸素原子をさらに窒素原子に変換したところ、化合物10でサルでの経口吸収性が確認された。ただ、モルホリノン→ピペラジノンの変換で脂溶性が下がっているにも関わらず、経口吸収性は低下。先の脂溶性向上と経口吸収性向上の関係も合わせてこの相関を理解する事を目的に化合物プロファイリングしたところ、脂溶性の低下はタンパク結合のフリー体分率が高くなる要因であり、代謝を受けやすくなって経口吸収性の低下を招く事が要因と考えられた。ジメチル基をジエチル、さらに閉環体と検証したところ、ラットフリー体分率は低下し、経口吸収性の改善とクリアランスの低下が確認された。なお、PKとフリー体分率の相関はイヌ、サルでは認められず、動物種で差の小さな化合物、すなわち化合物4をMK-3207を開発化合物に選定した。この化合物は、サルでは20 mg / kgで腸管代謝の飽和を受け、その経口吸収性は41%となった。ビトロの活性は20 pM、HS添加の細胞系でもシフト値は小さく0.18 nM、経口CGRP受容体拮抗薬としてこの活性は世界最高値である。

結論直前の議論はなんとも感慨深い。この部分を読むと、改めてクラスBGPCRのリガンド探索が如何に困難か、その中で多くのハードルをクリアしてきた研究の変遷を感じ取る事ができる。注射剤のオルセガパントがリピンスキーガイドラインに乗らないのは良しとしても、メルクの最初のヒット化合物2は低リガンド効率、高い分子量、水素結合ドナーアクセプター数も多ければ、脂溶性も高く、PSAも大きく誰もが喰わないようなプロファイルである。その中で、GPCR研究最強とも言えるメルクのナレッジを集約し、見いだされたテルカゲパントおよびMK-3207はリピンスキールール、ベーベルルールにも抵触していない。さらにリガンド効率は倍増している。メルクのケミストが細心の注意を払って分子量は大きくせず、水素結合を減らし、PSAと脂溶性を低下させるようにデザインしている事が強調されている。一方で、いわゆる中枢薬ガイドラインには大きく逸脱しているが、実験事実として脳内濃度は十分に担保されており、メルクはガイドラインを「ドグマ」とせずに、エンピリカルに検証している事も忘れてはならない。難易度の高い研究に挑戦する事で、前人未到の未開拓ドラッグスペースを実地検証的に切り開いたのである。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。