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R&D効率と生産性改善を

Paul SM, Mytelka DS, Dunwiddie CT, et al. How to improve R&D productivity: the pharmaceutical industry's grand challenge. Nature reviews. Drug discovery. 2010;9(3):203-14.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20168317.


審査当局のハードルが年々厳しくなる中で、製薬会社の新薬創出力はより強靭なものにしていく必要がある。今こそ、その改革を実行すべきである。ここではリリーのマネージメントオフィスから研究開発の新たなビジネスモデルを提案する。創薬の成功確率から算出されて膨れ上がったテーマの数は、それを可動させる為のコストとサイクルタイムを肥大化させ、限りあるリソースは分散し、生産性はむしろ悪化してしまう(Fig. 2)。そのビジネスモデルを見直すには、生産性を効率性と効果性のファクターに分類して考察する必要がある(Fig. 1)。この際、研究開発の各段階のコストに対して効率性の増減が研究開発費に与える影響を調べると、Fig. 3のようにトルネード状のグラフを与え、フェーズ2の確度が最も影響を及ぼす事が見て取れる。フェーズ2以降の成功確率を向上させる事ができれば、逆算されるフェーズ1スタートの年間化合物数も必然的に少なくて済む(Fig. 4)。フェーズ2以降の確率を高める為には、フェーズ2に入るまでに高いハードルを設定して、それ以降の化合物数を絞る必要がある。ここでの「高いハードル」とは、各ステージで厳しく審査するというのではない。テーマは、バリデートされドラッガブルであるのが望ましいが、先行品が臨床入りでもしていない限り、その可能性は未知なので、バリデートし、ヒトでのPOCを獲得する為にも、そこまでの研究段階は、加速させる。ただし、フェーズ1の段階で、薬理作用や安全性予測も検証しておき、ここで高いハードルを設定しておく事で、臨床後期に進む化合物の質を高める。こうして成功確率を向上させてコスト削減した分は、初期段階の研究の加速に投資する事でスピードを獲得する(Fig. 5)。これが、生産性向上の為の新たな研究開発パラダイム「スピードある勝利、潔い撤退(Quick win, fast fail)」である。Fig. 3を見ると明らかなように、研究初期にかかるコスト効率が新薬創出にかかる費用は微々たるもので、ましてやこの段階でテーマの質を判断するのは不可能に近い。よって、研究初期の段階は多少のリスクはテイクして、研究を進める過程でエンドポイントを達成できるか、未達か、懸念される問題点が出るか出ないかで見極めていけば良い事が理解できる。一方で、テーマ数を増やしすぎると、先の論理で、コストとサイクルタイムを圧迫してしまうので、研究規模に見合ったテーマ数と優先順位をディシジョンしなくてはならない。化合物の質は候補を選定した段階で決定する、テーマの質は臨床で確定する、そこに至るまではスピードが重要となる。質を高めるには、研究費を絞るのではなく、開発費を絞って効率化を図るべきである。質に拘るならば、投資すべきは研究に対してである。

以下に内容を抄録する。
ーーーーーーー
危機に瀕した製薬会社はビジネスモデルをどのように改革していくか、空前絶後の大きな課題に直面し、岐路に立たされている。現場経験者や工業アナリストは、その差し迫る崩壊を予測している。過去10年の深刻な問題は、製薬会社の誠実性や透明性(たとえば医薬品の安全性と薬効といった)に対して厳しい関心が寄せられ、企業イメージは傷つけられ、結果として審査当局の監視の目が厳しくなっている事である。企業に対する信頼は腐敗し、その製品は患者、ヘルスケアのプロ、株主にはほとんど響く事はない。実際にS&P500の株価はなんとか維持する程度か徐々に低下しているのが過去7年の実態である。企業の利益や成長予測はヘルスケア予算のプレッシャーにさらされており、ますます厳しさが増している。ジェネリック医薬品はアメリカで処方される薬の70%に迫ろうとしている。さらに2010?2014年の間には屋台骨であるブロックバスターの特許が切れ、2090億ドル(およそ20兆円)の売上が危機に曝されており、1130億ドルがジェネリックに置き換わると推定される。現実問題として、製薬会社には研究開発の生産性は劇的には向上していないので、特許切れの損失を補うだけの十分なイノベーションを起こす事が出来ていない。その最大の要因は、FDAを中心とした審査当局から承認されるイノベーティブな新薬の承認数が減っている事にある。2007年に承認された新薬は19個で1983年以降で過去最低、2008年で21個、そのうちトップ15製薬会社で排出した新薬は僅かに6個、ファーストインクラスは全体の29%、2009年では24個の承認薬のうちトップ15企業からは10個、ファーストインクラスは全体の17%にとどまっている。新規メカニズムベースの新薬数は、ここ5?6年フラットだが、膨大に注ぎ込んだ研究開発費を回収できるだけの画期的新薬は激減してる。年間に大企業だけでも500億ドル(5兆円)の研究開発費を投じ、一つの新薬を創出するのに18億ドル(1800億円)を注ぎ込んでる。また、大企業とバイオテクで新薬を創出するのにかかる経費の平均値も大きく異なる。研究開発費の生産性の低下は、製薬会社にとって氷河期へと突入する事を意味し、いよいよ新薬は患者の手に届きにくくなる。イノベイティブな新薬を上市する事で人類の平均余命は伸びると考えられ、今後は癌やアルツハイマー治療薬によってさらに寿命はのびると期待されるが、新薬創出が困難になる一方で、糖尿病や小児肥満といった現代病は増え、実際には平均余命は低下するかもしれない。このような状況にあって、研究開発の生産性改善は非常に重要な問題であり、生産性を低下させているボトルネックとなっている問題をあぶり出して、如何にして質の高いイノベーションを効率的にコストエフェクティブに創出していくかを議論する必要がある。


<研究開発の生産性の定義>
 研究開発の生産性は、インプット→アウトプットで定義される“研究開発効率性”と、アウトプット→アウトカムで定義される“研究開発効果性”の二つの要素で説明される(Fig. 1)。
 “研究開発効率性”は、インプット(たとえば、アイデア、投資、努力)をアウトプット(プロジェクトもしくは上市に至る不確定要素を解消する為の企業内マイルストーン)するシステム能力を示す。
 “研究開発効果性”は、アウトプットに患者や医者、市場価値を付与したアウトプットを生産できるシステム能力を示す。
 研究開発生産性は式(1)

PαWIP×p(TS)×V / CT×C

P:生産性、WIP:work in process(臨床開発化合物数)、p(TS):各段階での成功確率、V:価値、CT:サイクルタイム、C:コスト

で示される。たとえば、分子のファクターが大きければ生産性は高く、分母のファクターが大きいと生産性は低い、と計算される。候補化合物が1つではWIP=1、成功確率(pTS)、サイクルタイムを短く、コストを低くする事で生産性は向上する。
 しかし、これらのファクターはいづれも表裏一体である。たとえば、WIP(化合物数)が増加すると、必然的にC(コスト)やCT(サイクルタイム)も増大し、生産性を低下させる。

<研究開発生産性モデル>
生産性向上への努力には、二つの重要な疑問、すなわち1)どの要素が最もインパクトが大きいか、2)どうすれば改善し、向上できるか?に取り組む必要がある。これらに回答を出す道標として、大企業が新薬1つに必要とする資本化費用を18億ドル(約1800億円)として換算し、新薬創出の経済モデルを構築した。このモデルは製薬トップ13企業がベンチマークフォーラムで構築したデータに基づいている(Fig. 2)。しかしながら、飽くまでこれは一つのモデルで、新薬創出に必要とするコストはビジネスモデルと、どの領域にどれだけ力をいれるかによって変化する。ここでのモデルに従うと、いくつかの重要な実態が見えてくる。
1)臨床開発費は新薬創出の全体の63%を占め、フェーズ2以降で53%、非臨床は32%である。しかし、非臨床はターゲット探索、選択段階でのコストを排除している為に、過小評価している可能性がある。ターゲット探索研究は常に変化し、定量化が難しいが、ターゲット選択はp(TS)(成功確率)を決定するのに最も支配的で、研究開発の生産性全体に影響する。
2)現実問題として、C(コスト)、CT(サイクルタイム)、p(TS)(確率)、WIP(候補化合物数)を元にすると、候補化合物が発売される確率はせいぜい8%程度である。バイオ医薬品は低分子より多少は確率が高いと考えられるので、低分子は7%、バイオ医薬は11%と想定される。
3)新薬の研究・開発時間は平均して約13.5年である。
4)このモデルを元にすると、毎年1個の新薬を上市するには、毎年9個を臨床入りさせなくてはならない。ほとんどの大企業は、年間2?5つの新薬承認を目指すので、毎年18?45化合物のフェーズ1開始が求められる。しかし、こういった目標値は、よほど大きな製薬会社でも厳しい。ここ数年は、WIP(候補化合物数)減少がパイプラインの脆弱さを招いている。一つの新薬を創出するには、研究レベルでは、ターゲット探索の段階で25個のテーマが必要、20個のヒットトゥリード、15個の最適化段階が必要である。

 最近では、フェーズ1のベンチマーク資料から、どこの製薬会社も研究初期段階での投資を増やしており、フェーズ1入りしている個数は増えている。しかし、それらがフェーズ2、3に進む数は不十分である。ここで構築したモデルを使って、どのパラメーターでコストがかかるかを検証した。ここでは、p(TS)(成功確率)、CT(サイクルタイム),C(コスト)をそれぞれの段階で検証し(Fig. 3)、どこを変えれば生産性改善にインパクトが大きいかを調査した。

<研究開発生産性改善の鍵となるエリア>
 このモデルでは、Phase-IIのp(TS)(成功確率)は34%(66%はフェーズ3にいけず)、p(TS)が25%に落ちると新薬創出コストは23億ドルに増加。逆にp(TS)が50%ならコストは13億ドルに抑制可能(Fig. 3、最上段)。フェーズ3のp(TS)を80%に出来れば、コストは12%カットできる(Fig. 3、2段目)。試算どおりにフェーズ2,3のp(TS)を改善すれば9億ドルのコストカットが見込めるし、生産性と効率の改善がフェーズ2、3の成功確率向上に大きく依存している事は明白である。ところが、不幸にも実際にはフェーズ2や3での成功確率は上がっていない。その理由は、新規メカニズムの思いがけない作用、また高い安全性が求められる疾患、リスクベネフィットバランスが影響している為と推定される。

(Work in process (WIP)(開発化合物数))
 Phase-II, IIIのp(TS)を改善させればPhase-Iに求められる化合物数は減らす事ができる(Fig. 4)。p(TS)(phase-II)25%, p(TS) (phase-III)50%では17個の開発品が必要だが、これをp(TS)(phase-II)50%, p(TS) (phase-III)80%にする事で、6個に減らす事ができる。WIP(開発化合物数)をいたずらに増やしても、リトル則に従ってCT(サイクルタイム)が増加して致命的打撃を受けてしまう。製薬会社は最も効率的な開発化合物数をイメージしておく必要がある。製薬会社が劇的なコスト増加をせずにWIPを増やす事が可能か?まず、十分な数のWIP(化合物数)をテーマ初期段階で増やし、これらで見出された化合物が簡単に開発後期に進まないように見極める事で、コストを抑制できる。臨床後期でドロップする確率を下げる一つの方法の一つは、フェーズ1のアーリーな段階で、POC検証する事である。フェーズ3のドロップする確率を低下して確保したリソース(C)は研究とPhase-I/IIに再投資できる。最も重要な事は、理想的にはPhase-IでPOCをとり、Phase-IIで確証を得たものだけをフェーズ3に進め、薬効と安全性マージンを追跡すべきである。フェーズ3では、非常にレアな思いがけぬ毒性でのみドロップするが理想的である。C(コスト), CT(サイクルタイム)を増大させることなく、WIP(開発化合物数), p(TS)(確率), V(価値)を高めることが、すなわち研究開発の生産性向上につながる。これを達成するには、自前で全てをコントロールするFIPCo体制から、高度にネットワーク化、パートナー化、レバレッジド化(他社資本によるてこ入れ)したFIPNet体制へと組織変革する必要がある。伝統的に大企業は、研究、開発、製造、販売までを自前で行ってきた。しかし、今日では、協調的でグローバル化したネットワークを使って実質的に研究開発の全ての要素とパートナーを構築できる状況にあり、FIPNet体制は研究開発生産性を根本から改善しうる。FIPNetは、理論的には知的財産、分子、能力、知識、そして才能にもアクセスしうる。FIPNetによるオペレーションは、研究開発組織を見た目のサイズ以上に機能化することができる。FIPNetはこの論文でのメインテーマではないが、ファンクションベースのアウトソーシング(毒性、開発など)は多数存在し、コストやサイクルタイムを削減し、分子ベースでリスクを共有するパートナーシップもありえる。共通した失敗はV(価値)やp(TS)(確率)を考慮せずにWIP(候補化合物)を増やす事に集中する事である。これは、評価制度やものさしをWIP(化合物数)の数にのみ集中させたときに起こりえる。V(価値)やp(TS)(可能性)を向上させずにWIP(化合物数)を増やしても、アウトプットは増えるかもしれないが、コストもかさんで生産性が向上しているとはいえない。V(価値)とp(TS)(可能性)が向上していれば、アウトプットの価値も向上し、WIP(化合物数)の数も少なくて済む。

(Value(価値))
 医薬品研究開発の効果性は、その時代のニーズ、経済的波及効果などで定量化され評価される。よって、研究開発の効果性は、テーマ初期の段階で理解しておくことは非常に重要となる。医薬品でリスク・ベネフィットの係数がその値打ちを決める。薬効が強く安全性が高いほど、価値が高く、パーソナライズされ、タイラー仕様に向いている。テイラーメイド治療には診断薬が必要であり、バイオマーカー探索が重要となる。バイオマーカーは患者を正しく選ぶことが出来、副作用リスクのある患者への処方を回避できる。バイオマーカーを使いこなすことで、臨床後期でのpTS(可能性)の改善が可能となる。バイオマーカーがあれば、適切な患者を選ぶことができるので、コストを削減する事にもつながる。

(C(コスト))
 研究開発でのコストは大きく3つに分類できる。すなわち、付加価値業務への投資、非付加価値業務への投資、諸経費である。新規技術(ソフトウェアツールや研究所自動化)への投資は、コスト削減になるが、退屈でコストのかかる方法は排除するように気をつける必要がある。しかしながら、コストは累積されていくものかもしれない。サイクルタイムの削減では、シックスシグマのようにプロセス改良法がコスト削減にも使える。人件費の安い外部リソースを使っても、コストを削減できる。非付加価値業務を特定し、排除する事はコスト削減になり、サイクルタイムの改善につながる。諸経費は研究開発のポートフォリオ全体に存在し、増加傾向にあり、結果としてコストに影響する。

(Probability of technical success (p(TS))(成功確率))
 フェーズ1の成功確率はガイドラインと予測の充実で向上しているが、フェーズ2、フェーズ3では薬効不足、安全性マージンでドロップしており、十分に予測できるものではない。フェーズ2、3のドロップの確率を下げるには、二つの方法が考えられる。一つは、ターゲット選択(よりバリデートされた、ドラッガブルターゲット)、第二はルーチンで臨床での早期POC獲得である。とりわけ、フェーズ1でバイオマーカー、サロゲートエンドポイントが利用できる。これらを達成する為にどうすれば良いか?ターゲット選択は上市の15年前から予測する必要があり、非常に難しい。プロテオミクス、ゲノミクスを利用してそれらを予測し、ターゲット探索するのだが、それらのほとんどが功を奏していない。また、ターゲット選択はフェーズ2、3の失敗確率にも影響している。これに関しては、出来る限り早くフェーズ1に入れてPOCを確認する事である。最近の成功事例として、PCSK9の阻害がLDLコレステロールを低下させスタチンと同等以上の活性を持ち、安全性に優れいている事を確認した、という事例、もう一つにはNav1.7でノックイン・ノックアウトでフェノタイプが確認され、早期にフェーズ1でヒトでのPOCを確認した、という事例がある。これらのアプローチは、フェーズ2以降のp(TS)(成功確率)を向上させうる。このような手法を「スピードある勝利、潔い撤退(quick win, fast fail)」パラダイムと称する(Fig. 5)。そもそも成功確率の低い研究開発である以上、止めるなら早く、コストを低くおさえるのが良い。研究開発のスイートスポットはフェーズ2前までで、バリデートターゲット探索に資材を注力し、成功確率の高い開発化合物を創出する事を提案する。しかしながら、本手法で注意すべき点は、早期見極めの為にフォールスネガティブPOC(タイプ2エラー)のリスクが高まるので、アディショナルな試験によって不確定要素は検証しておく必要がある。
創薬パラダイムが「Me -too」もしくは「Slightly Me-better」から「一つのイノベイティブな新薬」へと変化している現在、ここで示したビジネスモデルに沿って、資源(金と人材)を再集中化させる必要がある。また、製薬会社の生産性はここで示したモデルで全てが補えるわけではなく、むしろほとんどの場合で先見性ある科学的創造性、セレンディピティにも大きく依存してる事を忘れてはならない。そして、筆者が最も重要だと考えている事は、研究開発に成功するどんな製薬会社にとって、ドラッグターゲットの最初の選定から臨床デザインに至るまで、科学的、もしくは臨床での直感に置き換わるものはない、という事である。よりシンプルに言えば、優れた「プロセス」が、優れた「ヒト」と優れた「科学」にとって代わる事は決してない、という事である。そして、筆者は、優れた「プロセス」と優れた「科学」は両立しうると確信し、これらは共に、研究開発の投資に最大の恩恵を与えてくれ、研究開発の生産性に最大のインパクトを与えるものと信じてる。

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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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