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多元作用標的総論

Morphy Richard; Rankovic Zoran. Chapter 27.pdf. Elsevier; 2008:549-571.
http://dx.doi.org/10.1016/B978-0-12-374194-3.00027-5

Morphy R. The influence of target family and functional activity on the physicochemical properties of pre-clinical compounds. Journal of medicinal chemistry. 2006;49(10):2969-78.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16686538.

Morphy R, Rankovic Z. The physicochemical challenges of designing multiple ligands. Journal of medicinal chemistry. 2006;49(16):4961-70.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16884308.

Morphy R, Rankovic Z. Designed multiple ligands. An emerging drug discovery paradigm. Journal of medicinal chemistry. 2005;48(21):6523-43.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16220969.

多元作用標的薬のデザインを体系化しようと試みるリチャード・モルフィが、2005-2006年のJMCで報告してきたその考え方を、the practice of medicinal chemistryの27章で総説として示している。実際のところ、医薬品はマルチターゲットに作用しているものが多い。それらのほとんどがセレンディピティか後々になって明らかにされたものであるが、ここでの狙いはある程度合理的にドラッグデザインするというものである。最初に、コンセプトと、このアプローチのメリット、デメリットが述べられ、その後に具体例が示されている。多元作用標的薬を狙う上で、1)共通の標的疾患で、2)複数のターゲットに作用しうる化合物が存在し、3)そのターゲットはクラスエフェクトの懸念がないバリデートターゲットで、4)その化合物がドラッグライクである、という制約を受ける。2)に関してターゲットクラスについての知識を、4)には構造から安全性面や薬物動態面でのリスクを予見する知識を有する熟練されたメディシナルケミストが対応する必要があり、シングルターゲット以上に難易度は高くなる。加えて、作用、もしくは副作用はシングルターゲットの単なる足し合わせで説明できない点が、このテーマの不確定性を高めている。よって、薬理と化学が十分にテーマを検討した上で研究をスタートさせなくてはならない。なお、2)に関して、モルフィは上述のJMCの中で、ターゲットクラス毎にその低分子リガンドの物性(分子量、脂溶性、PSA、水素結合数といったパラメーター)を分類しており、どのターゲットがどのようなドラッグスペースを占めるかの系統的理解の手助けになる。これに関しては、多元作用標的薬を狙う際のドラッグスペースの理解のみならず、ターゲットクラスのドラッガビリティから難易度を把握する上でも重要な情報なので、是非とも参考にしたい。

以下は、ここで紹介されている多元作用標的薬の実例である。
A)SERT+別ターゲット (抗鬱薬)
1) SERT活性のある化合物1のアルコキシインドールをベンジルに変換、ジメチルアミン側鎖をスピロピペリジンにする事でセロトニン1A活性を付与してデュアル作用薬2とした(経口吸収性65%、良好な中枢移行性)。
2) SERT活性のある化合物3にセロトニン1Aに特徴的なアリールオキシエチル基を組み合わせてデュアルとした化合物5。分子量は358。
3) HTSを利用してSERTとNK1に活性のあるヒット6を最適化したデュアル拮抗薬7。

B) Dopamine D2+別ターゲット(統合失調症治療薬)
コンセプトはハロペリドールのD2は統合失調症の陽性症状で作用があっても陰性症状では薬効を示さず、一方でクロザピンは陰性症状でも作用を示すので、この作用をドーパミンに加えて陽性、陰性共に作用を示し、体重増加といった副作用を切り離そう、というもの。目指すプロファイルは、セロトニン2がドーパミンより10倍以上としている。
1) ファイザーが2001年に発売したジプラシドン11の例。セロトニン2活性を有する9にドーパミンのアイソスターを連結、得られた10はドーパミンそのものの作動薬活性が拮抗活性に切り替わり、セロトニン2との活性を両立していた。最適化されたジプラシドンのドーパミン/セロトニン2活性はクロザピンと同等程度、ドーパミン/α活性はクロザピンより低く、クロザピンに比べて起立性低血圧のリスクを低減する事に成功した。
2) クロザピンのD4, D2のバランスが薬効に重要との仮説の元、化合物12からD2/D4デュアル作用のみを有しアルファなどのオフターゲットの活性を除去した化合物13を合成。動物モデルではデュアル作用のPOCが取得された。今後、臨床でのPOCが待たれる。
3) 統合失調症に関わると推定される5つのターゲットに作用する14を最適化して、15を見出す。

C) アンジオテンシン系多元作用標的薬(抗高血圧)
1) P2'にプロリンアミドが重要なACE阻害薬カプトプリルとP1'に脂溶性置換基が重要なNEP阻害薬をハイブリッドした化合物18でデュアル阻害作用を示し、最適化された19のオマパトリラットはナノモルオーダーのデュアル阻害作用を示し、良好な動態とインビボ作用を示した。
2) AT1のイルベサルタンとエンドセリン拮抗薬B-290670がビフェニルを共通構造に有する事に着目、これらをハイブリッドさせた化合物22はデュアル活性を示し良好な薬物動態を示した。

D)ヒスタミン1+別ターゲット(アレルギー)
1)内因性リガンドがモノアミンのヒスタミンと脂溶性カルボン酸のトロンボキサンA2は物性面で全く異なるが、これもうまくハイブリッドさせれば(25+26)、両立した化合物27となる。
2) 同様にヒスタミンH1のセチリジン29と5-LOX阻害薬CMI-977をハイブリッドさせた化合物31。

E)アセチルコリンエステラーゼ+別ターゲット(アルツハイマー)
リバスチグミンにSERTのフルオキセチンもしくはMAOのラサギリンをハイブリッド。

F)PPARαγ

G) キナーゼ阻害薬(癌)
ファイザーのスーテントをはじめとしたマルチキナーゼ阻害薬。

H)アラキドン酸カスケード阻害薬(抗炎症)
1)COX-2のセレコキシブと5-LOのZD-2138をハイブリッドさせた化合物49は強力なデュアル阻害作用を示す。
2)ベーリンガーの研究者らは、トロンボキサンシンターゼ阻害薬イスボグレルは、酵素のP450にピリジン部分が配位していて、そこからカルボン酸は8.5-10Åの距離に配置すれば良いとの作業仮説と、トロンボキサンA2受容体拮抗薬のダルトロバンはスルホンアミドから適当なスペーサーを介してカルボン酸があれば良い、との仮説から、二つの構造をハイブリッドしてサミキソグレルを見出した。

ジプラシドンがうまくいった理由の一つに先行品の非定型薬クロザピンによってターゲットがバリデートされると同時に問題点が明確である点があげられる。ハロペリドールをパーシャルへと変換して活性のバランスを変換した大塚のアリピプラゾール、トピメラートを改良したJ&JのJNJ-2690990(Phase-II)のいづれも先行する発売品の存在が研究指針を決めている。ただ、発売品を改良したとしても、現在の審査当局の安全性基準は非常に高いのでそれもクリアしなくてはならない、という事情は注意したい(たとえば、ハロペリドールが発売された当時と現在の審査基準は異なる。発売品のハロペリドールやクロザピンすらも現在の審査基準では承認されるとは思えない)。ほとんど議論の対象になっていないが、構造から毒性面が懸念されるものも多く見受けられる。モノアミン系化合物はhERG阻害やホスフォリピドーシスが懸念される。マルチターゲットを狙う場合、リスク/ベネフィットバランスで、ベネフィットが強調されるアンメットメディシナルニーズとなる疾患もしくは、癌やHIVのような急性的疾患に絞った方が良いかもしれない。

多元作用標的を進める上で解決する必要があるであろう問題点を以下に列挙。
1)将来的に、世界および日本における許認可(FDAなどの指針など)の変更を伴う重要な事項が開発を進める上で問題として浮上する事が懸念される。仮に、単一ターゲットでない医薬品開発の基礎研究をクリアできても、臨床上の評価や審査評価にはいくつもの困難が想像され、現況の政府・国の許可制度をどのように変え、どのようにしてクリアするかが今後の問題になると推定される。これら許認可システムの変更を迫るためにどのような生物・臨床データを具体的に積み上げて行くシステムのことも考えておく必要がある。
2)シングルターゲットの場合でも作用、効果は単純でない中で、多元型の化合物で生物作用・効果、臨床効果・結果を明らかにし、証明していくことは、きわめて煩雑で、労力を含め研究費が高くつき、評価に時間がかかる事が懸念。
3)生物評価をどのようにするか?疾患治療に対して何の効能・効果を主作用とし、指標として評価するのか?その際、既存の薬剤との比較をどのようにおくのか? もし既存薬がないとすれば、全く新しい複数の作用の効果・効能の強さの順位付け、特徴づけなどを明らかにし、クリアしなければならない問題がたくさんでてくると思われる。当然のことながら、既存薬がある場合は既存薬との薬効の比較評価も大切になる。
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テーマ : 科学・医療・心理
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