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臨床の主役/物性は影法師の如く

Lipinski CA. Chapter 22.pdf.; 2008:481-490.
http://dx.doi.org/10.1016/B978-0-12-374194-3.00022-6

ルール・オブ・ファイブの提唱者であるクリストファー・リピンスキーがthe practice of medicinal chemistryの中で創薬と化合物の物性/性質についてまとめているが、これを読んでいると、創薬に携わる研究者が物性の悪い化合物を作ってしまうのは、あたかも必然性によるのではないかとさえ感じてしまう。その上で、そのサガを乗り越えて物性の良い化合物を作れと、強調しているようにも思える。

ここで述べられている事を理解したとしても、現場に戻ると、活性という魔力に引きずられて、今までのように物性の悪い化合物を作ってしまいかねない。その事を、リピンスキーは冒頭でエリック・ホッハーの言葉を取り上げて警告しているようにも思える。

"Our achievements speak for themselves. What we have to keep track of are our failures, discouragements, and doubts. We tend forget the past difficulties, the many false starts, and the painful grouping. We see our past achievements, as the end result of a clean forward thrust, and our present difficulties as signs of decline and decay" Eric Hoffer

【われわれがやってきたことの中にすべてが語られている。われわれが守らねばならない道筋の中にわれわれの間違い、落胆、そして疑いがある。われわれは過去の困難を忘れようとし、その多くの失敗がはじまる。そしてその痛みを捜し求めはじめている。われわれは過去の成果をぬぐい捨て、きれいさっぱり前向きになって押し進めるための最終結果と見なし、そしてその衰退と堕落の兆しとしてわれわれの現在の困難さを見ている。 
Eric Hoffer】

このような状況を打破する為に強い信念を持って研究をしなくてはならない。

前臨床研究では、どうしても活性が主役になりがちである。しかし、常に、物性と安全性は影法師のように化合物につきまとっている。そして、臨床に上がった途端に、主役として躍り出て、その化合物の開発を阻止しようとするのである。

活性という誘惑に引きずられずに、物性面に意識を向ける事は、創薬の困難さの一つなのかもしれない。


以下に本文から要所をピックアップ。
-------------

I. Introduction
 経口薬の物性は今も昔もそれほど大きな違いはない。FDAから認可された化合物の分子量は350程度。
 臨床には溶解性といったクリアすべき物性が求められるが、過去10年に臨床に上げた化合物の物性は、昔に比べて変化しており、Ro5のなんとかギリギリのドラッガブルな化合物で勝負している。
 より困難なテーマに、より規模の大きなHTSを行うのか、FBDDをとるのか?


II.Combinatorial Libraries
 合成には、1)効率的に数多く合成するのか、1)難しい合成でも物性を重視するか、の綱引きとなるが、どのようなバランスで行うかは研究者次第である。

A. Library design for HTS screens
 デザインした化合物の全てが合成できるわけいではないので、通常は多めに合成しようとする。化合物の物性は母核と置換基で決まる。最近は、一つの母核で1000個つくるより、10個の母核で100個ずつ作るスモールライブラリーにシフトする事で、多様性を獲得するようにしている。

B. Experimental synthesis succeess rate
 ライブラリー合成は、成功率を向上させるために、実験可能性の高いライブラリーになりがちで、そのせいで溶解度を含めた物性面の低い化合物になってしまいがちである。脂溶性基を入れるのは簡単だが、一方で極性基を入れるのは、反応性も低く、保護・脱保護を必要とするので、より面倒となる。また、有機溶媒に解けないファクターはライブラリーの質を偏らせて悪くしてしまう。

C. Poor solubility and library design
 溶媒和と結晶性→水素結合ドナー・アクセプターが関与→ライブラリーは脂溶性が高く、水に溶けないものになっていく
 有機溶媒への可溶性とライブラリーの多様性を考慮すると、合成検体は脂溶性が高く、分子量は大きくなりがちである。これらはRo5の最悪の組み合わせとなって水溶性の低いライブラリーができあがるのである。
 承認されている非水溶性化合物は、溶けない要因は溶媒和にある(greaseball)。これはgrease ballは製剤で解決可能であるからである。一方で溶けない要因が結晶性の場合、化合物は承認されにくい(brick dust)。

D. Importance of the synthesis rate-determining step
 ADMEのよいライブラリーを作れるどうかは、1)プロトコールを組めるのか、2)化合物があるか、にかかっている。良い化合物ができれば、そこに至るプロトコールはいくつも提案できるはずである。
 プロトコールを組んでからライブラリー合成をした場合、70%合成完了した後にADMEが悪いとなっても、もはや引き返す事ができない。よって、ライブラリー合成をする前にいくつかの評品でADMEプロファイルを調べておく事が重要である。

E. If protocol development is rate determining
 理想的には、既に合成経験のあるADMEの判明している化合物のケミカルスペースを埋めるのが良い。一方で、最も効率が悪いのは、ライブラリー合成を最適化し、最終段階でADMEプロファイルをする事である。

F. Poor ADME properties - business aspects
 購入可能なライブラリーには、1)ケミカルツール用と、2)ADMEの良いドラッガブルなライブラリーに分類できる。物性の悪いライブラリーでも安価であれば30%程度のニーズはまだ存在する。
 まず、選択性のあるリードがないと何もできない。しかし、物性を無視してケミカルツールを見つけたとしても、あとでADMEで苦労する事になる。そうでないならば、そもそもこのようなテーマは選択しない。

G. If library production is rate determining
 既に化合物があるのであれば、ADMEの結果に従って優先順位を決定すれば良い。

H. Relative importance of ADME assays
 ADMEの中でも、最も制御しにくい物性を重視すべきである。制御しやすい物性は、ケミストがSARをとってコントロールできる。制御可能なパラメーターが悪いからといって、そのライブラリーを捨てるのは得策ではない。


III. Chemistry Control of Intestinal Permeability
 膜透過性は制御しにくい物性である。しかし、コンビケムライブラリーでは、大きな問題にならない。極性官能基を外せば済むからである。
 膜透過が悪いと製剤でも解決はできない。

A. Improving permeability
 PSAとHBA, HBDの数が指標になる。PSA < 120Åもしくは、<140-150Åが基準。ただし、pKa, log D < 0は例外。イオンが非局在化していればOK。

B-C. Hydrogen bonding and permeability, Intramolecular hydrogen bonds
 分子内水素結合は劇的に膜透過性を上げる。制度の良い予測ソフトはない。計算(距離)して推定する程度。

D. Permeability
 膜透過性試験は、PAMPA, Caco-2, MDCKで測定可能。分子内水素結合はPAMPAで判断できる。
 膜透過性試験および計算の目的は、置換基が化合物に与える影響を知り、より良い化合物をデザインできるようにする事である。
 PSAは良いフィルターである。
 ただし、フレキシブルな分子やチャージのある分子、分子内水素結合をしている分子には使えない。


IV. Chemistry Control of Aqueous solubility
 水溶性は制御が難しい。
 水溶性は製剤によって解決可能だが、費用と人件費が嵩む事になる。
 ライブラリーの中で、水溶性は致命的なな問題になりうる。
 log P > 5では75%が不溶性である。

A. The definition of poor solubility
 昔は1 g / mL以下の溶解度は悪いとされてきた。
 今では、1 g / mLは大喜びするほど良い数値。
 一般的に 1 mg / kgの用量では50-100 μg / mLは欲しい(製剤は使わないとして)。

B. Aqueous solubility
 水溶性は制御が難しく、SARの切れ味は悪い。溶解度を改善させようと脂溶性を下げても、水溶性は少しずつしか改善しない。極性官能基を入れても、分子間水素結合による結晶性の向上によって相殺され、溶解度はほとんど改善されない。
 驚くべき事に60%の不溶性化合物は脂溶性とは無関係であった。60%の不溶性の原因は、結晶性であった。

C. Changing the pKa
 酸や塩基でpKaが変化すると溶解度は改善しうる。ただし、中性条件で溶解度が悪かったり、特にpKaが7から離れていると、溶解度は良くない傾向がある。
 弱塩基性は問題になる事が多く、ピリジン、キノリン、キナゾリン、チアゾールで見られる。
 コンビケム的に合成した化合物はアモルファスなので溶解度が良い。結晶化すれば桁で溶解度が下がって吸収性は低下する。

D. Improving aqueous solubility
 計算で予測できない実験事実を、計算アルゴリズムにフィードバックさせる。
 思わぬ発見(溶解度向上)を見落とさない。
 最初から溶解度の良いライブラリーを作っておく事。
 超音波処理でアモルファスなみに溶解度は向上しうる。


V. In vitro Potency and Chemistry Control
 In vitro活性は多くの場合、制御可能。
 注意すべきは、SARがフラットな「ダマし」のヒット。小さな変換で活性に変化があれば大丈夫。メチル基を入れて活性が大きく変われば良い徴候。「ダマし」のヒットは、30μMで15-20%存在し、ターゲットに非特異的に結合するフリークエントヒッターなので、ライブラリーから除いておく必要がある。

A. Lead complexity
 フラグメントのように明らかになんの特徴もない分子は最適化のしようもないが、NMRやX線によってターゲットが明らかになる事で、デザインの方針がたつようになった。
 ピーター・アンドリューの置換基結合エネルギーの和は、フェーズ2開発化合物も、ライブラリー化合物も同じだが、フェーズ2化合物はよりコンパクトであった。リガンド効率(LE)に換算すると、0.3を維持する事を目安にすれば良い。


VI. Metabolic Stability
 代謝安定性はケースバイケース。代謝部位を抑えれば良い場合もあれば、リポキシゲナーゼのように、ヒドロキサム酸が必須の場合、カルボン酸への代謝は防ぐ事ができない。
 40?50%のライブラリ化合物はCYP3A4の基質になるが、それでフィルターをかけるべきではなく、それが制御可能かどうかで判断すべき。
 代謝はCYPファミリー全部で代謝されるのが望ましい。ある化合物は、CYP2D6でのみ代謝され、CYP2D6欠損者に暴露した際に開発中止となったケースがある。

A. ADME computational models
 計算でのADME予測は、複数の要素が複雑に絡んでいて、予測は極めて困難。しかし、それでも予測しようという試みはある。

B. Limitations of Caco-2 cell culture
 Caco-2膜透過性予測もトランスポーターの関与の予測は難しい為に、限界がある。

C. poor aqueous solubility and permeability assay noise
 膜透過性試験はFDAから承認された良く溶ける化合物でバリデートされている為、この評価系で溶けない化合物を評価しても、正確に評価できているかわからない。再現性も低い可能性がある。

D. Physiologically-relevant screening concentration
 Caco-2膜透過性試験はアクティブ及び排出系トランスポーターも評価するが、薬効量が極めて低いと、膜透過性は過小評価してしまう。これは排出系のトランスポーターが過剰発現している為。


VII. Acceptable Solubility Guidelines for Permeability Screens
 Table 22.1参照。1 mg / kgならCaco-2は100 mMで行う必要があるが、ファイザーでは化合物溶解度の為に、10 mMで行っている。

A. Batch-mode solubility prediction
 溶解度の低い化合物は膜透過性評価にも悪影響する。数千化合物の溶解度データがあれば、溶解度予測も可能になりうる。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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