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創造力の源泉はデザイン力

Isaacs RCA, Newton CL, Cutrona KJ, et al. Design, Synthesis and SAR of a Series of 1,3,5-Trisubstituted-benzenes as Thrombin Inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X1001869X.

メルクで当初見いだしたアミノピリドンをP2サイトに持つ化合物1は0.5 nMの強力な活性を有していた(Fig. 1)。結晶情報からアミノピリジンがS1ポケットのアクティブサイトに相互作用し、Asp189とソルトブリッジを形成している。一方でピリドンのメチル基はS2ポケットを占有し、スルホンアミド側鎖のベンジルはS3ポケットに相互作用する。結晶は得られていないが分子モデルからデザインした2は、1のP3部分スルホンアミドをピリドンからの置換位置を変えてジイソプロピルカルボキサミドにしてホッピングしており、2.2 nMの活性を示した。このような状況にあって、別ケモタイプ3置換ベンゼン3の特許が公開された(Fig. 1)。P2部分の化合物2のピリドンのメチル基と化合物3のフェニルのメチル基が重なると想定すれば、両ケモタイプのS2S3領域の結合モードは類似と考えられる。化合物3のグアニルピペリジンはS1ポケットのAsp189と相互作用、すなわち化合物2のアミノピリジンとオーバーラップしうる。これらの作業仮説を元に、ハイブリッドデザインを検討した。化合物1のX線情報を活かしてハイブリッドしたモチーフ4で、エーテルリンカーは2炭素が良いと考え、S1ポケットにはイミダゾールを有する5をデザインした(Fig. 2, 3)。これは化合物3のP2ーP3リンカーのスルホン酸エステルが2のカルボキサミドに置き換わり、P2?P1のエーテルリンカー側鎖以降がごっそり置き換わってホッピングしていると見なせる。デザインした化合物5の分子量は372と低分子であるにも関わらず、活性は3.5 nMと強力であった。続いてトリプシンに対する選択性獲得とAPTT活性向上を指向して、S1ポケットの最適化へと移行した。トロンビン阻害薬といえば、S1ポケットにはアミノピリジンやグアニジンといった強塩基性置換基がほとんどであるにも関わらず、ここでのホッピングでイミダゾールを見いだした点に大きな飛躍があるのみならず、さらなるS1最適化では弱塩基もしくは中性置換基の探索を行っている(Table 1)。実際のところ、弱塩基や中性置換基でも活性が維持できる事は前ケモタイプのピリジノンやピリダジノン系統でも確認されていたとはいえ、ここでも塩基性を持たない17?20で活性は9乗?10乗と非常に強力であった。しかしながら、これらはAPTT活性は弱い。これは中性や弱塩基性では脂溶性が高いためであり、驚く程の結果とはいえない。一方で塩基性基を持つ21でも細胞系活性には反映しなかった。また、エーテルリンカーは化学的にも代謝的にも不安定であった。よって、次の戦略は、エーテルリンカーを代謝的に安定化するアミド結合に変換し(Fig. 4)、最適化する事であった。アミド結合による安定化と極性向上のためか、実際に合成した弱塩基性、中性化合物はAPTT活性は向上した(Table 2)。さらにトリプシンに対する選択性は10万倍以上と高選択的。細胞系活性はまだ不十分であるが、その理由はタンパク結合率の高さにあると考えた。その要因と考えられるのは、P3ジイソプロピルアミド部分の高脂溶性であり、この変換によって極性を付与できると考えた。デザインしたアミド、もしくはピリジン、アルキル、アミンから、スルホンアミド35、37でAPTT活性はサブマイクロオーダーにまで向上する事に成功した(Table 3)。

トロンビン阻害薬といえば、キセメラガトランのように強塩基と酸性パートを持ち、ダブルプロドラッグのような戦略が必要で経口吸収性を出すのが困難な印象がある。特に、S1ポケットの活性中心に相互作用する為の強塩基性基は必須と考えがちである。実際に他社(3-DIMENSIONAL PHARMACEUTICALS, INC)特許化合物3はグアニジン骨格を有している。このような状況にあって、自社化合物のハイブリッドデザインの際に、いきなりこの強塩基性パートを脱却したところに、ドラッグデザインの工夫を感じる事ができる。3置換ベンゼンという元のモチーフは残しているにも関わらず、その新規性と優位性を顕示するパテントバスターである。このような必須置換基と考えがちな先入観の脱却の事例は、ファクターXa阻害薬の強塩基性基脱却に成功したバイエルのリバロキサバンを彷彿とさせる。また、強塩基性基脱却は、活性中心に結合するソルトブリッジを脱却する点から、サブファミリー選択性(ここではトリプシン)にも有効に機能する。一方で、反作用は脂溶性向上による細胞系活性の低下であったが、その問題をエーテルリンカーの変換とP3部分の最適化による脂溶性低下とタンパク結合率低下で見事に解決した。強力なドラッグデザイン力(アイデアと創意工夫)があれば、何も独自に隠し球のような情報がなくても良い、公知情報からでも十分にクリエイティブな化合物が創出できる事を示した好例と言える。
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テーマ : 科学・医療・心理
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