スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

低スループット・低情報ターゲット戦略

Wolkenberg SE, Zhao Z, Mulhearn JJ, et al. High concentration electrophysiology-based fragment screen: discovery of novel acid-sensing ion channel 3 (ASIC3) inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X10018792.

 分子量が大きくなるとケミカルスペースは指数関数的に広がる為、分子量の大きな化合物で組まれたライブラリーではそれに応じた多様性ある規模のライブラリーをスクリーニングしなくてはならない。この事を考慮すると、通常のHTSのケミカルスペースが分子量350以上であるのに対して、フラグメントスクリーニングは分子量が150?250と小さなケミカルスペースであるのでスクリーニング効率が良い事が理解できる。また、フラグメントは結合ポケットに不適切な相互作用を示すリスクも低い点で効率が良い。さらにフラグメントスクリーニングは、ドラッグターゲットクラスとして魅力的であるにも関わらずスクリーニング効率の低いターゲットに対して魅力的な手段となる。とりわけ、リード探索チームでは、超高速スループットが行えない場合、スループットの低さを考慮すると、100万化合物全てを評価するより、1000?1万化合物のライブラリーに対してアッセイしなくてはならない。フラグメントスクリーニングはこういったターゲットに対しても有効に機能する。

 ASIC3に関しては、当初FLIPRによるHTSを試みたが、その多くのヒットが、後のパッチクランプアッセイで評価した際にフォールスポジティブである事が判明した。また、アクティブと思われたヒットも、サブタイプ選択性のないものばかりであった。この結果は、ASIC3の文献情報と一致するもので、HTSに成功したという報告例はなく、唯一計算化学のアプローチでリガンドが報告されているのが現状であり、ASIC3のリード探索は非常に挑戦的なものである事が理解できる。擬陽性のヒットを除去する努力として、中程度のスループットを持つ自動パッチクランプ(PatchXpress (PX))を利用する事とした。これであれば、1日に80データポイントをアッセイする事ができ、通常のスクリーニングに比べるとスループットは低いが、メルクの1280種類で構成されたフラグメントライブラリーをスクリーニングするには十分である。メルクの研究者は、研究を着手した段階で、イオンチャンネルに対して高濃度で電気生理学的フラグメントアッセイを行う事になろうとは考えていなかった。その理由は、1)自動パッチクランプが高濃度DMSO溶液 で機能させなくてはならず、2)活性の弱いフラグメントの場合、結合活性よりもファンクショナルアッセイで検出するのに不利であり、3)フラグメントは多くの場合、NMRやX線で結晶情報が得られる際に機能するから、である。これらの乗り越えるべき課題を有しつつも、他に有効な手段がないために、この方針を続行する事にした。

 スクリーニングフローはFig. 1。まず1280化合物を1mMの高濃度でスクリーニングし、50%以上阻害した56化合物を選出。驚くべき事に、4.4%のヒット率はGPCRや酵素、タンパクタンパク相互作用阻害薬と同等であった。これらの活性を評価し、LEが0.3以上の32化合物を選び、クラスタリングと優先順位付けにより12種に分類、分子量を大きくしないようにフラグメントを最適化し、最後に分子量を上げて誘導体合成によってリードとして3化合物を選出した。

 分子量を大きくせずにLEを改善する方法として、メルクのライブラリーと購入可能なリガンドから類似度検索を行った(Fig. 2)。注目すべきは、この手法はウェットな実験なしに当たりをつけら得る点であり、わずか250フラグメントをスクリーニングするだけで高LEリガンドを探索する事が出来た点である。

 類似度検索でLEは最大化されたので、次は分子量を大きくして活性を向上させる方針をとった。結晶情報はないので、その最適化はエンピリカルで行い、フラグメントリンクは考慮しなかった。ここでとった戦略は、1)フラグメントの置換基導入可能な炭素に小さな置換基を入れる、2)合成しやすいフラグメントをライブラリー合成する、の二つである。たとえば、フラグメント12の最適化には、1)構造情報がないので、置換基導入可能なところは全てスキャンする、2)チャンネル側のポケットは不明なので、sp3, sp2, sp軌道のそれぞれの結合様式を試す、3)経験上、フラグメント最適化での成功事例として、分子量64向上につき活性が1桁上がるのを目安にする、という原則で検討した(Fig. 3)。しかしながら、SARはほとんどフラットで代わり映えせず、唯一アセチレンやピリジンを持つ13?15の3化合物のみが許容範囲の化合物であった。

 一方でフラグメント3は、ライブラリー合成で475検体合成し、活性は100?700倍向上するものもあった。7位置換テトラヒドロイソキノリンで最も活性の強いAISC3拮抗薬はアボットのA-317567である(Table 1)。また、フラグメント1からはベストバランスの化合物として26が見いだされた。

 プロファイリングした化合物24、26はタンパク結合率が高い為にビボでの作用を見るには板らかなかったが、PKやCYP阻害、hERGといった課題は解決しており、リードになりうる、と結論づけている。

 結論では、アミジンやグアニジンを持たないリードでは100 nM以上の活性を持つものを見いだすのは非常に困難、チャンネルの性質上、共通の結合サイトがあるとすれば、リガンドには塩基性基は活性に必要と思われる。一方で鶏のASIC1結晶が得られていて、今後結晶情報が使える可能性があるとはいえ、あらゆる創薬技術を使ってもASIC3は困難なターゲットである事と述べている。


 ナトリウムチャンネルというスループットが低い上に最適化が困難なターゲットにおいても、戦略をたてて取り組んでいる。こういったターゲットに対してフラグメントスクリーニングに活路を見いだしたのは、仮に困難が多いとはいえ、非常に合目的で納得できる戦略である。そして、一つ一つの課題に方針をたてて解決策を模索し、常に最善の策を打って、対応している。厳しい局面だからこそ、このような戦略はテーマを見極めるのに有効に機能する。背景には明確なディシジョンツリーがある事を感じさせる。スループットが低いテーマだからこそフラグメントスクリーニングをするという切り口、結晶がないならエンピリカルで攻めるという点は、共に原理原則に従う納得感ある戦略である。そして、改めて感じるのは、研究をスタートする前にターゲットクラスを考慮しておくべきという事である。どんなに高度な合成力とデザイン力を持ってしても、リガンド探索がそもそも困難であったり、時代の技術が追いついていない状況ではどうにもならないのである。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。