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創薬化学ー分子間相互作用概論

Bissantz C, Kuhn B, Stahl M. A Medicinal Chemist's Guide to Molecular Interactions. Journal of medicinal chemistry. 2010. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20345171.

メディシナルケミストへの分子間相互作用のガイダンスとしてレビュー。リファレンス200報以上の包括的で、重要な要素が本文でまとめられているので、相互作用の情報を知る際に立ち返る最初の論文に使える。
その中で特筆すべき情報は、Fig. 1の相補的共同性が熱力学的に証明されている事、Fig. 2の高エネルギー水放出のイソプロピル基の導入が活性を4万倍近く向上させた事、Fig. 3の強力に結合した構造水は弾き出せない事、Fig. 4の水素結合距離、Fig. 5のアクセプター毎の水素結合距離と角度、Table 1の置換基毎の水素結合能(さらに脂肪族では環化で増強、芳香環ではドナー基で向上)、スルホンは疎水性環境を好む、フッ素はオルソゴナルな相互作用をして一挙に活性を向上させる事ができ(Fig. 11b)、フッ素スキャンが有効、Table 2に各種相互作用距離が一覧で表示。


◯一般的考察

☆結合エネルギーにおけるエントロピー/エンタルピー
結合エネルギーは熱力学での自由エネルギーであり、エントロピーとエンタルピーの総和で計算される。これらのパラメーターはカロリメトリーで測定する事が出来、創薬への応用がより実用的となっている。たとえば、ベストインクラスの化合物にはエンタルピー駆動型になる傾向が示されている。結合活性を向上させる過程で我々が否応無く考慮しなくてはならない二つの事例として、固定化された構造よりもフレキシブルな総和としてのタンパクーリガンド複合体、そして脱溶媒和がある。これらについて以下で議論する。

☆自由度と共同性
リガンド結合の熱力学を語る上でエントロピー/エンタルピー補償則を議論から欠く事はできない。この補償則には長年論議があり、実際のところ、非常に大きな測定誤差の為に意味のない値であるという証拠さえ存在する。仮に獲得したエンタルピーが全てエントロピーで補償されてしまうと、活性を上げる事はできない事になってしまう。とはいえ、ホストゲスト化学、蛋白リガンド結合のメカニズムの根底にはこの補償則が支配しているのも事実として示されている。この法則を簡単に言うと、より強力に結合するとエントロピーは失われる。結合は自由度を失わせ、自由度は結合を失わせる。しかし、補償則は系にも依存し、メカニズムは一つのパラメーターにのみ依存するわけではない。非共有結合相互作用は、正の共同性を示す。これは個々の結合が相補的に作用すると、それらの総和以上の自由エネルギーを獲得する事を意味する。その実例として、グリコペプチド抗体、ストレプタビジンなどが知られる。一つ目の結合には相応の自由度を失うが、既に適度に固定化され事前組織化された構造で次の結合は自由度を大きく失う事はない。核酸が2重螺旋を強力な安定性で維持できるのは、丁度、ジッパーが一点では弱くても多点結合で強力に結合するに類する。Fig. 1のトロンビン阻害薬のデザインの熱力学的解析は好例。化合物1に脂溶性置換基(2)を入れる時に獲得したエネルギーはΔΔG=-2.1であるのに対して、最初にアミンを入れて(3)、次に脂溶性置換基を入れるとΔΔG=-3.1とその効果が大きい。アミンについても逆の事が言える。いづれも最初の1つ目の置換基による共同性効果が発揮している。

☆脱溶媒和と疎水性効果
脂溶性基は水クラスターを分断し、基質の周辺に水分子を再配列させる為にエントロピーの減少を招く。リガンドが結合する際には溶媒分子をはじき飛ばす脱溶媒和の効果は大きく、蛋白の脱溶媒和の寄与は小さい。カロリメトリーの解析から、トリプシンのオキシアニオンホールの脱溶媒和を狙うのは不利で活性の大幅減弱を招く。一方でタンパクの疎水性ポケットに存在する水分子を弾き出すのは結合エネルギーのゲインが大きい。Fi.g 2のFXaの事例では、S4ポケットに水分子が存在する状態のリガンドでは39μMと非常に弱い活性が、この水分子を追い出すイソプロピル基導入で活性が一挙に1 nMまで39000倍向上している。

☆構造化された水分子
SBDDではタンパク内の水分子をリガンドに置き換えるデザインがされるが、結晶では水分子がとらえられる事はない。固定化された水分子が自由度を得るとエントロピー的に有利に機能する。その最大値は2kcal / molに達する。強く結合している水分子ほど、放出された時の自由度の増大は大きいが、エンタルピーのロスで相殺される。こういった高エネルギー水の考察がいくつか報告されており、Fig. 3のPDE10Aのように蛋白に強力に水素結合した2つの水分子を弾き出すのはエンタルピー的に不利であり、実際に15ケモタイプでこれを置き換える事が出来るのは1ケモタイプしかない。

☆斥力
リガンド蛋白結合は安定化するように相互作用するので、斥力を観測する事はできない。ファンデルワールス半径より距離的に近づき、結合角が歪むのは反発力が生じて解消するように平衡は移動する。


◯個別の分子間相互作用
☆水素結合
距離と角度が大きく影響。距離はドナーがNHでは2.75Å、OHでは2.9Åが平均値(Fig. 4)。ソルトブリッジ形成タイプは距離が短く、アミンとカルボン酸は2.83Å、これがチャージを持っていると2.79Å、アミド結合では2.9Å。角度はアクセプターの種類に依存し(Fig. 5、たとえばピリジン、カルボニル、カルボン酸、エーテル、スルホン)、その角度は150°以上が通常、エーテルは結合力が弱くその角度は幅広いが、通常で望ましい角度は120°。実例から学べる事は、1)単純にアクセプターの塩基性の強さに結合力が比例しない(脱溶媒和が影響するので)、2)ほとんど報告例はないがドナーアクセプター結合能がSARに反映しているケースがある、3)水素結合性官能基導入は溶解度改善にも機能する、という点である。Table 1にはCSD解析による非環式酸素アクセプターと平面ヘテロ環の水素結合アクセプター強度がまとめられている。これに加えて覚えておくべき事は、1)環状アミドや環状エーテルは鎖状よりアセクプター能が強い、2)ヘテロ環の場合では電子供与基導入で増強、吸引基導入で減弱、3)芳香環エーテルは飽和エーテルより弱い、その為にジフェニルエーテルのアイソスターにはジフェニルメタンが利用されるくらい。また、ここで注目すべきはスルホニルの水素結合基と疎水性基の両方の性質を合わせ持つ点である。スルホニルの水素結合能はアミドの半分以下であり(Table 1)、そのうちの30%しか水素結合を形成していない。CSD解析では、80%のスルホニルが疎水性のメチレン近傍に位置していた。PDBでも、スルホニルの39%が水素結合を形成する一方で、74%のスルホニルは脂溶性基とファンデルワールス距離にあった。疎水環境にあるスルホニルでは、わずか36%がアクセプターとして機能しておらず、そのうちの79%は同時に疎水性基と相互作用した。Fig. 6はカテプシンSの例で、弱い水素結合をする一方で脂溶性基とコンタクトしている事が見て取れる。

☆弱い水素結合
弱い相互作用は近年注目を集めているが、これは従来気づかれていなかった相互作用に注目する一方で、過剰解釈のリスクがある点で諸刃の剣である。ほとんど弱い水素結合は後者に相当するが、一方でこの相互作用がリガンド蛋白相互作用で重要な役割を果たしている事があるので取り上げるに値する。たとえば、芳香環がアクセプターとして機能する事が報告されており、とりわけアンモニアとベンゼンのNH-π相互作用はメタンとベンゼンのCH-πの1.5 kcal / molに比べて2.2 kcal / molと強い。その配向はT字構造をとり、ピリドンとベンゼンでもこの配向をとる事が報告されている。蛋白ではNHと芳香環の距離は3.5Å以上と離れており、強力なドナーのみを許容する。チロシン、フェニルアラニン、とりわけトリプトファンが局在化したCHと相互作用する。Fig. 7aはChk1キナーゼ阻害薬の例、一方でFig. 7bはPDE10AでNH-πと報告されたが、実際にはチロシン側と相互作用していてミスジャッジである。CF結合も水素結合様に作用する事が多数報告。結合長比較はFig. 9。

☆ハロゲン
ハロゲンの相互作用が報告されており、とりわけフッ素の効果は注目されている。その相互作用は弱いが時としてユニークであり、脱溶媒和ペナルティが低い点でメリットがある。この例の一つとして、DHM2p53の事例では水素をヨウ素に変換して活性は200倍向上(Fig. 10)。

☆オルソゴナル多元作用
これはフッ素で有名な相互作用、Fig. 11aのニロチニブトリフルオロメチル基の効果で活性は5倍、p38でも多くの例が、またメルクのKSP阻害薬ではジフルオロ基導入で活性は100倍以上(Fig. 11b)。こういった相互作用はフッ素に特異的で、こういった「フッ素を好むポケット」探索の為に「フッ素スキャン」をする価値の重要性が理解できる。CSDでのフッ素と塩素がカルボニルと相互作用する角度を検証すると、フッ素に特別な配向が見られるわけではなかった。塩素に有利な相互作用角度としてFig. 13が提案される。

☆ハロゲンと芳香環
Fig. 14→フッ素と塩素の芳香環上分布。フッ素は4.6-4.8Å、塩素は4.9-5.2Å。

☆疎水性相互作用
カロリメトリー解析から疎水性効果は30 cal / molÅ2、すなわち0.7 kcal / molとなり、メチル基一つで活性が3.5倍。ホストゲスト解析では疎水空間を55%占有するのが有効とする55%ルールが成立。DPP-4阻害薬カルマグリプチン誘導体では疎水ポケットをフルオロメチル基が占有する事で活性が400倍改善した事例がある(Fig. 15)。

☆アリールアリール相互作用
タンパク側にはトリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンはユビキタスに存在し、これらとリガンドの芳香環がT字型のエッジトゥフェース、または平行のスタッキングをとる。タンパクでは、平行の相互作用がT字より若干多い。スタッキングは電子リッチと欠損性の組み合わせがチャージトランスファーを形成してより安定化する。

☆アルキルアリール相互作用
Fig. 17のFactor Xaの場合では、カルボニル導入でメチレンの酸性度が向上し、フェニル基とT字型相互作用を増強して活性が40倍向上。Fig. 18はp38でアミドに酸素原子を挿入したヒドロキサム酸メチルでは、メチル基の脂溶性と酸性度が高まる効果も相俟って220倍活性が向上。

☆カチオンーπ相互作用
カチオンπ相互作用もFactor Xa(Fig. 19)の事例などで知られているが、4級化された化合物を創薬化学で扱う事はあまりない。

☆S(硫黄原子)の相互作用
2価の硫黄は使い勝手の良い原子で、電子リッチ、欠損の両方の置換基と相互作用できる。たとえば、カルボニルーSは相互作用し、コンフォメーションの安定化に寄与する。メチオニンのSHはSH?π相互作用できる。メチオニンとアデニンの相互作用はFig. 20。

☆各種相互作用距離
Table 2に一覧でまとめ。
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