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執念がその「小さなくぼみ」を呼び寄せた

De Savi C, Pape A, Cumming JG, et al. The Design and Synthesis of Novel N-hydroxyformamide inhibitors of ADAM-TS4 for the treatment of osteoarthritis. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2011. Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X11000497


アダムスファミリーであるアグリカナーゼ1(ADAM-TS4)は、活性中心に亜鉛を有するメタロプロテアーゼであり、MMPを含めた選択性獲得が大きな課題となる。アストラゼネカがヒット化合物から見いだした1や2は亜鉛キレーターとなるヒドロキシホルムアミドを有しており、MMP1に対して選択性はあるものの、MMP-13, 14に対して選択性がないばかりか、キレーター故の強力なCYP阻害を有してた。フェニルピペラジン1は物性面やhERG阻害が弱い点で優れているが、MMPに対する選択性獲得が困難な上にSARもタイトであった。一方でベンジルオキシピペリジン2は物性面も悪くhERG阻害が強いという賛嘆たる状況であった。

このような普通に考えれば絶望的とも言える状況にあって、一つずつ課題解決に取り組んだ。まずはCYP阻害の回避であり、キレーター部分に立体的に嵩高い置換基を入れる事でヘム鉄の配位を抑えられると考えた。斯くしてデザインされた化合物3や4はCYP3A4阻害を10μM以下とドラスティックに改善した(Table 1)。この際に、後に選択性に関してブレイクスルーを引き起こすきっかけとなる化合物4においてMMP-13, 14の選択性が高まっている徴候を見過ごせない。しかしながら、見いだした化合物4は代謝安定性が非常に悪く経口吸収性はない。代謝物検証からベンジル部分の代謝、包合が原因と考えられたので、ピペリジン及びピペラジンでエーテルリンカーをメチレン、アミンリンカーに変換した(Table 2)。その結果、ピペラジン5とピペリジン6がマッチドペアであり、経口吸収性を示した。次に選択性獲得の手がかりを結晶情報に求めた。とはいえ、ADAM-TS4の結晶化は成功していない。よって、きっかけを結晶のとれているサブファミリーADAM-TS1に見いだし、このホモロジーモデルからアクティブサイトを考察した(Fig. 1)。ここでは3つの鍵となる相互作用が推定される。すなわち、1)ヒドロキシホルムアミドの亜鉛に対するキレートとGlu150への水素結合、2)スルホニル基がLeu118と水素結合し、3)ジクロロフェニル基がS1’疎水性ポケットに相互作用している。注目すべき点はヒドロキシホルムアミドとS1ポケットのピリミジンが分子内で相互作用してコの字になっている点であり、さらにはS1’ポケットに刺さるフェニル基のオルト位置換基はADAM-TS4の小さな疎水性ポケットを占有していると考えられた。非常に重要な事は、MMP-13にはこの小さなくぼみが存在しない点であった。アストラゼネカの研究者は、ここに突破口を見いだし、パラ位と共にオルト置換タイプの最適化に集中した(Table 3)。その結果、数々のピコモルオーダーの化合物を見いだし、特に化合物8fや8mではMMP-1,2,13,14に対して5000倍以上の選択性を獲得する事に成功した。また、中央母核ピペリジン、ピペラジンと置換基のマッチドペアを比較すると、ピペリジンが2桁活性が強い事から、このケモタイプに集中する妥当性が確認できる(Fig. 2)。また、一般的に活性は脂溶性に引きずられる事が多いが、側鎖ピリジンの8k, 8l, 8nは脂溶性を低下しつつ活性も保持する事で、乖離に成功している。代表化合物8fのPKは優れ、ビボ作用は見いだされ、安全性も確認された。

メタロプロテアーゼではサブタイプ選択性を含めた種々の懸念がされるなか、ここでのヒットはADMEToxもボロボロの手に負えそうにないプロファイルであった。このような化合物を目の当たりにすると絶望感を感じそうなものであるが、ここで一つ一つ問題解決する事に踏み出した事には大きな価値がある。MMPとADAM-TS4の選択性にクリティカルに効く小さな疎水性ポケットも最初から狙っていたわけではなかろう。そもそも、最初から見通しの効く創薬など存在しない。殆どの創薬は往々にしてこのようなチャンスは直ぐにはわからない。実際に、最初は選択性の出せないフェニルピペラジン1に取り組んで頓挫しているし、ピペリジン2も選択性以前にCYP阻害や代謝安定性といった課題を抱えていた。諦めるのは簡単だし、マジョリティが「やってもダメだ」と諦めるのであるが、そのような姿勢では永久に創薬のチャンスは回ってこない。むしろ、このような困難な状況にあっても課題を突破していけるアイデアを出せるかどうかに創薬化学者のアイデンティティが示されるだと感じる。アストラゼネカの研究者は、四苦八苦したからこそ突破口の「小さなくぼみ」を見いだせたのであり、そこに挑戦する権利を獲得し、最後の攻勢をかけたのである。研究者の執念が、チャンスを呼び寄せるのである。
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