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幸運の女神、抗癌薬で再降臨!

Abe H, Kikuchi S, Hayakawa K, et al. Discovery of a Highly Potent and Selective MEK Inhibitor: GSK1120212 (JTP-74057 DMSO Solvate). ACS Medicinal Chemistry Letters. 2011:110228154345044.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml200004g

この報告を読んでいると、HIVインテグラーゼ阻害薬のエルビテグレルの発見の時といい、JTには幸運の女神がいつも微笑みかけているのではないかとさえ思いたくなる、数々のセレンディピティがブレイクスルーとなっている。

研究はヒット化合物2の最適化から始まる(Fig. 1)。この化合物は母核のピリドピリミジン側鎖に3枚の芳香環を有しており脂溶性がClogP 6.3と高い事から、その低減に向けて、まず芳香環を1枚外す方針をとった。右上、左下は外すと活性は消失してしまうが、左上のフェニル基はπ性を持つ脂環式のシクロプロピルにする事が出来た。次に、右上のフェニル基上のクロロをブロモに変換した3で活性は向上、脂溶性ClogP 5.0に低下した。右上アニリンのオルト位にフッ素を導入して活性向上。続いてパラ位のブロモ基の代替基探索において、アセチレン4gなどの合成中間体であるヨウ素体4mが8?9乗の非常に強力な活性を示した事が最初の幸運となる(Table 1)。ヨウ素を最初から狙っていれる事はまずないが、結果としてこの置換基は最後まで残される事になる。このリード最適化によってヒットの2から活性は500倍向上した。しかし、この母核ピリドピリミジンは弱塩基性条件で分解してしまうという問題を有してた。しかし、ここに第二の幸運が宿る事になる。加水分解体を調べてみると、化合物3の環が開き、再度アニリン側で巻き直した5である事が確認された(Table 2)。メカにズムとして、たとえばメタノールのような求核剤がC-2カルボニルを攻撃して開環し、続く隣接アミンとウレア化したと考えられた。この副生物5は活性はないが、幸運にもその母核は化学的に安定であり、そのトポロジーは元の3の窒素をシャッフルしただけで母核のモチーフは同じである事から、適切に置換基を配置する事で活性を獲得できると考えた。化合物3に置換基を揃えた7は確かに活性がサブマイクロオーダーまで向上し、先のマイルストーンとなる4mに置換基を揃えた8aは活性は一挙に8?9乗と8aと同等まで改善した。この化合物はClogPは6.0と脂溶性が高いので、左下フェニルに極性置換基が許容する事を確認し、アセタミド8bで9?10乗の活性向上とClogP 5.0と脂溶性の低下の両立に成功した。この化合物は当初融点180℃の結晶で経口吸収性は優れていたが、結晶多型の為に安定系結晶の融点は300℃となってしまい、経口吸収性が低下してしまった。塩検討の結果、DMSO溶媒和体の1で融点は180℃に低下し、これを開発化合物に選定した。驚くべきは、実にここに至るまで、ターゲットタンパク不明のまま、ヒト癌細胞ACHN, HT-29のセルベースアッセイで評価してきた点である。ターゲット不明の細胞系アッセイは、マルチターゲットに作用している為に構造活性相関が取得できない事が多く、またマルチターゲットでの作用は臨床開発のメカニズムの説明が難しくなる。この研究の最後の第3の幸運は、ターゲットタンパクをスクリーニングした結果、MEK1/2に選択的阻害薬であり、高いキナーゼ選択性を有していた事であった。MEKの作用である事を確認する為に、ERK1/2リン酸化抑制作用を検討した結果、そのリン酸化をほぼ完璧に近いほど阻害しており、それはMEK阻害のドーズレスポンスカーブとは本質的に異なるものである。ビボでの薬効は、他のKRAS、BRAF変異癌モデルで報告されているのと同様の結果を示した。

当初はターゲット不明での最適化であったが、見いだされたSARは既存のMEK阻害薬と共有しており、特にセレンディピタスに見いだされた2-F, 4-Iアニリンが、ファイザーの第2世代MEK阻害薬PD0325901と共通であるのも奇妙な偶然である。また、偶然にも発見されたMEK阻害薬としてはユニークなピリドピリミジン骨格は、良好な血中薬物動態を実現し、強力な抗癌作用は1日1回投与を可能とした。MEK-ERKパスウェイは変異RASやRafの活性化に関与する癌治療として有望であり、現在フェーズ1?3で開発が行われている。

幸運といえばそれまでだが、その幸運を見落とさずに掴み取り、確実に活かしているところには研究者のセンスを感じる事ができ、研究の最も価値あるセレンディピティといえる。幸運の女神は、「準備された心を持つ研究者」には幾度も微笑むものなのかもしれない。
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テーマ : 科学・医療・心理
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