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創薬ナレッジ一元的集中管理システム

Mayweg A, Hofer U, Schnider P, et al. ROCK: the Roche medicinal chemistry knowledge application-design, use and impact. Drug discovery today. 2011.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21439402


企業にとって、社内の個々の研究者のナレッジ(特に部分最適化された個人の特殊能力:暗黙知)を広く研究所全体に伝播して共有し研究所の財産とする事は、生産性の向上という点で重要な課題である。その課題解決の一つはナレッジの一元的集中管理である。このような概念は誰しもが考え試みると思うが、果たしてうまく機能させる事が出来ているのだろうか?

ここではロッシュの創薬化学研究所でのデータベースROCKの構築の成功例が紹介されている。このツールは、2005年に構築が始まり、現在では実に900近いナレッジが収載され、ロッシュの世界中のサイトから、毎月数百人ものケミストが利用し、今や直面する課題解決に向けたドラッグデザインの第一選択ツールとなり、さらに社内データベースとの連携が進められようとしている。6年越しのロッシュで構築されたナレッジの集中管理は、揺るぎない基盤となっており、これからも進化を続けるであろう事が推察される。

この成功の裏には、

1)ナレッジシェアの重要性を研究所全体で理解し、文化として醸成していく事のコンセンサスをとろうとした。
2)コンセンサスを得る為に、構築するROCKのビジョン・コンセプトを示した。
3)ユーザーフレンドリーなインターフェース、使いやすさ、感覚性を重視。インプットのハードルは低くなるように配慮。
4)研究者が片手間で維持するのではなく、専門チームがエディターとなって、レビューし、質を維持し、構造化し、進化させている。

といった工夫がある。

研究所のインテリジェンスを管理するマザーコンピューターの如きROCKは、決して一朝一夕で構築されたものではなく、権限委譲された専門チームが粘り強く研究者から関心を引きつけるように努力したから為しえたのだろう。6年間で継続的に蓄積されたナレッジの価値は大きい。このデータベースの公開に踏み切ったのは、単にマネをしても追随を許さない自信の表れにも見える。

ナレッジの一元的集中管理の重要性は、感覚的に分かっていても実現は容易ではない。研究者が片手間に気が向いた時にやっていては、一過性で終わり、廃ってしまう。理想を具現化するには、粘り強い玄人実行が必要である。


-------
創薬は種々の分野のサイエンスが複雑に絡み合っており、ドラッグハンターはそのナレッジを身につけ把握しなくてはならない。そういった知識は長年の経験や携わったプロジェクト、疾患領域によってバイアスがかかっているものの、積み上げられた知恵はかけがえのない財産となる。こういった貴重な暗黙知や経験を明らかにして研究者間でシェアするのは、多くの創薬化学者が転職する事が多い為に、困難である。長年培われた個人の洞察は組織に定着する事なく簡単に失われてしまうが、それを蓄積してシェアする事で、研究所の財産となる。

暗黙知は、極めて個人ベースの主観や感覚に基づくが、体系化する事で明示的知識に変換される。逆に明示的知識も個人の知識で解釈される事で暗黙知に変換される。暗黙知を共有する事で明示的知識となったプラットフォームは、その知恵にアクセスする事で創造性とイノベーションのドライビングフォースとなり、組織の意思決定の土台になる。このようなプラットフォームに明示的知識を蓄積するには、マネージメントサポートを行い、ナレッジシェアの文化を醸成し、ユーザーフレンドリーで信頼おけるITの枠組みを必要とする。

ナレッジとデータの違いを説明するモデルはAckoffによるピラミッドで示す事ができる(Fig. 1)。

データ (data): 元になる事実 (what)
情報 (information): 加工され構造化されたデータ( know-what)
知識 (knowledge): 状況によって利用される情報(know-how)
知恵 (wisdom): 知識の応用、理解度の把握 (know-all)

創薬化学者は、化学構造、部分構造を軸にナレッジを活かしたい。一方で世間で広くナレッジシェアに利用されているウィキペディアのようなシステムでは構造検索はできない。2005年の段階で、ロッシュでは、部分構造検索から構造活性相関、構造物性相関を読み取り、問題回避と問題予測の為のドラッグデザインと問題解決の為のレトロスペクティブな解析に反映させる為のシンプルなツールの作成に着手した。この際、ドラッグデザインにフォーカスする為に、合成技術的な内容は敢えて除外している。最近になって、メディシナルのブログやWikiのサイトは存在するが、ここで構築したROCKに相当するナレッジシェアとデザインへの実用性を持つものは報告例がない。

ROCKのコンセプト・ビジョンはFig. 2に示される。

コンテンツ(Content):ナレッジスライド
コンテクスト(Cotext):カテゴリー、キーワード
登録(Submission):使いやすさ
レビュー(Review):編集システム
文化(Culture):ナレッジシェア
過程(Process):暗黙知から明示的知識へ

ROCKは、パワーポイントベースで提出される。特に決まったフォーマットを作らない事でハードルを下げるが、重要な点はハイライトさせる。このツールは下記の特徴を有する。

ウェッブベースのツール
視覚的に見やすいレイアウト
カテゴリー、サブカテゴリー毎に階層化
キーワード検索と高度なテキスト検索
部分構造検索
全研究者がアクセス可能なデータベース
データベースは継続的に更新され、拡大される
エディター管理

Fig. 3にインターフェース。検索法をシンプルにする事で容易にナレッジに行き着けるようにしている。また、質を担保するためにエディターがレビューを行う(Fig. 4)。情報を密に取得する為に、各サイトにエディターチームを置き、そのチームは2?4人のサイエンティストで構成される。カテゴリーやキーワードはポップアップメニューで表示が可能。アブスト、アイデアのソースとなる文献へのリンクといった工夫がある。階層構造になったトピックは直感的な検索を可能にする(Fig. 5)。最近、カテゴリーの一つにはプレゼン資料も用意、付加的なスライドは、ナレッジを深堀して理解する事を助ける。Fig. 5に示す見やすいアブストと、Fig. 6のプレゼン資料が閲覧できる。

2005年の発足時に想定したROCK戦略は非常にうまく機能した。ROCKには実に900近いスライドが6つのカテゴリーと70のサブカテゴリーに収載された。ロッシュの世界中の研究者は、毎月数百人のケミストが利用し、課題解決の重要なツールとなっている。研究者は、直感的なテキストサーチによって簡単に検索できるし、部分構造検索とテキスト検索を組み合わせて欲しい情報を入手している。メールアラートによって更新された情報も適宜入手できるようになった。現在、ROCKはアクセスの良さと情報の集積力に高いパフォーマンスを示したので、さらに薬理データや物理化学データのデータベースとも連携して管理されるようになった。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

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ブログいつも楽しく読ませていただいております.

知識や経験は個人に属しがちで,組織で共有できないという
問題はどこの会社でもあることかと思います.

「知識や経験を共有化しよう!」と研究員の一人が旗振りを
しても周囲に響かずに,頓挫しているのを何度か見てきました.

データベースの作成はめんどくさい.
   ↓
データベースが更新されない.
   ↓
更新されないので誰も利用しない.
   ↓
データベース作成に協力するのは時間のムダ.

という悪循環に陥ってたとおもいます.

社員一人一人の知識の拡充に役立つデータベースを
構築するためには専門のスタッフを配置するのは
良いアイディアと思います.

できる人に仕事を任せるというのは,当然かもしれませんが,
転職なども多い昨今,知識や経験は個人に属するのではなく,
組織の財産として会社も成長していきたいものです.

長文失礼しました.
プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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