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シックスシグマ:創薬7つの無駄

Uitdehaag JCM. The seven types of drug discovery waste: towards a new lean for the drug industry. Drug discovery today. 2011.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21354473


創薬を成功させるには、生産性ギャップを解消する方法を探索する必要がある。この観点で、リーン思考、kaizen(改善)、シックスシグマのような製造工程プロセスの方法論は、生産性向上には必須である。kaizen(改善)は、継続的改良を、シックスシグマは欠陥や変動を最小限にする。リーンは、顧客価値にフォーカスし、それに寄与しないあらゆる活動を排除する事でプロセスを改善しようとする手法である。
しかし、リーンを医薬品創出に適応するのは困難が予想される。なぜなら、リーン思考は元々トヨタの自動車生産方式の繰り返しの工程用に開発されたものであるが、医薬品の新薬創出はただの一度しかなく、同じ手法で繰り替えされる事はないからである。企業における研究過程において1プロジェクトレベルですら、リーンを適用するのは難しい。なぜなら、うまくいってるプロジェクトは多種多様であるので、それらのプロジェクトは全て統計的なアウトライヤーになってしまうからである(Table 1)。
さらに悪い事には、製造工程のリーンはたとえば自動車の破損のような制御可能な質を指標にするので、欠陥商品をはじき出すのには機能する。一方で、創薬は前臨床段階で、たとえばアスピリンやカルボプラチンといった臨床で良好な作用を示す医薬品を予測するのは困難である。過度な品質管理は、悪いプロジェクトを見つける過程で、良いプロジェクトまで捨てかねない。良いプロジェクトはほとんどないので、悪いプロジェクトを全てドロップさせる過程で良いプロジェクトまでドロップさせてしまう。よって、生産性に悪影響を及ぼす。
 そうはいっても,リーンは創薬で大きな魅力がある。顧客にフォーカスし、無駄を省くといった典型的なリーンの手法は創薬には重要である。しかし、リーンはプロジェクトの軸足となるべく利用されつつある。リーンの創始者であるトヨタの大野耐一氏の定義する下記の7つの無駄の考え方は創薬にも適用できる。

1. 運搬 部品の不必要な移動
2. 在庫 完成した部品の出庫待ち。
3. 動作 不必要な人事異動
4. 手持ち 次のステップまでの不必要な待ち時間
5. 加工そのもの 不必要な生産工程
6. 作りすぎ 不適切な製品の数
7. 不良品 不適切な品質


<探索段階におけるリーン思考の原則>

下記の3つの考え方が、創薬の7つの無駄の定義を導きだす。

1. 顧客の設定 新薬の良し悪しは患者とその家族、医師が決める。彼らへの意見聴取なくして効果的な新薬は創出できない。研究者と医師の間には多くの階層が存在して弊害となっているが、医薬品はもっとパーソナライズされるべきである。
2. 顧客価値を創出する工程の設定 製薬企業は上市までの成功確率を向上させる必要がある。たとえば0.001%向上すれば、製品の売上が1000億円とすると、100万円の価値を生み出した事になる。導出されたプロジェクトもお金を生み出す。全てのプロジェクトは最初は質は低いが、データを蓄積してクライテリアを突破する事でプロジェクトの価値が高まる。よって、プロジェクトの実際の市場価値を追跡することは有益であり、プロジェクトの生産性指標として役立てる事ができる。
3. 工程数の削減 本質的でない活動を削除するにはCROを利用できる。たとえば、ルーチンのピペットワークやアッセイプレートの調整がそれである。無駄を省けば、価値ある作業に時間を割くことができ、生産性は向上する。

これらを考慮して、創薬における7つの無駄を再定義すると下記のようになる。


1. 運搬 サイト・チーム間の移動によるプロジェクトの損失
サイト間の移動は、時間を無駄に、質が下がり、場合によっては再実験が必要となる。あるプロジェクトを採用する事をためらえば、そのプロジェクトの価値は流失してしまう。このような状況をNIH(ここに発明は存在しない(Not-Invented-Here)) シンドロームと呼ぶ事もある。

2. 在庫 アウトライセンスしないで、リソースをかけないプロジェクト
サイエンスベースでは良いプロジェクトも戦略上の理由で注視したり、リソースがかけられない場合、競合状況、データの損失、特許の寿命の理由で、プロジェクトの価値は低下する。プロジェクトの価値を損なわないために重要な事は、このようなテーマをタイムリーに導出する事である。


3. 動作 不必要なエキスパートのプロジェクト間異動
どんなエキスパートでもプロジェクトに慣れるには一定の時間が必要。成功を醸成する多様性の一つは、彼らエキスパートのフィロソフィーと研究手法に由来する。不必要な移動はプロジェクトのタイムラインを後退させる。


4. 手持ち クリティカルな試験実施までの無駄な待ち時間
承認・ディシジョンまでの無駄な待ち時間、非標準的なやり方に無駄に時間がかかる(組織の柔軟性欠如)。これらの遅延は、競合力を失わせる。救済策はチームへの十分な権限委譲である。


5. 加工そのもの 余りに頻繁に再点検、優先順位付け
過度な再点検は、統計学的平均を生み出し、アウトライヤーを減らしてしまい、フォールスネガティブなディシジョン(本来、チャンスのあるテーマを潰してしまう)につながる。さらには過度な再点検が、独善的な信念のないヒトと遭遇する機会を増やしてしまい、誤ったテーマ中止を行なってしまう。皆からサポートを受けられるプロジェクトは存在しなくなるので、うまくいってるプロジェクトだけが十分な支援を求められるようになる。


6. 作りすぎ フォーカスしきれてない試験、多すぎるプロジェクト
プロジェクトの課題解決を指向していない試験を実施による無駄。これは多様性と自由度の欠如した企業や、技術ベースのユニットによる質の低いプロジェクトで起こりうる。優先順位付けはプロジェクト数を減らしてしまうが、在庫一掃する事ができる。より良い方法は、限定したプロジェクトにコミットを続けさせる事である(これに関してはバイオテック企業が通常の製薬企業より優れている)。


7. 不良品 不完全な科学データ
クリティカルな問題点を指摘/解決するデータがない。それらの課題がステージ後期で判明すれば、プロジェクトは遅滞し、価値は低下する。経験豊富で自己批判できるチームは、弱点の早期発見(と修復)を必要不可欠としている。


リーンを創薬に応用すると、まず第一に、顧客価値の観点から研究を評価し、何らかの驚くべき洞察につなげる事である。興味深い事に、リーンにサポートされた価値観は、過去の創薬の成功事例の貢献者として歓迎されてきた。もし、創薬黄金時代の生産性に回帰したいのなら、ここに示した7つの無駄を排除する事が良いスタートポイントになる。


「生産から製造」と「イノベーション」の相違点

「生産から製造」 「イノベーション」
特性化された技術 過去に例がない
繰り返しの工程 一度しか起こらない
標準化された作業 経験と勘所
品質試験は高精度 品質試験は偽りの結果を示しうる
各工程は最適化済み レトロスペクティブな振り返りでしか考察できない
統計的異常値は減らす 多様性が成功の土台
フォールスポジティブ(欠陥商品の上市)が最打撃 フォールスネガティブ(優れた製品の中止)が最打撃
コスト削減への集中が効果的 生産性向上への集中が効果的
エキスパートの交換の必要性 エキスパートは独自の資源
古典的なリーン哲学が効果的 創薬用のリーン哲学が必要
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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