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SBDD叡智の結集

Charrier J-D, Miller A, Kay DP, et al. Discovery and Structure−Activity Relationship of 3-Aminopyrid-2-ones as Potent and Selective Interleukin-2 Inducible T-Cell Kinase (Itk) Inhibitors. Journal of Medicinal Chemistry. 2011:110310111624035.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jm101499u

ケモゲノミクスでは医薬品の構造の中に分子量の小さな医薬品を含んでいるDrug in Drugという解析が行わた事がある。この驚くべき解析結果は、医薬品創出のリードにはプリビレッジド構造のような頻出部分構造を利用するばかりでなく、旧来の小分子医薬品をリードにする事がプロミッシングである事を示した。このベルテックスの報告では、ITK阻害薬の過程で、Drug in Drugのコンセプトを取り入れた点、ユニークな水素結合の発見、SBDDのプロセスでキナーゼ選択性獲得の為に極めて興味深い考察と知見を得ているので注目に値する。

選択的ITK阻害薬としてBMSのBMS-509744やBoehringer Ingerheimのベンズイミダゾール2が報告されている(Fig. 1)。ベルテックスでも選択的ITK阻害薬探索を実施しており、HTSからリード探索を実施、強力な活性を有するリガンドを見いだしたが、キナーゼ選択性は獲得できず、最適化によってもこの課題は解決できなかった。ひとたび強力な活性のリガンドを見つけると、改めて活性を落として最適化しなおすのは勇気のいる決断である。しかし、このままでは埒があかないと考え、ITK活性に必要なフラグメントに分解し再構築する事で活性と選択性獲得を目指した。ATP結合サイトで水素結合ネットワークを形成するヒンジバインダーは、非常に多くの種類が想定される。しかし、ここではde novoフラグメントからスタウロスポリンや天然物CDK2阻害薬ヒメニアルジシンのマレイミド様構造がITKに活性があると期待し、3点水素結合可能なアミノピリドンに着目 (Fig. 2)、ここでDrug in Drug、すなわちこの骨格を持つ医薬品、血管拡張薬のアムリノン12が極めてドラッグライクな出発点であると考えて母核に選択した。また、アムリノンのアミノ基は多様性ある置換基を導入できる点でもメリットがある。

選択したアムリノンには30μMでも活性がなかった(Fig. 3)。しかしベンゾイル化した7aで1.3 μMの活性が認められ、BEIも20.2と良好(本文はLEと記載しているが計算方法pKi/MWのBEIを採用)。X線結晶構造では、予想どおりピリドン部分が2点で水素結合していたのに対して、第3の水素結合部位のアミンは水素結合としては4Åと距離が離れ、相互作用は弱い(Fig. 4a)。予想外だったのは、ベンズアミドのオルト位水素が4つ目の水素結合様相互作用を形成しているという点である。さらにベンズアミドの方向にはLeu379, Phe437の疎水相互作用が期待され、その先の溶媒方向で極性基導入による物性改善が期待できる(Fig. 4b)。一方で側鎖のピリジンの窒素はLys391とAsp500のソルトブリッジを切断してLys391と水素結合、ピリジン環自体もPhe435とπーσエッジトゥフェイスで相互作用している(Fig. 4a)。Phe435を含むゲートキーパー領域はITK特異的ではないが、キナーゼ全般に共通ではないので、ここで活性と選択性を向上する可能性がある。これら考察から、(1)ベンゾイル部分の変換による活性向上と物性改善、(2)ピリジン部分の変換による活性と選択性向上にフォーカスした最適化を開始した。

第1段階: ベンゾイルのパラ位への疎水性置換基導入は活性を向上させる(Table 1, 7f-m)。ピペリジン7mでは活性が93 nMと大幅に改善、BEIも18.8とリガンド効率をほぼ保持。7mのアミドをリバースアミドにした11でも活性が保持しているので、当初予想したアミンの第3の水素結合はやはり重要ではなく、一方でベンゾイルを飽和環7b、メチレンスペーサー導入7cで活性は消失する事から、フェニル基オルト位の第4の水素結合様相互作用は重要である事が確認された。

第2段階: Table 1で見いだされた7a-mに対して20種類酵素をアッセイしたところ、c-Kit, Flt3, Srcキナーゼに対して選択性が低く、ベンゾイルの変換では解決困難。先の作業仮説の通りに、活性と選択性獲得にゲートキーパー方向への置換基探索を検証した。結晶情報からAsp500とソルトブリッジ形成を期待してメチルアミノ基を導入した7nで活性は7 nMまで13倍向上(Table 2)。この活性向上を理解する為に結晶構造を見ると、予想外にもAsp500と相互作用しているのではなくGlu406と相互作用しておりMet410が160°、Phe435が10°回転して新たに構築された脂溶性ポケットにメチル基が相互作用していた。メチルアミンがメチルチオエーテルに変換すると活性が減弱する事からNHの水素結合は確かに重要。メチル基を嵩高い置換基にすると活性は減弱するので、小さなくぼみを埋める効果も確認。この想定外の相互作用は選択性獲得にはむしろ不利になる。というのも、オフターゲットのSrcではこのようなinduced fitなくしてこのポケットで相互作用しうるからである。さらに不可解にもKit, Flt3ではこのITKのような相互作用部位は報告されていないにも関わらず、強い活性を示している。SBDDで狙ったデザインは予想外の相互作用と説明不可能なオフターゲット活性もあって、デザインを裏切る結果となってしまった。しかしながら、選択性獲得への突破口もまた予想外に訪れる事になる。

第3段階: ピリジン7mをベンゼンにした7qで活性が減弱するので、ピリジン窒素とLys391の相互作用は活性に必要である事が確認された(Table 2)。しかし、Lys391と相互作用しえないような、窒素の位置をシャッフルさせた7t, 7uで、なぜか11 nM, 23 nMの活性が保持され、3つのオフターゲットでは活性は激減してSrc, Kit, Flt3に対する選択性は改善した(7o vs. 7u, Table 3)。いづれのキナーゼもLys391に相当する残基との相互作用が活性に必要なので、窒素をシャッフルさせて相互作用できずに活性は低下する。一方でITKのみで活性が減弱しなかった理由を理解する為に、Watermapを使ったシミュレーションを行い、溶媒和、脱溶媒和を検証した。その結果、ITKには水和分子が存在し、7t, 7uの窒素原子がこの高エネルギー水を放出すると同時に、水分子の相互作用を代用したと考えられた。一方で他の3つのオフターゲットにはこの水分子が存在しないので、エネルギーは獲得できない。SBDDで予測困難な影法師の如きエントロピー効果が、うまく機能している事が推察された。

第4段階: 化合物のドラッグライクネス向上の為にベンズアミド側鎖から溶媒方向に向けてピロリジンを導入した7vで活性は7nMに向上、溶解度は良好な150μg / mLを示した。この変換は3つのオフターゲット選択性を低下させるものであったが、その他70種類以上のキナーゼに対して50倍以上の優れた選択性を示した(Table 3, 4)。3つのオフターゲット選択性獲得は先の水和分子の放出のデザインに注力した。すなわち、1)水素結合アクセプターとしてフルオロフェニル7x (7qに比べて10倍近い活性向上がフッ素が水素結合を形成、水和分子のサロゲートになっている事を示唆)、2)水分子の代替としてシアノ基7yで良好な選択性を示した。


競合段階にあり時間との勝負である創薬研究において、上がりきった活性のケモタイプを放棄する事は、必要と分かっていても容易に実行できない。それでも、そこに踏み込めるのはアイデアがあるからに他ならない。キナーゼヒンジバインダーはあまりに多様性が高く途方に暮れそうだが、ここではde novoデザイン時に医薬品そのものに着目した事が最初の勝負の分かれ目になっている。解決できない課題を持つケモタイプを捨て、活性は弱いが新規のリードとして従来の医薬品に着眼した点、高エネルギー水の放出がブレイクスルーになった点は、バイエル社の往年のファクターXa阻害薬リバロキサバンのデザインを彷彿させる(高エネルギー水放出のリファレンスはまさにそのFXa)。また、SBDDといえば、結晶情報を元に狙い通りに最適化されていく予定調和的で読み応えのないものが多いが、ここでは1)狙った3つ目の水素結合は機能しないが、4点目の予想外のフェニル基水素の水素結合様能の発見、2)ゲートキーパーのAsp500を狙うも、予想外のinduced fitで選択性が出ず、オフターゲット選択性が得られないという難局を、3)SBDDでは予測不能の活性と選択性を持つ置換基に着目し、4)その効果がエントロピー由来の高エネルギー水放出である事に着眼して選択性向上の方向性を見いだす、など当初は予想していなかった結果に考察を加え、新たに見直された再仮説に基づいて問題解決に取り組んだ。本来、SBDDを使ったとしても、タンパクのダイナミクスを予想するのは困難であり、その多くの場合は予想どおりにいかない。それが論文に出る事もほとんどない。重要な事は、予想どおりにいかなかった事実から、なぜそうなったのかを検証して、次のアクションにつなげる事である。
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