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セリンプロテアーゼ阻害薬実践

Zhou C, Garcia-Calvo M, Pinto S, et al. Design and Synthesis of Prolylcarboxypeptidase (PrCP) Inhibitors To Validate PrCP As A Potential Target for Obesity. Journal of Medicinal Chemistry. 2010:100921101803027.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jm101013m


PrCP阻害薬は抗肥満薬としての可能性が期待されている。ここではPrCP阻害薬のセリンプロテアーゼのナレッジを活かしたラショナルデザインを指向する。セリンプロテアーゼ阻害薬と言えば、DPP4やFactorXaといったターゲットで非常に多くの報告にそのナレッジが散在している。一方で、この報告では1報の中に、PrCPを通してセリンプロテアーゼのデザインの方法論が一気通貫しており、模範的アプローチとして参考にできる。
PrCPはセリンプロテアーゼである。セリンプロテアーゼ阻害薬には、活性中心と相互作用するヘテロ環に結合した親電子的カルボニル基が有効という知見がある。また、プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)では、Z-Pro-prolineやその他の親電子カルボニル誘導体がデザインされている。PrCPはとりわけPeptide-Pro-Xxx-OHを好んで分解するセリンプロテアーゼである。これらを考慮し、メルクのライブラリーからケトンを有するN-アシルピロリジンから化合物探索を行った。まず見いだされた化合物1で1.2μMの活性、側鎖のベンゾオキサゾールをベンゾチアゾールに変換した2でその活性は0.3μMまで向上した(Scheme 2)。一方で、このケトンは活性中心と共有結合的に阻害する為にセリンプロテアーゼ選択性獲得が困難であり、経口吸収性にも悪影響を及ぼしうる。さらにアミドα位のケトンは合成面でも困難である。よって、これらの懸念のあるケトンを早期に脱却し、非共有結合性阻害薬に変換する方針をとった。ケトンの変換にはアミドアイソスターを利用し、イミダゾール誘導体3で非常に弱い活性を、さらに側鎖置換基の異なる4で5μMの活性を確認した。続いてP2ポケット方向の最適化としてアルキル側鎖を変換するが脂溶性基のみを許容、ビフェニルメチル5oで活性は90 nMまで改善(Table 1)、次にFmoc-NHの変換を検討(Table 2)、これを除去しても活性が保持、さらに側鎖の置換基変換した6nで活性は30 nM。次にイミダゾール部分の変換、側鎖フェニル基は小さな置換機にすると活性は減弱、脂溶性低下を目的にフェニル基に極性基導入やヘテロ環変換は活性の低下につながった(Table 3)。一方で、フェニル基を縮環させたベンズイミダゾールで活性は保持。ここまでで見いだした化合物は脂溶性が高い為に1%MSA添加系では活性が減弱(Table 4)。脂溶性が高い為にタンパク結合率が低い為と考えられる。また、同じ原因で経口吸収性は低い。これらを解決する為に、ピロリジン環上の置換基探索にきっかけを得ようとジフルオロ化、シクロプロピル化、ヒドロキシル化したが突破口を掴む事はできず、エチレンリンカー上のジメチル化、エーテルリンカー導入も機能しなかった。ところが、元々FMocNH基のあった位置に置換基許容性があり、特にαアミノイソブチレート(AIB)を有する化合物8gにおいて、活性のタンパク添加系でのシフトが小さく、経口吸収性の改善が認められた。AIBは紛れもなくメルクが過去のグレリン受容体作動薬の研究で見いだした置換基であり、その後のグレリン作動薬の世界的競合の中でキーパーツになった置換基である。この置換基のユニークな性質として経口吸収性を改善する機能があり、ここでもそれが発揮された。末端のアミンはアルコールやメチルアミンといった置換基変換では活性は減弱してしまう事から、AIBが重要である事が再認識できる。さらにセレンディピタスだったのはβメチル基においてタンパクシフト値が劇的に低下した点である。これによって活性の種差も解決した。最終的に見いだした化合物8oはタンパク添加シフトのない1nMの非常に強力な活性を合わせ持ち、13%の経口吸収性を示した。この化合物は、相同性の高いセリンプロテアーゼQPP, FAP, PEP, ACE2, DPP4, 8, 9に対する活性は25μM以下で選択性に優れていた。これを用いて抗肥満作用をビボで確認、またノックアウトマウスでは作用がない事からオフターゲットの作用でない事も確かめられた。なお、化合物の中枢移行性はそれほど高くない事から中枢での作用は今後検証する価値があるとしている。

ここではセリンプロテアーゼのラショナルドラッグデザインの起承転結が一気通貫しており、どんな教科書や指南書を読むよりも参考になるだろう。すなわち、
遷移状態アナログのケトンに着目→内因性ペプチドからのブレイクダウン→フォーカスライブラリー展開→共有結合/非共有結合スイッチ(アミドアイソスター)→S2ポケット探索(ペプチド構造脱却)→S1サイト多様性獲得→構造物性相関取得で脂溶性低下と経口吸収性獲得、タンパク結合率低下(メルクの伝統的グレリン作動薬AIBナレッジの適用/ターゲット横断的デザイン)→βメチル基のセレンディピティ→ノーマル動物のみならずノックアウト動物による確実なPOC検証→中枢作用は今後の課題。

合理的な戦略の中で、自社の伝統的ナレッジを取込み、また思わぬ発見を見落とさない、王者メルクの勝ちパターンを顕示している見事な成果といえる。
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テーマ : 科学・医療・心理
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