スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ポートフォリオ X イノスパイア

Betz U a K. Portfolio management in early stage drug discovery–a travellerʼs guide through uncharted territory. Drug Discovery Today. 2011.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644611001449

「未開の地」とも言える創薬初期研究の「旅行ガイド」としてのメルクのポートフォリオ管理。ポートフォリオマネージメントはPJ内、PJ間の客観性と透明性を付与し、公正なディシジョンをする上で必要不可欠なツールである。一方で、創薬は依然として研究者の能力、直感、こだわりに依存している。ただ、各分野の研究者だけでは”創薬死の谷(デス・バレー)”は越えられない。アイデアある志願者達の着想を突き合わせ部門横断的イノベーションを刺激する枠組み(=イノスパイア:Innospire = Innovation + inspire)が必要である。「ポートフォリオ」X「イノスパイア」=「イノベーション」によって死の谷を乗り越え新薬が創出しうる。これがメルクのベストプラクティスなのかもしれない。


-----
ポートフォリオ管理は製薬企業にとって重要な役割を果たしている。1990年代にハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたように、マネージメントの方法論が体系化され、ボストンコンサルティングやゼネラル・エレクトリック、マッキンゼーによって鍵となる戦略的枠組みが考えられた。しかし、研究初期の段階ではそもそも魅力度が不明であり、それ故にいつまで最適化を続けるのか、研究の魅力度の判断(優先順位付け)は困難であり、これらを如何に管理するかは重要なトピックである。ポートフォリオ管理では(方法1)クライテリアのスコア化によって定量化できるが、極めて多様性あるプロジェクトを同一形式では評価困難である。それを補完する一つの方法は、(方法2)「エキスパート・ブラックボックス法」であり、一般論で定義できない専門家の経験や意見、説明を元にスコア化する。もう一つのアプローチは、現場の研究者からPJの確信度を捉える事を目的にした(方法3)「オープン調査」法がある。この手法は、すでにいくつかの製薬企業で取り入れられ、開発化合物を選定するのに利用されている。クラウドに存在する集合知を利用した選別方法は1988年に提案され、臨床試験に進んだ乳がん治療薬の予測をするサイトもある(http://pharmersmarket.crowdcast.com)。



方法1:クライテリアのスコア化モデルー3D解析

クライテリア
1)化学的、生物的見地からの実行可能性
2)スクリーニングのフロー
3)実績
4)知財(IP / FTO)

成熟度:ベスト化合物プロファイル
1)薬効
2)安全性
3)利便性
4)製剤・剤形
5)製造法
6)バイオマーカー・診断法

Table1 : 実行可能性と成熟度の項目:
Score; low = 0, medium =10, high = 15

計算式: Eq. 1

Fig. 1: 実行可能性レベルと成熟度レベルによる分類
Fig. 2: 実行可能性レベルと成熟度レベルによるリスク表示
Fig. 3: リスク評価式:候補化合物を見出した段階でリスク=0。車レースで表示。
Fig. 4: プロジェクトに応じた実効性とリスクの微調整は係数Xで調整(Eq. 2)。より定量的なリスク計算としてEq. 3, Fig. 5。

候補化合物の魅力度=開発実効性と販売実効性
1)ターゲット・バリデーション
2)開発費
3)競合状況
4)マーケットサイズ
5)ポートフォリオ適合性


方法2:エキスパート・ブラックボックス・スコア化法
TAPE解析:Target, Project, Expectationの3つのグラフで解析(Fig. 6)。これらは5つの性質で評価。
1)競合状況
2)ターゲット・バリデーション
3)研究実効性
4)臨床開発実効性
5)販売実効性(最も予測困難だが、販売部門との連携でスコア化)

Target: バリデーションの度合いが高く、競合段階にないテーマは優先順位が高い(Fig. 6A)。
Project:研究実効性と臨床開発実効性の高いPJの優先順位が高い(Fig. 6B)。
Expectation:成功確率と販売実効性(Fig. 6C)。

TAPE解析は、より深い議論と個別の状況判断に取って代わるものではないが、PJ数が増えた際の概観把握に有効。

参入余地マップ化:ゴールドスタンダードと比較した参入余地を、6つの性質からマップ化(Fig. 7)。
1)症状改善での薬効
2)進展抑制作用
3)臨床奏効率(レスポンダー比率)
4)安全性・忍容性
5)利便性
6)費用


<調査>
現場の研究者がオンラインで投票。全従業員の「クラウドの叡智」はPJの命運を決める価値ある予測指標。簡単な「賛成・反対」投票なので1週間で完了できる。さらに外部からアドバイザーを招聘して意見聴取(分野の専門家、経済学者、ベンチャー研究、臨床開発部門、患者)。


初期テーマの適切な優先順位付けは、タイムリーに「生かすか殺すか」を判断できる文化を醸成しPJを見極め、リソースをドラスティックに淀みなく動かせるようになる。


ポートフォリオマネージメントは客観性と透明性を付与し、公正なディシジョンをする上で必要不可欠なツールであるが、一方で、研究開発はPJリーダーが自分のプロジェクトを信じ、課題を乗り越える事で成功する事を忘れてはならない。市場に存在するブロックバスターはどれも一度は研究開発を中止させられ、そのなかで研究者の科学的直感と先見ある企業家精神によって守られる事によって成し遂げられたのだ。それにしても、大企業では、マネージメントはいつも研究者にとって不満の対象になるし、ルールや企業理念はイノベーションのやる気を削いでしまう。製薬企業は本来、研究開発を産業化とするマインドセットを排除すべきだし、イノベーターや起業家精神をもっと育もうとしなくてはならない。研究者が活躍し自主性を発揮できる環境の創出が、プロジェクト推進の原動力である。志願者達が自ら集まり構成されたチーム内では、メンバーは領域横断的イノベーションを引き起こし、アイデアを競合させる枠組みがそこにあると信じており、優れた成果を上げる事ができる。メルクは実際にこれを幾度も経験してきている。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。