OATPトランスポーター指向肝特異性獲得で差別化達成
Li CS, Belair L, Guay J, et al. Thiazole analog as stearoyl-CoA desaturase 1 inhibitor. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2009;19(17):5214-7.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19632834
Léger S, Black WC, Deschenes D, et al. Synthesis and biological activity of a potent and orally bioavailable SCD inhibitor (MF-438). Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2010;20(2):499-502.
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Ramtohul YK, Black C, Chan C-C, et al. SAR and Optimization of Thiazole Analogs as Potent Stearoyl-CoA Desaturase Inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X10000958
Powell DA, Ramtohul Y, Lebrun M-E, et al. 2-Aryl benzimidazoles: human SCD1-specific stearoyl coenzyme-A desaturase inhibitors. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2010;20(22):6366-9.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20933412
Isabel E, A.Powell D, Black WC, et al. Biological Activity and Preclinical Efficacy of Azetidinyl Pyridazines as Potent Systemically-Distributed Stearoyl-CoA Desaturase Inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X10015684
Ramtohul YK, Powell D, Leclerc J-P, et al. Bicyclic heteroaryl inhibitors of stearoyl-CoA desaturase: From systemic to liver-targeting inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2011.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X1101122X
Leclerc J-philippe, Falgueyret J-pierre, Girardin M, et al. Conversion of systemically-distributed triazole-based stearoyl-CoA desaturase (SCD) uHTS hits into liver-targeted SCD inhibitors. BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY LETTERS. 2011.
Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.bmcl.2011.08.073
Oballa RM, Belair L, Black WC, et al. Development of a Liver-Targeted Stearoyl-CoA Desaturase (SCD) Inhibitor (MK-8245) to Establish a Therapeutic Window for the Treatment of Diabetes and Dyslipidemia. Journal of medicinal chemistry. 2011;54(14):5082-96.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21661758
SCD1阻害薬は薬効発現に重要な肝臓暴露量を高める必要がある一方、他の臓器での暴露が副作用につながってしまう。この困難な課題を如何に解決するのか?Merckが開発化合物MK-8245を見出すまでの研究プロセスが明かされる。
第1報は、プロトタイプとして初期に見出したMF-152の報告である。研究開始のきっかけはXenon社の単純なピリダジルピペラジンアミド構造であり、ピリダジンをチアゾールに変換した。チアゾールの4位からカルボキサミドが結合している事が重要で、5位からでは活性は弱い。カルボキサミドがないと活性はなく、カルボン酸でも活性は弱く、アミド部分を伸張しても活性は減弱する。一方で、フェニル基上の置換基はオルト位にトリフルオロメチル基が活性向上に重要である。Δ5, 6不飽和化酵素に選択性のあるSCD1阻害薬MF-152は確かにインビボで強力な薬効を示した。
第2報では、Xenon社のピリダジノピペリジンカルボキサミド(4)はPK改善の余地がある事に注目し、カルボキサミドを極性が上がって代謝的に安定なイミダゾールへ変換し問題解決を指向、化合物8pで8nMの活性と53%の経口吸収性を示した。ところが、CYP阻害が強い。これはイミダゾール由来と考えて、代替基の変換を検討、チアジアゾールのMF-438でCYP阻害を減弱させる事に成功した。クラスエフェクト、すなわち薬効に合わせて脱毛症や半閉眼が副作用として生じ、投薬を止めると症状は回復した。
第3報では、アリールピペラジンアミドMF-152の母核であるピペラジンを変換する。ピペラジンをピペリジン、ピロリジンに変換、リンカーはスルホン、メチレン、チオエーテル、エーテルに変換し、側鎖の最適化により活性とビボの薬効面でも強力なMF-231を見いだした。1週間の毒性試験で、MF-152と同様に進行性脱毛症、半閉眼の副作用が出ており、これはSCD-1ノックアウトのフェノタイプとも一致する事から、この段階でクラスエフェクトとして判断した。
第4報は第1-3報と異なるケモタイプである。この特徴は前述のケモタイプから見出された最終化合物MK-8245がSCD-1,5のデュアル阻害作用であるのに対して、ここで最適化して見いだした化合物8はSCD-1選択的化合物である事をウリにしている。しかし、それ以上の精査は報告されていない。
第5報、Fig.1からSCD阻害薬が類似の構造で競合している事が見て取れる。デザインについて詳細の記載はないが、第2報のMF-438はAbbottの化合物と類似とみなす事ができ、このピペリジンをアゼチジンに変換したデザインとみなす事が出来る。しかしながら、このケモタイプでも眼や皮膚に対するクラスエフェクトを回避して体重低下作用を示した化合物を見いだす事は不可能であった。今後、組織移行性の異なる新規ケモタイプの探索が必要、としている。
第6報ではMF-152の代謝的に不安定なカルボキサミドの変換として、1)等価体オキサジアゾールへの変換、2)チアゾール側への環化による固定化、を考え、ここでは後者の変換を報告している。デザイン・合成した化合物(Table 1)はいづれもMF-152より優れたPKを示し、例えば2c, 2jは血中に比べて肝暴露量が大きい(Fig. 2)。ただし、組織移行性が高いという点で脂肪、皮膚、ハーダー腺にも移行している。ドライアイのような副作用は、ハーダー腺による涙のオレイン酸由来の脂質(トリグリセリド、コレステロールエステル、ろうエステル)量の減少に由来しており、皮膚障害や脱毛といった副作用も抹消への化合物の移行が要因と推定された。
こういった副作用を回避し、抗糖尿病作用を発揮するには、肝選択性が求められる。その為に肝臓特異的に発現するトランスポーターOATPに狙いを定めた。化合物をOATPの基質とする為、化合物2c, 3cにカルボン酸を導入した(16a-c)。化合物16aは7乗の活性だが16b, cは9乗の活性を示している(Table 2)。細胞系活性ではOATPの発現していないhHepG2と発現しているRat Hepを評価した。化合物16aは145倍の活性向上があり、OATPの寄与が大きい事が理解できる。一方で16b, cは受動拡散による排出の影響にOATPの効果が相殺されていると推定される。カルボン酸を導入した化合物の肝臓暴露量は25-60倍低下、しかし組織分布は肝臓特異性が激的改善(Fig. 3)。ハーダー腺を含めた組織選択性の高い16a, cをビボで評価し、16cで薬効を確認している。
アミドの代謝不安定性を環化、肝特異性をカルボン酸導入でOATPを狙って獲得、結果はOATP発現有無の細胞系で検証、という流れで検証・解決へと進んでいる。
第7報では、ウルトラハイスループットスクリーニングから見出されたヒット化合物3と4を最適化する。アニリンNH2は除去した化合物5でも活性がある事を確認。このケモタイプすらも第5報のFig. 1を見れば、ノバルティス・Xenon社のトリアゾール系統と類似に見えるが、右側に強烈なトリブロモフェニル構造を持つ点に特徴がある。化合物のPKは抹消に分布する。ここでも肝臓特異性を獲得する為に、OATPトランスポーターを指向した極性基を導入した。まず左側に酢酸トリアゾールを導入し、リンカーメチレンの最適化(Table 1)、次にテトラゾールとトリアゾールの間に5及び6員環のヘテロ環リンカーを検証(Table 2)、8乗オーダーの活性の37,42,43を評価した結果、肝特異性は66倍から100倍以上と優れ、ラット肝細胞とHepG2の活性の違いからOATPのポテンシャルが高いのは化合物37であると判明。しかし、ビボでアクティブな化合物は得られずに終わった。
第8報でも、眼や皮膚障害のクラスエフェクトを回避する為に、肝臓選択的薬剤を指向し、他の組織への暴露を最低限に抑え、副作用を最低限にとどめる戦略をとった。
肝臓選択性を出すための手段として
(1)ナノ粒子によって、低分子、タンパク、遺伝子、siRNAを輸送するDDS、
(2)肝ダイレクトに、ヌクレオシドのように低分子をP450で切断されるプロドラッグ、
(3)肝臓特異的なトランスポーターの基質をデザインする、
といった方法が考えられる。ここでは飽くまで(3)の戦略(評価フローはFig. 1)、OATPトランスポーターを指向してカルボン酸の導入を検討した(Fig. 2)、右側部分への導入3は機能しなかったが、左側に導入した2が有効であったので、詳細なSARの検証へと進んだ。テトラゾールを導入した4では活性が大幅減弱、SCD活性向上を指向して過去のSARを参考に2,5-ジハロゲン置換として臭素とフッ素を有する5で活性が8倍向上、さらなる活性向上はテトラゾールの側鎖に酢酸を導入した6で達成され、最後に中央チアゾール環をイソオキサゾールに変換した7で3 nMの強力な活性と肝特異性を獲得した。OATPトランスポーターの活性、組織移行性、眼と皮膚に対する副作用の低減に成功し、開発化合物MK-8245を選択した。
MK-8245はフェーズ2治験後に開発中止となったが、SCD1阻害薬としては臨床に入った稀有な化合物である。一連の研究を見れば、Merckが決して先行していたわけでなく、Xenon、アボットといった他社の公知情報からの研究展開であった。実際のところ、その化合物の構造自体はドラスティックには変わっていない。しかし、モチーフは同一であるにも関わらず、後から追いかける状況にも関わらず、Merckがこういった他社と差別化できたのは肝臓特異性を獲得する為にOATPトランスポーターを狙った事に他ならない。このアイデアこそが、公知情報からの構造変換であっても、その既存のモチーフを残しながらも、他社を退け、臨床へと進めたドライビング・フォースであった事は間違いない。
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19632834
Léger S, Black WC, Deschenes D, et al. Synthesis and biological activity of a potent and orally bioavailable SCD inhibitor (MF-438). Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2010;20(2):499-502.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20004097
Ramtohul YK, Black C, Chan C-C, et al. SAR and Optimization of Thiazole Analogs as Potent Stearoyl-CoA Desaturase Inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X10000958
Powell DA, Ramtohul Y, Lebrun M-E, et al. 2-Aryl benzimidazoles: human SCD1-specific stearoyl coenzyme-A desaturase inhibitors. Bioorganic & medicinal chemistry letters. 2010;20(22):6366-9.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20933412
Isabel E, A.Powell D, Black WC, et al. Biological Activity and Preclinical Efficacy of Azetidinyl Pyridazines as Potent Systemically-Distributed Stearoyl-CoA Desaturase Inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2010.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X10015684
Ramtohul YK, Powell D, Leclerc J-P, et al. Bicyclic heteroaryl inhibitors of stearoyl-CoA desaturase: From systemic to liver-targeting inhibitors. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2011.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X1101122X
Leclerc J-philippe, Falgueyret J-pierre, Girardin M, et al. Conversion of systemically-distributed triazole-based stearoyl-CoA desaturase (SCD) uHTS hits into liver-targeted SCD inhibitors. BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY LETTERS. 2011.
Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.bmcl.2011.08.073
Oballa RM, Belair L, Black WC, et al. Development of a Liver-Targeted Stearoyl-CoA Desaturase (SCD) Inhibitor (MK-8245) to Establish a Therapeutic Window for the Treatment of Diabetes and Dyslipidemia. Journal of medicinal chemistry. 2011;54(14):5082-96.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21661758
SCD1阻害薬は薬効発現に重要な肝臓暴露量を高める必要がある一方、他の臓器での暴露が副作用につながってしまう。この困難な課題を如何に解決するのか?Merckが開発化合物MK-8245を見出すまでの研究プロセスが明かされる。
第1報は、プロトタイプとして初期に見出したMF-152の報告である。研究開始のきっかけはXenon社の単純なピリダジルピペラジンアミド構造であり、ピリダジンをチアゾールに変換した。チアゾールの4位からカルボキサミドが結合している事が重要で、5位からでは活性は弱い。カルボキサミドがないと活性はなく、カルボン酸でも活性は弱く、アミド部分を伸張しても活性は減弱する。一方で、フェニル基上の置換基はオルト位にトリフルオロメチル基が活性向上に重要である。Δ5, 6不飽和化酵素に選択性のあるSCD1阻害薬MF-152は確かにインビボで強力な薬効を示した。
第2報では、Xenon社のピリダジノピペリジンカルボキサミド(4)はPK改善の余地がある事に注目し、カルボキサミドを極性が上がって代謝的に安定なイミダゾールへ変換し問題解決を指向、化合物8pで8nMの活性と53%の経口吸収性を示した。ところが、CYP阻害が強い。これはイミダゾール由来と考えて、代替基の変換を検討、チアジアゾールのMF-438でCYP阻害を減弱させる事に成功した。クラスエフェクト、すなわち薬効に合わせて脱毛症や半閉眼が副作用として生じ、投薬を止めると症状は回復した。
第3報では、アリールピペラジンアミドMF-152の母核であるピペラジンを変換する。ピペラジンをピペリジン、ピロリジンに変換、リンカーはスルホン、メチレン、チオエーテル、エーテルに変換し、側鎖の最適化により活性とビボの薬効面でも強力なMF-231を見いだした。1週間の毒性試験で、MF-152と同様に進行性脱毛症、半閉眼の副作用が出ており、これはSCD-1ノックアウトのフェノタイプとも一致する事から、この段階でクラスエフェクトとして判断した。
第4報は第1-3報と異なるケモタイプである。この特徴は前述のケモタイプから見出された最終化合物MK-8245がSCD-1,5のデュアル阻害作用であるのに対して、ここで最適化して見いだした化合物8はSCD-1選択的化合物である事をウリにしている。しかし、それ以上の精査は報告されていない。
第5報、Fig.1からSCD阻害薬が類似の構造で競合している事が見て取れる。デザインについて詳細の記載はないが、第2報のMF-438はAbbottの化合物と類似とみなす事ができ、このピペリジンをアゼチジンに変換したデザインとみなす事が出来る。しかしながら、このケモタイプでも眼や皮膚に対するクラスエフェクトを回避して体重低下作用を示した化合物を見いだす事は不可能であった。今後、組織移行性の異なる新規ケモタイプの探索が必要、としている。
第6報ではMF-152の代謝的に不安定なカルボキサミドの変換として、1)等価体オキサジアゾールへの変換、2)チアゾール側への環化による固定化、を考え、ここでは後者の変換を報告している。デザイン・合成した化合物(Table 1)はいづれもMF-152より優れたPKを示し、例えば2c, 2jは血中に比べて肝暴露量が大きい(Fig. 2)。ただし、組織移行性が高いという点で脂肪、皮膚、ハーダー腺にも移行している。ドライアイのような副作用は、ハーダー腺による涙のオレイン酸由来の脂質(トリグリセリド、コレステロールエステル、ろうエステル)量の減少に由来しており、皮膚障害や脱毛といった副作用も抹消への化合物の移行が要因と推定された。
こういった副作用を回避し、抗糖尿病作用を発揮するには、肝選択性が求められる。その為に肝臓特異的に発現するトランスポーターOATPに狙いを定めた。化合物をOATPの基質とする為、化合物2c, 3cにカルボン酸を導入した(16a-c)。化合物16aは7乗の活性だが16b, cは9乗の活性を示している(Table 2)。細胞系活性ではOATPの発現していないhHepG2と発現しているRat Hepを評価した。化合物16aは145倍の活性向上があり、OATPの寄与が大きい事が理解できる。一方で16b, cは受動拡散による排出の影響にOATPの効果が相殺されていると推定される。カルボン酸を導入した化合物の肝臓暴露量は25-60倍低下、しかし組織分布は肝臓特異性が激的改善(Fig. 3)。ハーダー腺を含めた組織選択性の高い16a, cをビボで評価し、16cで薬効を確認している。
アミドの代謝不安定性を環化、肝特異性をカルボン酸導入でOATPを狙って獲得、結果はOATP発現有無の細胞系で検証、という流れで検証・解決へと進んでいる。
第7報では、ウルトラハイスループットスクリーニングから見出されたヒット化合物3と4を最適化する。アニリンNH2は除去した化合物5でも活性がある事を確認。このケモタイプすらも第5報のFig. 1を見れば、ノバルティス・Xenon社のトリアゾール系統と類似に見えるが、右側に強烈なトリブロモフェニル構造を持つ点に特徴がある。化合物のPKは抹消に分布する。ここでも肝臓特異性を獲得する為に、OATPトランスポーターを指向した極性基を導入した。まず左側に酢酸トリアゾールを導入し、リンカーメチレンの最適化(Table 1)、次にテトラゾールとトリアゾールの間に5及び6員環のヘテロ環リンカーを検証(Table 2)、8乗オーダーの活性の37,42,43を評価した結果、肝特異性は66倍から100倍以上と優れ、ラット肝細胞とHepG2の活性の違いからOATPのポテンシャルが高いのは化合物37であると判明。しかし、ビボでアクティブな化合物は得られずに終わった。
第8報でも、眼や皮膚障害のクラスエフェクトを回避する為に、肝臓選択的薬剤を指向し、他の組織への暴露を最低限に抑え、副作用を最低限にとどめる戦略をとった。
肝臓選択性を出すための手段として
(1)ナノ粒子によって、低分子、タンパク、遺伝子、siRNAを輸送するDDS、
(2)肝ダイレクトに、ヌクレオシドのように低分子をP450で切断されるプロドラッグ、
(3)肝臓特異的なトランスポーターの基質をデザインする、
といった方法が考えられる。ここでは飽くまで(3)の戦略(評価フローはFig. 1)、OATPトランスポーターを指向してカルボン酸の導入を検討した(Fig. 2)、右側部分への導入3は機能しなかったが、左側に導入した2が有効であったので、詳細なSARの検証へと進んだ。テトラゾールを導入した4では活性が大幅減弱、SCD活性向上を指向して過去のSARを参考に2,5-ジハロゲン置換として臭素とフッ素を有する5で活性が8倍向上、さらなる活性向上はテトラゾールの側鎖に酢酸を導入した6で達成され、最後に中央チアゾール環をイソオキサゾールに変換した7で3 nMの強力な活性と肝特異性を獲得した。OATPトランスポーターの活性、組織移行性、眼と皮膚に対する副作用の低減に成功し、開発化合物MK-8245を選択した。
MK-8245はフェーズ2治験後に開発中止となったが、SCD1阻害薬としては臨床に入った稀有な化合物である。一連の研究を見れば、Merckが決して先行していたわけでなく、Xenon、アボットといった他社の公知情報からの研究展開であった。実際のところ、その化合物の構造自体はドラスティックには変わっていない。しかし、モチーフは同一であるにも関わらず、後から追いかける状況にも関わらず、Merckがこういった他社と差別化できたのは肝臓特異性を獲得する為にOATPトランスポーターを狙った事に他ならない。このアイデアこそが、公知情報からの構造変換であっても、その既存のモチーフを残しながらも、他社を退け、臨床へと進めたドライビング・フォースであった事は間違いない。
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