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逆転の発想:作業仮説2回捻り

Fujimoto T, Tomata Y, Kunitomo J, Hirozane M, Marui S. Discovery of Spiropiperidine-based Potent and Selective Orexin-2 Receptor Antagonists. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2011.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960894X11011930


オレキシンはオーファンGPCRとして1998年に桜井・柳沢らによって同定された。GPCRではMCHとほぼ同時期に発見されており、13年経った今もなお新薬が見いだせていない事が、これらテーマのターゲットクラス、すなわち内因性リガンドにペプチドを有するGPCRの低分子リガンド探索の難解さを物語っている。オレキシン拮抗薬は多くのリガンドが報告されている中、アクテリオン・GSKのアルモレキサントとメルクのMK-4305が臨床後期フェーズ3に進んだが、アルモレキサントは開発中止となった。アルモレキサントはヒトの臨床試験で、既存のGABA作動薬より優れた不眠症治療薬としての可能性を示したが、一方で、最近になってOX1R拮抗活性がOX2Rによって誘起される睡眠作用を阻害するという報告がされ、より優れた次世代不眠症治療薬として選択的OX2R拮抗薬が注目されている。

 この報告では公知のリガンドからデザインする方針をとり、スピロピペリジン構造1の中枢薬としての高いポテンシャル(400オーダーの分子量、低極性表面積、適度の脂溶性、回転結合数が2つ)に着眼した。ドラッグライクネスの向上には脂溶性と分子量の低下が一般に受け入れられたアプローチである。そこでスピロ環に酸素原子を入れて脂溶性を低下させた2、さらにキノキサリンを開環して低分子化したフェニルウレア3をデザインして合成した。最初の化合物2は230 nMの活性で7倍のOX1R選択性を有していたが、代謝安定性は低い。一方で、開環体のフェニルウレア3は、活性が3倍減弱して710 nMと弱いが選択性は若干改善(8.9倍)、代謝安定性も改善している(Table 1)。二つの化合物のドラッグライクネスを評価した結果、活性こそ2が上回るが、LEでは同等、LLEではむしろ化合物3の方が優れている。また、分子サイズと脂溶性の最大結合効率で中枢薬の指標に優れたLELPで見ても化合物3が優れていた。この結果から、続く最適化のリード化合物は、活性は弱いがドラッグライクネスが高いと判断できるフェニルウレア3を選択した。

 ここで化合物3では溶解度の低さとアミナール構造由来の酸性に対する不安定性が問題として浮上した。課題解決のアイデアはピペリジンβ位へのフッ素導入である。その作業仮説は、強力な電子吸引性のフッ素を導入すればオキサゾリジンの持つアミナール構造を安定化し、さらに分子の対称性を崩す事によって結晶のパッキングを低下させ溶解度が改善しうるというもので、機能すれば一挙両得の解決法となる。モノフルオロ化した4a,bは、ピペリドンのTMS化の後、Selectfluorの処理によるフッ素化で(Scheme 3)、ジフルオロ化した4cは、不飽和エステル14からのマンニッヒ反応、リフォートマスキー反応、ディックマン閉環の3段階によるジフルオロ体合成が鍵工程となっている(Scheme 4)。化合物4a-cは狙い通り溶解度が改善した(Table 2)。融点低下が結晶性低下の寄与を示唆している(化合物3:201℃; 1化合物4a:アモルファス;化合物4b:188℃; 化合物4c:138℃)。期待通り酸性溶液中でも安定に存在し、良好な溶解度を示した。活性面ではジフルオロ体4cで減弱したがモノフルオロ体4a, bで向上し、4aはOX1とのデュアルのプロファイル、逆に4bはOX1選択性が11倍に拡大した。さらに、化合物4bで脂溶性が低下して代謝安定性が改善している。4bではフッ素の立体的配置が分子の双極子モーメントを強めて脂溶性を低下させたと想定している。

 最後に、活性と選択性向上を期待してスルホンアミド置換基を探索。3位もしくは4位へのメトキシ基導入(4d, 4e)で両課題の改善が認められたので、これらの相乗効果を期待して3,4-ジメトキシ基とした4fをデザインした。この化合物は、活性が3.3 nMと非常に強力で、選択性は450倍と劇的に改善した(Table 3)。一見すると代謝的に不安定なメトキシ基を二つ有するが、フェニル基上の2置換タイプとしては代謝安定性を改善する優れた置換基である事がファイザーのデータ・マイニングの結果から報告されており、実際に代謝安定性は優れた値を示した。


 酸素原子を導入して脂溶性を低下させるという最初のアプローチは一般的にとられる手段であるが、ここではそれが不安定なアミナール構造になるために普通ならば敬遠する。しかし、著者らは敢えてそこに最初の足がかりを見出した。実際、ここで得た化合物3は酸性中で不安定である。これで終わるなら無謀な方策だが、潜在的に有する弱点をフッ素の電子吸引性を活かして克服している点が重要である。通常誰もがしない方向性に敢えて踏み出すのは、森田桂元社長の著書にもある武田の伝統的ドラッグデザイン「逆転の発想」を想起させる。その極意は、発想を転換するだけの単発で終わらず、次の一手によってさらなるアドバンテージを獲得する2段階のプロセス「作業仮説2回捻り」であり、オリジナリティ・新規性を発揮する原動力となる。また、結果的にフッ素の導入が、期待した酸性中不安定性の解消と溶解度向上のみならず、活性向上と脂溶性低下、代謝安定性改善、選択性向上といった一挙両得どころか6つもの恩恵を与えた事がブレイクスルーとなったのも間違いない。研究方針では、最初の段階で活性に引きずられずにドラッグライクネスを指標に研究をナビゲートした点、一見すると代謝的に不安定なジメトキシフェニルが代謝的に安定であるという知見を積極的に利用した点、対称性を崩して溶解度を向上させる点、フッ素の性質を活かしたデザインなど、要所でナレッジにレバレッジを利かしている事も特筆すべき点である。最終的に、最適化された化合物4fではLEは0.31から0.35に、LLEは実に3桁向上の3.56から6.82に、LELPでは6桁の9.90から3.86に、ドラスティックに活性面、物性面での改善を達成していた。

 ただ単に合理的にナレッジベースで進めるのも月並みで、新たな発見はなかったかもしれない。新たな発見は、いつも規格外のルール・ブレイカー、統計上の極端な外縁のアウトライヤーから起こる。このような通常誰しも踏み入れない未開拓のドラッグスペースへ足を踏み入れる為のアイデアが「逆転の発想」であり、逆転の発想が新知見の手がかりを得るきっかけとなる。
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テーマ : 科学・医療・心理
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