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独自の作業仮説:置換基定数、切れ味鋭し

Fujimoto T, Kunitomo J, Tomata Y, et al. Discovery of Potent, Selective, Orally Active Benzoxazepine-based Orexin–2 Receptor Antagonists. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2011.
Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.bmcl.2011.08.093


先の報告では公知情報からのドラッグデザインで新規で極めて強力かつ選択的なオレキシン2のリガンドを創出した。第2報では全く戦略を変え、HTSからのリガンド探索を検討する。HTSからいくつものヒット化合物が得られる中、ベンゾオキサゼピン1aに注目した。この化合物は74 nMの強力な活性とOX1Rに対して35倍の良好な選択性を有している。ところが、代謝安定性は低く、ラットでの経口吸収性が認められなかった。この代謝安定性の低さの要因を、代謝を受けやすいメトキシ基、もしくはそれを含む電子リッチなジメトキシフェニル部分構造に由来すると推定した。電子リッチなキノイド構造はトキシコフォアとして知られ、バイオアクティベーションの引き金となって免疫系由来の毒性につながる事も懸念される。よって、キノイド部分構造の脱却は薬物動態と安全性の両面を担保する上でもケモタイプの命運を決定づけると考えその変換に注力した。

 課題のメトキシ基を除去すると代謝安定性は改善する事から、メトキシ基が代謝の原因になっている事は確認できたが、活性は大幅に減弱してしまう(1b, Table 1)。メトキシ基よりも電子供与性を低減した置換基として、メチル、エチルで活性は保持(1c, d)、メタンチオール1eで活性は11倍強力だが、いづれも代謝安定性は増悪してしまった。これら置換基ではメトキシ基同様に代謝を受けやすいか、電子供与性の減弱度が代謝安定性を改善するのに不十分だったのかもしれない。
 積極的に代謝安定性を改善する為、代謝を受けにくく極性の電子吸引性置換基であるシアノ基やメタンスルホニル基を導入した(1f, 1g)。一般に高極性と芳香環の電子欠損性はいづれも代謝安定性改善に寄与しうる。実際に、極めて優れた代謝安定性を示したが、活性の消失という対価を払う結果となってしまった。
 活性があるものは代謝安定性が悪く、代謝安定性が良いものでは活性が失われる、この悩ましい状況を打開し、活性と代謝安定性を両立する為、SARを置換基定数の脂溶性パラメーターであるハンシュのπ値と、電子性パラメーターであるハメットのσを指標にしたクラシカルな定量的構造活性相関法クレイグ・プロットにSARを投射して考察した。この観点に立つと、シアノ基1fやメタンスルホニル基1gでは-π、+σpの領域で、極性と電子吸引性の性質が活性消失に関連していると推察される。一方で、活性のあるメトキシ基1a、メチル基1c、エチル基1d、メタンチオール基1eは対称的な+π、-σpの領域で、電子供与性のみならず脂溶性が活性発現に寄与していると期待できる。この考察から、第3の領域+π、+σpに注目、代謝的に安定な電子吸引性でも脂溶性を高めれば、代謝安定性を損なう事なく活性が向上できると考えた。実際に、F, Cl, Br, CF3, OCF3(1h-1l)と置換基のπ値の脂溶性が高まる事で、代謝安定性を損なう事なく活性は向上し、最も活性の強いトリフルオロメチル基1fは140 nMの許容される活性を示した。
 最後の仕上げは、トリフルオロメチル基からの置換基の微調整で完結する。トリフルオロメチル基は高い脂溶性と強力な電気陰性を有する。活性に寄与する脂溶性は既に十分高いが、電子供与性も活性のファクターである事がこの作業仮説の鍵である。トリフルオロメチル基の電子吸引性を減弱、つまり、若干の電子供与性を付加すれば、より強力な活性を引き出せるとのコンセプトの元、電子吸引性の要因であるフッ素の1つを水素に置き換えたジフルオロメトキシ基1mをデザインした。この化合物1mは狙い通り代謝安定性を損なう事なく、27 nMの強力なアンタゴニスト活性を示した。この結果から迷うことなく1mを精査化合物に選定した。
 化合物1mは16μg / mLの水溶性を示し、脂溶性log D 3.32は中枢薬のドラッグスペースの範疇にある。OX1Rの活性は3μMで100倍以上の選択性があり、選択的OX1R拮抗薬とみなす事ができる。1 mg / kgの経口投与で血中暴露量は658 ng / mLと良好で、経口吸収性は52%、クリアランスは低い。MDRの評価から膜透過性は十分で、Pgp基質の懸念は低く、高い脳内移行性が期待された。インビボ試験では用量依存的に有意なオレキシン拮抗活性を確認した。


 ヒット化合物1aの構造を見れば、変換しうる置換位置はいくつも考えうるが、メトキシ基の見極めが鍵になるとの作業仮説をたてて集中した事に研究者の哲学が表れている。一見すると単純な置換基変換にみえるが、サプリメンタリー・インフォメーションを見れば、前駆体2を置換基に応じた合成法を設定していることが理解でき、決して流れ作業で変換していない事が想像できる。最適化部位は一箇所に集中しているが、ドラッグデザインで重要な事はドラスティックな構造変換をしたか否かではなく、その変換が如何に機能したかである(Design is not just what it looks like and feels like. Design is how it works. Steve Jobs)。活性と代謝安定性の両立は、いつもペプチド性GPCRに共通の課題である。活性を上げようとすれば代謝安定性を損ない、逆に代謝安定性を改善しようとすると活性が減弱する。創薬化学でありがちなジレンマを、脂溶性と電子状態に注目して突破した。二つのファクターをハンシュのパイ値とハメットのシグマ値を利用して巧みに操り、電子吸引性で代謝安定性のグリップを利かせながら、脂溶性を高めて活性を上げ、活性向上も脂溶性一辺倒に頼るのではなく、最後は逆に脂溶性は低下するが電子供与性を付与して、活性と代謝安定性の両課題を克服し、ベストバランスを達成したのである。最終的に見出された化合物のLEは0.40とドラッグライクである事がポテンシャルの高さを物語っている。選択的OX2Rの低分子リガンドはGSK、J&Jや万有から報告されていたが、代謝安定性と経口吸収性に優れ、経口で低容量から作用を示した報告としては、おそらく最初の報告例である。前報では公知情報から独自の骨格をデザインし、本報ではHTSからデザインしており、目的達成の為に異なる研究戦略を立てる事ができている。一方で、共通してフッ素の性質をうまく利用している点に、研究者のアイデア・ナレッジ・フィロソフィを垣間見る事ができる。前報を含めてオーサーを見ると、おそらく、2系統の化合物を創出した創薬化学者が、一人のマネージャーと僅か3人の現場の研究者で取り組んだ事が推察できる。創薬化学は、ともすれば、人海戦術で合成検体数の力技で押し切る事が多いが、作業仮説があれば最小限で有望な化合物も探索しうる。優れた化合物を得るためには、HTSのように最初の発見がたとえ偶然であったとしても、それに続く研究が一貫して理論的でなければならない。新たな発見をする為の体系化された方法はない。当然、計画的に独創性を生み出す方法も存在しない。重要な事は、独自の作業仮説を見出そうと挑戦する事である。
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