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逆転の発想:虎穴(CYP17; ヘム鉄)に入らずんば虎児(選択性; デザイン→TAK700)を得ず

Kaku T, Hitaka T, Ojida A, et al. Discovery of orteronel (TAK-700), a naphthylmethylimidazole derivative, as a highly selective 17,20-lyase inhibitor with potential utility in the treatment of prostate cancer. Bioorganic & Medicinal Chemistry. 2011.
Available at: http://dx.doi.org/10.1016/j.bmc.2011.08.066


 前立腺癌は、去勢外科手術やリュープリンのようなペプチド性LH-RH作動薬によって治療されるが、治療中の患者の多くが去勢耐性前立腺癌(CRPC)を再発し、その後期には有効な治療方法が残されていなかった。CRPCに対する一つのアプローチは、CYP17A1の17,20-リアーゼ活性を阻害し、癌とプラズマ中でのアンドロゲンレベルを低下させる事があげられる。武田の研究者が見出した化合物1は16 nMの強力な阻害活性を持つが、CYP阻害薬の悲しき宿命か、代謝酵素のCYP3A4阻害活性は3.6μMと強かった。このテーマの鍵になるのは、リアーゼの強力な阻害活性を求めつつ、同一CYPファミリーのCYP3A4に対して高い選択性を獲得するという、誰しもが難解とわかる問題の克服にある。

 化合物1の光学分割体1aの絶対配置はスルホニル体2のX線結晶構造解析によって判定した。得られたユートマー1aの活性は5.5 nM、CYP3A4は7.8μMに選択性は拡大した。この結合モードを理解する為に、リアーゼの酵素ドメインをCYP2C5の結晶構造情報を元にしたホモロジーモデルによって作成し、リガンドをドッキングさせた。化合物1aのイミダゾール環はヘム鉄に配位し、Thr101とカルバモイルが、Thr306とヒドロキシル基が水素結合し、ナフタレン環がAla113, Phe114, Ile205, Ala302, Ile371の疎水性ポケットを占有し、イソプロピル基が小さな疎水性ポケットを埋めていると考えられた。2つの水素結合は重要と考えて、小さなイソプロピル基からコンパクトに固定化した縮環イミダゾール構造をデザインした(Fig. 4)。閉環した3cは38 nMの強力な活性を有し、CYP3A4阻害活性は10μM以下、11-ヒドロキシラーゼも1μM以下と優れた選択性を示した(Table 2)。当初の予測通り、配位性イミダゾールの嵩高さを低減させる事での活性向上と考えられる。また3級アルコールを除去した3dでは選択性は大幅に低下してしまう。また縮環を解いた3jでは活性、選択性共に激減する。この事から、3級アルコールも縮環構造も活性・選択性に重要である事が確認された。次にアミド部分を変換したが代替基は見い出せず(Table 3)。よってベスト・バランスの3cを光学分割し、ユートマーを開発化合物TAK-700に選出した。TAK-700は強力なインビボ活性を示し、CYP2C19に14μM,CYP1A2には28μM、それ以外のCYP1A2, 2A6, 2B6, 2C8, 2C9, 2D6, 2E1, 3A4に対して30μM以下と課題のCYPに対して非常に強力な選択性を示し、現在フェーズ3開発中である。

 CYP阻害作用はドラッグデザインの時にはいつも付いて回る悩ましい課題である。それを回避する為に化合物の各所に極性基を入れたり脂溶性を低下させたり四苦八苦させられる。ましてや、オンターゲットでCYPファミリーを狙うというのは無謀にも思える挑戦である。しかし、ここへ敢えて踏み込んだ所に発想の逆転があった。さらに、通常であればCYPの反応中心であるヘム鉄への配位型を狙うのは普通に考えると選択性が出にくいと推測されリスクが高すぎる。ここで作業仮説は2度捻られる。すなわち、敢えてCYPの配位型を狙ったのだ。この方針にはメリットが考えられる。ドラッグデザインでは、リアーゼの結晶が得られていない為か、CYP2C5からのモデルによるドッキングを利用している。デザインした化合物が配位型である為に、ホモロジーモデルであるにも関わらず高い予測精度が獲得できたのではないかと考えられる。結果として、活性を高める為の合理的アプローチが提案され、その合成検体数もずっと少なく済ませる事ができたに違いない。光学分割から合成法設定、モデリングやビボといった一連の作業が僅か13人の研究者だけで達成されている事も見逃せない。研究者の数を投入して力づくで化合物を合成して進めるアプローチとは異なる、日本人ならではのアイデア、創意工夫、繊細な技術といった叡智が盛り込まれている。CYP阻害をオンターゲットにオフターゲットのCYP阻害を回避する様は『虎穴に入らずんば虎児を得ず』、敢えてヘム鉄に配位させる事で合理的デザインを可能にする様は、『斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、身を棄ててこそ浮かぶ瀬もあれ』という言葉を想起させる、研究力の高さを示した秀作である。
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テーマ : 科学・医療・心理
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