スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ドラッグデザインの羅針盤は脂溶性

Waring MJ. Lipophilicity in drug discovery. Expert Opinion on Drug Discovery. 2010;5(3):235-248. Available at: http://informahealthcare.com/doi/abs/10.1517/17460441003605098.


脂溶性と化合物の性質との相関を示したレビュー。化合物の物性、ADME、毒性をクリアするには、log Pもしくはlog Dが1?3のレンジにおさめるのが重要、との内容。各パラメーターの詳細については、本文及びそのリファレンスを参照すれば良いが、Fig. 5にそれらがまとめられていて、説得力がある。飽くまでガイドライン、不変の掟のようにとらえる必要はないが、研究を進める上で一つの羅針盤になりうる。


---------------<ADME>
1)溶解度
溶解度と脂溶性、融点の関係式に従うと、融点が150℃の化合物で100μM以上の溶解度を実現する為には、logP<3.25が必要。これは脂溶性を下げれば溶解度が改善する事に一致。クラークの711個のドラッグライクな化合物の溶解度測定の結果、溶解度はlogPに依存するが明確な相関はなかった。すなわち、logP>3ではわずか1%の化合物しか溶けない(>250μg / mL)。一方で、logP<3では50%の化合物は溶ける。イオン化する化合物ではpHとpKaに指数関数的相関がある為に系は複雑になるが、それでもlogPは低い方が溶解度は良い。GSKの44584化合物を検証した結果、やはりlogP<3で非常に高い溶解度が達成されていた。

2)膜透過性
脂溶性と膜透過性には相関がある。極性の高い分子は脱溶媒和ペナルティと脂質2重膜との親和性の低下を招いて膜透過性は落ちる。エガンはlogPが-1から5.9でPSA<132Å2が必要と示した。さらに最近にはアストラゼネカでは膜透過性は分子量に依存し、50%以上の化合物で100 nm / s以上の良好な膜透過性を実現するには、分子量350-400ではlogD > 1.7、400-450ではlogD > 3.1、450-500ではlogD > 3.4、500以上ではlog D > 4.5が必要である事を見いだした(Fig. 1)。

3)代謝、消失
一般に脂溶性を下げると代謝安定性は改善し、消失速度は低下する。ただし、代謝安定性の改善には代謝部位の除去やブロックといった方法論も存在する。ファイザーの47018化合物の代謝安定性を検証した結果、logDの低下と代謝安定性に相関があり、logD < 3が望ましいと結論づけられ、この傾向は分子量には依存しない。一方で脂溶性が低すぎると腎クリアランスを受ける。log D < 0では50%の化合物で腎分泌の影響が大きく、logD > 1.2で50%の化合物は腎再吸収を受ける。腎クリアランスは未だ未解明の部分が大きいが、logD <0-1の領域では50%の化合物は腎クリアランスを強く受ける。イオン化状態の違いが代謝されやすさの違いに影響するが、それはタンパク結合率の違いで説明される。670化合物のヒトで肝血流量はlog P < 0では10%だが、log P > 4では40%であり、やはり脂溶性の影響が大きい。

4)経口吸収性
経口吸収性は膜透過性と溶解度、代謝安定性に影響を受け、そのlogPは0-3、より予測の精度に向いているlog Dでは1-3が望まれる。トップリスの解析ではヒトでの経口吸収性はlog Dが-2から3の範囲での化合物分布の増加と経口吸収性の増加に相関がある。注目すべきは80%以上の経口吸収性のある化合物は99%がこのレンジにおさまっている。ベーベルは回転結合数とPSAに、アボットではイオン化状態毎に経口吸収性との相関をとっており、ここではlogDとの相関は不明である。

5)分布
組織移行性と脂溶性にも相関があるが、この場合は化合物のイオン化状態がタンパク結合率に影響する為に、分布容積に与える大きい。酸性化合物はlogDから想像されるよりもタンパク結合率は高い。中枢移行性に関しては、膜透過性だけでなく、血液脳関門、Pgp排出系の影響もうける。50個の中枢薬はlog P>2であり、log D1-3が中枢薬のガイドラインとして示されている。

<毒性>
1)一般的毒性
脂溶性の高い分子はオフターゲットにあたりやすく、プロミスカスに毒性を示す。2133個の医薬品のセレップデータベースではlog P >3でプロミスカスさは劇的に増大する。ロッシュの213化合物ではlog P > 2。どちらのケースも塩基性化合物は酸性や中性化合物に比べてプロミスカスさは高く、モノアミン性GPCRに相互作用しやすい為と考えられている。ファイザーではラット及びイヌの毒性試験で、log P < 3でPSA<75Å2の化合物に比べてlog P>3、PSA<75Å2の化合物は毒性リスクが2.5倍高まる事を示している(Table 1)。

2)hERG
脂溶性とhERGにも相関が報告されており、中性、塩基性化合物ではlog Dが上昇するとhERG阻害が強くなる(Figure 2)。脂溶性低減は目的のターゲットに対する親和性低減を招くリスクがあるものの、hERG回避の方法論の一つとしてシンプルで最も確立された手法である。

3)フォスフォリピドーシス
フォスフォリピドーシスのリスクはlog P2+pKa2 > 90と言われており、たとえば塩基性化合物でpKaが9とすると、望まれるlog P < 3となる。ファイザーでは、63個の医薬品とファイザーの化合物から、ディシジョンツリーを提案、log P >2.75を指標にしている。

4)CYP阻害
GSKの40000化合物を4つのCYPに対して検証したところ、イオン化状態によって結果に差があるとはいえ、log P < 3でその阻害値は劇的に低下した。


<ターゲット活性>
脂溶性が下がると、目的の作用の活性も減弱しうるが、ターゲットクラス毎に分布がある(Fig. 3)。また、熱力学的解析からベストインクラスを狙うのであればエンタルピー駆動が優れており、必然的に脂溶性は下げるデザインになる。


以上の点より、物性、薬物動態、安全性面でドラッガビリティを担保するには、log Dもしくはlog Pが1-3が求められる。アストラゼネカで膜透過性、溶解度、hERG試験をパスした分子はlog Dが1-3のレンジに集中している。他に知られるガイドラインも概ね一致する。化合物をlog P, log Dが1?3の範囲におさめるというのは非常にハードルが高いが、多様なパラメーターを同時に解決しなければならない困難さを考えると、一つのパラメーターに一元化されたこのガイドラインはシンプルで使い勝手が良い。ライブラリーデザインやリードの判断にも利用可能。ヒット化合物が脂溶性が高い場合でも、それを放棄するというよりも、脂溶性を下げていかなくてはならないという道標になる。もし、メディシナルケミストで、活性を向上させる為に脂溶性を高めていかなくてはならないと信じている人がいるなら、分子の物性はこのレンジを逸脱する方向に変化するし、そのドグマは決してチャレンジングなものにはならず、単調なものに終始するだろう。さらに、そういった方針は、結局、ADMEや毒性、物性面で非常に苦労する事になって破綻する。最初から脂溶性のケミカルスペースを意識して化合物合成しておけば、合成するものに制限もかかり、プロファイルの良い効率的研究が実践できる。

ACS(Boston)の発表資料は下記のリンクを。

http://www.softconference.com/acschem/player.asp?PVQ=GLHF&fVQ=FFJFFH&hVQ=
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。