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製薬企業よ、復興せよ

 過去20年間、製薬会社は新薬創出の成功確率と予測可能性を向上させるために保守的マネージメントを続けてきた。しかしこのやり方では、既存の治療法よりわずかに優れた改良薬しか得られない。さらに、改良薬は、大規模で、長期間に渡る複雑な臨床試験を必要とする。ここへ投資する必要があった為に、製薬企業はリソースを初期段階の研究から後期臨床開発にシフトしてきた。結果的にイノベーションは損なわれ、製薬企業は多くのベストセラー医薬品の特許満了による危機に追い詰められている。ここで提案したいのは、一見安全に見える改良型イノベーションに投資する事を放棄し、リスクの高い創薬研究に再集中する事である。外部パートナーと連携し、知識とコストを共有する共同研究型オープン・イノベーションによって画期的治療薬を患者に届けるビジネスモデルを採用する事を提言したい。そして、製薬企業にイノベーションを復活させるのである。



<100年間の黄金時代>

 前世紀、アメリカ人の寿命は毎年3.25ヶ月という異常な速度で延びた。これは、人生を脅かす多くの災難とも言える病を、驚異的な進歩を遂げた薬物療法によって克服してきたからである。このように世の中に、インスリン、抗生物質といった驚異の新薬をもたらした製薬企業であるが、ここ最近の15年間はそれらを輩出した魔法の杖を失ってしまったかのように見える。研究開発(R&D)への莫大な投資、基礎科学の凄まじい進歩、膨れ上がったパイプライン数にもかかわらず、FDAが受領した申請新薬数は、1996年の45から2010年の23に急降下している。

 かつての幸運が暗転した時期は、製薬業界を席巻した新たな研究モデルを導入した1990年代半ばに一致する。創薬全盛期のR&D部門は商業活動から分離独立しており、自社に販売の専門知識がない疾患をターゲットにしていたとしても、その薬剤を追求できる研究の自由が存在した。しかし、その後の製薬企業のマネージャーは、市場の需要に研究開発が応えるという善意の試みとして、自社の販売網のフランチャイズを補完するよう、年間収益10億ドル以上のブロックバスター医薬品を創出するよう科学者に指示したのである。さらに科学的発見が"混沌とした"ものであるにも関わらず、金融リスクを最小限にしたいが為に、高度なポートフォリオ・マネージメントによって、創薬を秩序化された予測可能性のあるものと解釈し、コンスタントに新薬が出るかのように想定してしまった。ここで警告しておきたい事は、リスクを排除する努力が逆にイノベーションを損なってしまい、リスクを正確に回避しようとしていた活動そのものが、製薬企業を非常に危険な状態に追いやっている、という事である。ここで提言したい事は、製薬企業が"安全"で安定的に成長するようなイノベーションを追求してリスクを軽減するなど不可能、むしろ、製薬企業は広い規模でリスクの高い創薬研究に再集中化し、治療につながる真のブレイクスルーに注力すべき、という事である。



<ビジョンが牽引するリーダーシップ>

 リスク回避や現状維持といった発想は製薬企業のドライバーたる開拓者精神とはかけ離れたものである。前世紀のほとんどの製薬会社は、むしろ予測不能な混乱の中で繁栄していった。イーライリリーが、1924年にインスリンを産生すると決めた時、当時のリリーの主力製品であるエリキシル剤や強壮剤の売上をサポートする事を考えていたわけではなかった。そんな損得勘定は抜きにして、研究者はインスリンの医学的重要性を理解し、研究を遂行する上で表面化するであろう無数の問題を克服すべきだと信じていた。過去にインスリンを抽出し治療薬に利用しようという前例がない事に対して、リスク・アセスメント、NPV(正味現在価値)の試算や懸念は存在しなかった。
 この挑戦的で明確なビジョンをもったリーダーシップが、20世紀の大半を通じて製薬業界を牽引してきた。抗生物質、ソーク・ポリオ・ワクチン、バイオテクノロジーの台頭やモノクローナル抗体が承認にこじつけた事は、いづれも恐れを知らない大胆な賭けであったが、これこそが医薬業界を前進させ、ビジネスモデルの正しさを立証したのである。製薬企業を前進させたものは、新たな科学が患者のために何ができるかを直感できる起業家精神に基づく企業文化、そして未知の領域で困難な課題に立ち向かう異常なまでの執念であった。成功するか否かは誰にも全く確証のないものである。そして、志半ばで挫折した企業は姿を消していった。生き残った製薬企業は徐々に減り、生き残ったものだけがその規模を大きくし、「ビッグ・ファーマ」へと成長した。ビッグ・ファーマは、1)高リスク、2)高コストR&D、3)高収益、4)市場のダイナミクスによってもたらされた一極集中産業化、の4つの性質で特徴づける事ができた。
 確かに過去にもフォロー・オン型イノベーションは存在した。それらが臨床での真のブレイク・スルーを起こし得るので、フォロー・オン自体は否定されるべきものではない。アラネスプ、ネウラスタ、ゾコール、エロキサチン、ペグイントロン、ヒューマログ、オーグメンチンはファースト・インクラスではなかったが、標準的治療方法を凌駕する多大な恩恵をもたらした。しかし、いわゆる多くの"Me-too"薬は治療を改善する選択肢を提供してはくれない。Me-too薬は市場での足掛かりを得るために利用されたが、それ自体が製薬業界の革新的成功には貢献していない。



<製薬産業に訪れた混乱>

 1990年代までに、製薬業界のビジネスモデルはいくつかの要因で変革された。一つは、バイオテクノロジー、分子生物学、ゲノミクス、コンピューティング、通信、およびロボット工学などの多くの分野で同時進行的に起こった科学的進歩の連続である。この領域では、新規計測機器、ハイ・スループット研究、および"オミクス"分野(たとえば、ゲノミクスおよびプロテオミクス)を含み、新たな科学分野で多くの専門的技術を輩出した。ビッグ・ファーマは、内部にこれら新技術を活用するだけの十分な専門知識とリソースを持っていないので、最先端技術を維持する為に外部の共同研究者とつながるビジネスモデルをとる必要があった。アライアンスが大流行し、2004年までに、17,000件以上の大小の製薬会社、大学といった機関の間で密な共同研究ネットワークが構築された。制限なき共同研究の可能性に直面し、企業のR&Dコストは急増、NIHの予算も倍増、金融市場の新鮮な資本の投入先となった。 2010年までに、バイオ医薬品業界と米国政府は、控えめに見積もっても毎年150億ドル以上、R&Dに費やした。
 それにも関わらず、期待されたような新規治療は具現化していない。科学が前進し、目を見張るような発見でも、多くの新しい治療法を生み出せなかった。大手製薬会社がスポンサーとなって1600以上の第III相試験が行われたが、そのほとんどは当局に申請するには至っていない。合成生物学、組織工学、幹細胞研究分野における有望な科学的進歩も研究開発として投資するには未発達すぎるので、大手製薬は役立てる事はなかった。製薬黄金時代には、企業がイノベーティブな科学に裏付けられた新薬を市場に投入しようと競争していたが、昨今の製薬企業幹部は、そのような投資に後ろ向きである。成功への知識、資本、創意工夫といった要素は十分供給されているのにイノベーションにつながっていない。
 この変化の多くは、過去15年間にわたって業界を襲った深刻な文化的変化から生じているようである。かつては危険を恐れず挑戦する事が創薬のビジョンとして支配していたのに、今では慎重な分析が重宝されている。製薬業界のパイプライン数は増大しているのに、その多くが標準治療薬あるいは場合によってはプラセボに対して苦戦を強いられている。第III相試験の半分は有効性又は安全性の欠如のために失敗している。迫り来る特許失効と新薬の不足が、製薬企業のリスク許容度をさらに押し下げている。製薬業界がかつて重点を置いていた不確実でも有望なプロジェクトが急激に減らされ、金融面でのハードルをクリアできずに消え去ってしまっている。かつての新しい治療法を指向した開拓的研究開発の設計に投資する代わりに、手持ちのベストセラー薬の用途拡大をサポートするようなデータの取得といった"安全な"臨床試験に資金を費やした。大手製薬会社は、その時点での後期開発への投資を重視しながら、一方で学術的または小規模な業界パートナーにリスクの高い初期のトランスレーショナルリサーチを検討させ、多くのリスクを軽減できるように自分流にカスタマイズするようになった。


<リスクに価値あり:成功の原動力>

 研究開発職はイノベーションに対する価値観の変更を余儀なくされた。かつてのビッグ・ファーマは、たとえそこにリスクがあろうがビジネスに合致しているというのであれば、企業家精神を持つイノベーターを重要視し、研究者の知識と技術を信頼して製品を世に送り出してきた。しかし、現在、イノベーションは共同研究者とのネットワークに分散させており、ビッグ・ファーマはより”安全な”臨床後期に集中している。大手製薬会社は無意識のうちに、低リスク、低リターン、低R&D支出、そして、最終的には、業界の断片化という4つの属性を有する結果となった。
 製薬企業のリーダーは、多くのリスクを取っているのだと反論するかもしれない。臨床開発に進んだ5%の化合物しか製品にはならないので、医薬品開発は非常に危険を伴う挑戦である。多額の資金が失敗に費やされる。しかし、逆説的ではあるが、多くの失敗は、製薬企業がヒトの生物学の複雑さ故に挑戦的な研究をする事が危険であると判断してリスクを回避しようとした結果である。付加的イノベーションは、ターゲットがバリデートされ、MOAは証明済みで、ターゲットクラスは十分に理解されているという点で安全だと認識しているのであるが、実際には非常に危険である。付加的な化合物では、エンドポイントを満たす事はなく、規制当局や患者から拒絶され、既存薬との違いが見い出せずに売れる事はない。この戦略は価値のないリスクをはらんでおり、追求するには値しない。むしろ、製薬会社はトランスレーショナル研究領域を拡大するような根本的に新しい取り組みを採用する必要がある。
 一つのオプションは、ナノテクノロジーや合成生物学などの新領域の科学を探求できる業界全体に広がった共同研究ネットワークに参加していく事である。別のオプションは、基本的な生物学、病態生理、およびヒトの疾患の因果関係と異質性についての新しい知識を生み出す為の、コストとリスクを共有する前競争的コンソーシアムに参加したり、その他のパートナーシップを形成することである。また、Eli Lilly社のコーラス、PD2イニシアティブ、またはArch2POCMの産学パートナー・シップのようにコストとタイムラインを切った新たな研究モデルを立ち上げる事も可能だ。
 強調しておきたいのは、製薬R&Dには低リスク戦略など存在しない、という事である。軽減すべきリスクにも、価値のあるものとないものがある。黄金時代の起業家的モデルでは、価値あるリスクを許容している一方で、単一の企業では幅広い領域でパイプラインを持っているわけではないので、あるプロジェクトが失敗した時のケアはできなかった。起業家的モデルが最終的に持続不可能になるという現実が、企業間に高い摩耗を引き起こさせた。これまでにFDAに新薬を登録してきた255社のうち、1950年には109社が存在していたが、2010年には僅か35社しか残っていない。それら35社のうち、ビッグファーマは僅か6社であった。
 ところが、現在の医薬品産業モデルは、ポートフォリオ・マネージメントの活用によって本来軽減すべき価値のないリスクを包含してしまった。残念ながらこの手法は失敗する。その理由は技術的な問題なのであるが、直感的にでも理解できるのは、ポートフォリオにブロック・バスターが含まれている場合のみ明るい未来が描け、逆に、ポートフォリオにブロックバスターを含まない場合、ポートフォリオの中身に関わらず、将来は非常に厳しい、という事である。そして、ブロック・バスターがポートフォリオに組み込まれるか否かに関わらず、ブロックバスターは、研究計画立案者や研究者がほとんど制御不可能で予測できない"ブラック・スワン"によって決定されてしまうのである。近い将来、せいぜいそのようなブロック・バスターになりうるのは、オーダーメイド医療での万能薬くらいのものであろう。


<リスク管理>
 イノベーション・ネットワークは、製薬企業が多くの共同研究者とブレイク・スルー型研究に再注力し、1企業内ではできない新たな仮説を追求できるので、リスクを緩和する良い手法といえる。しかし、ここでは大企業がブレイク・スルー型プロジェクトのために必要な資金を提供して活性化させる必要がある。これらの努力によってポートフォリオには十分幅広い新規治療法を組み込む事ができ、効果的なリスク軽減が可能となる。しかし、このモデルを持続可能にするには、製薬企業は説得力ある科学的根拠に裏打ちされた名実共に画期的なプロファイルを持っているプロジェクトのみを臨床試験に持っていく必要がある。高価な臨床試験ができるのは、真に飛躍的な治療につながるプロジェクトに限られる。そして、こういったモデルに投資する為にも、付加的イノベーションでブレイクスルーを起こし得ないものには、投資すべきではない。
 製薬企業のリーダーは、知的財産を延長する事が製薬企業のイノベーションの流れを維持するパッケージの一つであると考えている。知的財産は確かに投資家の資金を誘致するために必要不可欠だが、巨額の投資にもかかわらずイノベーションが衰退している事が懸念されている。毎年R&Dに150億ドル以上費やして約20の新薬を輩出しているのであるが、それらのほとんどが付加的な新薬でしかないので、社会と投資家双方にリターンが悪い状況となっている。政策立案者は、この危機的状況の真の原因が別の場所に潜んでいるかもしれないという懸念から、特許保護を延長してサポートする事を躊躇している。製薬企業がより影響力を持つという観点で、業界はその課題に対処するために多くの取り組みを行う必要がある。破壊的イノベーションに再注力する事を超えて、製薬業界は前競争的共同研究、産学連携パートナーシップ、オープン・イノベーションの様々なツールやプラットフォームを利用したコスト共有によって負担を低減させていく必要がある。
 端的に言えば、製薬R&Dでのリスクは成功と切り離せない。リスクは避けて通れないが、受け入れて緩和させる事はできる。前世紀のほとんどでは、リスクと成功は、高度に集積された起業家的モデルによって橋渡しされた。一方で、この15年間で、創造性を推進し、コストを低下させ、リスクを緩和できるような産業界、学界、政府、および非政府団体との新たな共同研究モデルが構築されつつある。
 成功は、イノベーションが開花するような道筋をつけうる画期的なサイエンスと共に始まらなくてはならない。考え方を変える事ができなければ、如何に組織を効率化して管理しようが、特許保護を延長しようが、製薬企業はもがき苦しみ続けるであろう。誇るべきサイエンスの世紀を取り戻し、イノベーション・クライシスを脱却する為に、医薬品業界はハイリスクなトランスレーショナル研究を支援する膨大なリソースをつなぎ合わせ、再配置する必要がある。安定的発展に内在するリスクから抜本的に脱却し、大胆に研究システムを変革する中でリスクの共有と許容に踏み出せなくてはならない。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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