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H3拮抗薬:単純なヒット化合物から磨き上げられたPF-03654746 (64)

Wager TT, Pettersen BA, Schmidt AW, et al. The Discovery of Two Clinical Histamine H3 Receptor Antagonists: trans-N-Ethyl-3-fluoro-3-[3-fluoro-4-(pyrrolidinylmethyl)phenyl]cyclobutanecarboxamide (PF-03654746) and trans-3-Fluoro-3-[3-fluoro-4-(pyrrolidin-1-ylmethyl)phenyl]-N-(2-methylpropyl)cyclobu. Journal of medicinal chemistry. 2011.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21928839

 HTSから見出さした単純なビフェニルトリメチルアミン構造を持つ化合物1は1.3 nMの活性で、周辺誘導体はモノアミンGPCR選択性が高く、hERG阻害が5.6μM以下とメリットがあった。しかし、代謝安定性は低く、加えて重要な課題としてこの化合物には筋弛緩作用があり、平面性の高いビフェニル構造由来の遺伝毒性が懸念された。一般に、多核芳香炭化水素化合物には遺伝毒性リスクがある。また、ダンベル構造はDNAの塩基対にインターカレートしうる。さらに、2塩基性アミジン化合物はDNAのマイナーグルーブに結合する事も知られている。インビトロ小核試験こそ陰性であるが、免疫系由来の毒性も危惧され、このような直線上の剛直な構造は、フェーズ3以降での長期安全性試験に耐え得ない。そこで、まず最初にビアリールジアミン構造を脱却し、遺伝毒性懸念の払拭に取り組んだ。
 
 この報告で特筆すべき最初のナレッジは、アリール等価体としてシクロブチルを利用した点である(Fig. 3)。両末端のアミンの位置は保持し、かつDNA表面のマイナーグルーブとは相互作用しない構造をとれる。よってシクロブチルアリールへの変換は遺伝毒性回避のメリットを持ち、さらに新規性が向上する。デザインしたシクロブチル系化合物の周辺合成からモルホリン末端を持つ化合物2を得、これが100倍以上のオフターゲット選択性、DDIの懸念がない事、hERG阻害が300μMと弱い事、AMES,インビトロ小核試験、ヒトリンパ球試験で全て陰性である事も確認した。さらに代謝安定性、膜透過性に優れ、Pgp基質懸念もない。しかし、この化合物は四日間毒性試験でフォスフォリピドーシスと心筋細胞空胞化が認めらた。
 
 フォスフォリピドーシスを回避する合理的アプローチは存在しない。安全性を高める為に出来る本質的方法は、脂溶性、塩基性、分子量を低下させ、極性表面積を高める物性改善である。また、フォスフォリピドーシスのガイドラインとして、pKa2 + ClogP2 <90が知られており、これに従う物性プロファイルを指向した。検討した化合物から、ヒト肝上皮細胞試験で100μM以下のクライテリアを満たすものを選出する。また、ジアミン構造のジソブタミドが細胞内小胞化が認められるのに対して、モノアミンのビジソミドはその毒性が認められない(Table 2)。ジアミンをモノアミンに変換する事がフォスフォリピドーシス解決の一つのアプローチになりうる事が示唆された。

 安全性の指標であるTPSA>75Å2、ClogP<3を意識した最適化でモノアミン系化合物3を見出した(Table 3)。しかし、この化合物ではラット14日毒性試験でフォスフォリピドーシスが回避できない。次に、塩基性の低減を試みたが、初期の研究から塩基性を低下させすぎるとH3活性が消失する事がわかっていたので、丁度良い塩基性の化合物を探索した結果、ベンゼン環にクロロ基を入れた4が見出された(Table 4)。ただ、今度は7日間イヌ毒性試験で心筋細胞空胞化が認められた。再び現れたこの問題は、N-アシルプロドラッグが存在するようにアミドの加水分解でジアミンが代謝物として出来ている為と推定された。

 ジアミン代謝物回避の戦術としてリバースアミド体5へと変換した(Table 5)。この際、芳香環のクロロ基をフッ素にする事で塩基性の低減を実現したまま低分子化、脂溶性低下を達成している。狙い通り心筋細胞空胞化は回避されたが、次は小核試験で陽性となる。ベストインクラスの探索のためにも、この遺伝毒性を払拭した化合物の最終化を目指す。

 最後の最適化では、シクロブチル基へのフッ素導入で締めくくる。このデザインの根拠はフッ素導入がDNAへの相互作用を阻害し、遠隔電子吸引性によってpKaをさらに低下しうるからである。加えて、アミドのメチル基を除去して脂溶性低下を狙う。このようにして見出された化合物6,7は毒性試験での問題を解決し、開発化合物へと選定した。


 単純なビフェニルジアミン構造からでもナレッジに基づく作業仮説を積み重ねる事で新規性高く安全性に優れた化合物を創出できる事を示した。

そのプロセスで、
1)アリール等価体のシクロブチル、
2)物性指標で安全性向上、
3)ジアミン構造のリスク回避(リバースアミドへの変換)、
4)ベンジルアミンはベンゼン環オルト位へのハロゲン原子導入が塩基性を低減、
5)シクロブチルへのフッ素導入によるDNAとの相互作用軽減、遠隔電子吸引性効果、

といった有益なナレッジを示してくれている。

ここで示されているように開発化合物(ここではPF-03654746 (64)) を見出すプロセスでは予期せぬ課題に直面する事が多々ある。しかし、それをメディシナルケミストリーのナレッジを活かして次々に解決した。ドラッグデザインを表面的に追いかけるだけでは、単なる巻いたり開いたり入れ替えたりしているだけに見えるであろう。しかし、それでは永久にゴールにはたどり着けない。すべての変換には課題克服の為の作業仮説が存在する。H3拮抗薬自体の開発は中止する事となったが、創薬化学者にとっては示唆に富む優れた研究内容である。
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テーマ : 科学・医療・心理
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