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原理原則一気通貫、メチル基一つで語る研究哲学

Coleman PJ, Schreier JD, Cox CD, et al. Discovery of [(2R,5R)-5-{[(5-Fluoropyridin-2-yl)oxy]methyl}-2-methylpiperidin-1-yl][5-methyl-2-(pyrimidin-2-yl)phenyl]methanone (MK-6096): A Dual Orexin Receptor Antagonist with Potent Sleep-Promoting Properties. ChemMedChem. 2012;19486:1-11.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22307992


 オレキシンOX1,OX2デュアル受容体拮抗薬は、アクテリオン社のアルモレキサントやGSK社のSB-649868が毒性などの要因で開発中止している中、メルクのスボレキサント(MK-4305)の1が2012年にFDAに新薬承認申請を目指している。スボレキサントを見出すプロセスでは、単に人海戦術で化合物を爆撃合成するのではなく、デュアル拮抗薬がU字型にπスタックしたファーマコフォアをとっているとする作業仮説が貫かれていた。

http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-62.html


http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-114.html

 ここではメチルジアゼパムを母核に持つスボレキサントとは別系統のバックアップMK-6096を見出すプロセスが報告されている。そのデザインは、GSK社のSB-649868と同系統のピペリジンから出発するが、スボレキサントのジアゼパムのSARナレッジと、U字型ファーマコフォアの原則によって練り上げたものであった。GSKの系統としてSB-649868のアミドリンカーをメチルエーテルリンカーにしたGSK社の4を検証したところOX1Rで60 pM、OX2Rで1.0 nMの強力な活性があったが薬物動態に問題があった。最初のデザインはNからOまでのリンカー・3炭素を保持してピペラジンの2位を3位にシフトさせた5を合成したところ、活性は40倍以上低下したデュアル活性を示した。メルクでは、化合物6のように鎖状構造でも9乗オーダーの活性を有する事を見出しており、ピペラジン環による環化自体は活性には本質的でないと推定された(Fig. 2)。なお、鎖状の6も代謝を受けやすい。最初の考察は、なぜピペリジン2位置換で強力な活性を発揮したか?である。ピペリジン2位置換では、アミドの窒素はsp2混成軌道で1,3-アリル構造をとり、擬アキシャル配向でアミドのカルボニルと2位アルキルの間でエクリプス型構造で安定化すると推定される(Fig. 3)。この構造は、ジアゼパム系統で示唆されたU字型ファーマコフォアとみなす事ができる。一方でピペリジン3位置換では擬エクアトリアル配向でU字構造をとれない。この考察から、ピペリジン3位置換タイプでもU字型ファーマコフォアをとらせる事ができれば活性は向上しうると考え、アミドのα位にメチル基を導入した。アミド部分にはスボレキサントで利用したトリアゾールフェニルを導入した7や8をテンプレートにした。化合物8で活性はOX1R 6 nM, OX2R 9 nMとデュアル結合作用を示す。メチル基を入れたcis体9は活性は減弱したが、狙っていたアキシャル方向を向くtransi体10ではOX1Rで20倍、OX2Rで90倍活性が向上した。僅かメチル基一つのマイナーな置換基変換だが、その背景には、確固とした作業仮説に裏打ちされたデザインが隠されており、その効果も目を見張るものとなった。

 このようにして見出した10も、clogPが4.64と脂溶性が高く、代謝安定性が低く、経口吸収性が悪い。脂溶性を低下させる為に含窒素ヘテロ環でSARをとり、活性を維持し、clogPで1オーダー低下させた18を見出した(Table 1)。この化合物で鍵になるメチル基を外した22では、やはり活性は60-100倍も減弱してしまう(Table 2)。一方でメチル基をシャッフルした21でも活性はほぼ保持した。ここでは18のタイプのメチルピペリジンを母核にさらに最適化を継続する。化合物18は溶解度が低く、経口吸収性も不十分なので、アミドの末端ビアリールのトリアゾール部分を変換、ピリミジン28でOX1R 2.5 nM, OX2R 0.3 nMのデュアル活性、ファンクションではそれぞれ11 nMの8乗オーダーの活性を示し、溶解度もお大幅に改善、タンパク結合率の低下に成功し、ラット、イヌでの経口吸収性を確認した(Table 4)。イヌで薬効を確認し、オフターゲット選択性で懸念がない事を確認し、開発化合物MK-6096とした。MK-6096のNMR解析、及びX線結晶構造解析からU字型コンフォメーションをとって2つの芳香環がスタックするように近接する事が確認された(Fig 4)。

 スボレキサント(MK-4305)のドラッグデザインがHTSによるヒット化合物からの展開であったのに対して、 別系統のMK-6096は他社の公知化合物からのデザインであった。見出された2つの化合物は出発点も異なればケモタイプも異なるが、そのデザインには、U字型ファーマコフォアというシンプルな原理原則が働いていた。そして、その研究哲学は20ー100倍もの活性向上を引きだす、たった1つの重原子・メチル基に象徴されていた。優れたドラッグデザインは、決してサーカスのようにドラスティックな変換をしたか否かではない。見た目の構造変換が重要ではなく、課題解決の為に、どのような作業仮説をたて、フィロソフィーを具現化する変換をしたか、である。
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テーマ : 科学・医療・心理
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