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創薬化学原理主義:研究開発を運命づける創薬化学者の手腕。うちに秘めたる原理原則を呼び覚ませ!

Johnstone C. Medicinal chemistry matters – a call for discipline in our discipline. Drug Discovery Today. 2012;00(00):0-5.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612000128



 メディシナル・ケミストリーは、低分子医薬品の創製の要である。そのドラッグデザインの質が、研究開発の効率、コスト、スピード、開発の成功確率を決定する。昨今、実践的創薬化学を改善する多くのガイドラインが提案されてきたが、現場レベルでは、企業内事情による制限もあるせいか、化合物の質は企業によってムラがあるという現実もある。しかし、創薬化学を成功させるためには、単に過去の成功体験に基づくレトロスペクティブな創薬を俯瞰するのではなく、さらにプロスペクティブな創薬へとシフトしなくてはならない。

 近年、広範なデータセットの解析に基づいて、より深い洞察を得たドラッグ・デザインが可能となった。ドラッグ・デザインのパフォーマンスを向上させ、強化する為に、優れたアイデアやルール提案が行われてきた。ところが、実際には難しいターゲットクラスや企業内事情で、化合物の質はバラついている。
 2000年前後の創薬化学の包括的な見直しとしての提案は、主に物性ベースの構造物性相関を取得するドラッグ・デザインであった。その一例として、脂溶性を基準にしたドラッグライクネスとして活性と関連させた脂溶性リガンド結合効率LLE、リピンスキー・ルールに基づく経口吸収性、低分子からスタートする為の指標としてリガンド効率LE、sp3率増加による平面世界からの脱却、ゴールデン・トライアングルといった提案がされてきた。また、低脂溶性と低分子化による高活性化合物が成功確率の向上につながるとして数々の視覚化ツールが開発された。計算化学の発達によって、定量的構造活性相関、統計解析が容易になり、視覚化表示が可能となり、タンパク質モデルもデスクトップ上で行え、マッチドペア解析が可能になり、ドラッグ・デザインすらもナレッジベースのデータベースに基づく構造変換法のドラッグ・グルによって自動化が提案された事もある。

 しかし、メディシナル・ケミストリーは誰がやっても同じ結果になるわけではない。彼らの研究哲学がアウトプットを大きく変えるのである。その事例として、Merckの抗癌剤Akt阻害薬を例示した(Fig. 1)。ヒット化合物1からの最適化の最初の戦略(Fig. 1a)は、ジメチルアミンの1級アミンを種々のアミンに変換するものであった。ここで合成容易性を確保するには、ジェミナル・ジメチルを除去する必要があった。活性向上の為に数百化合物が合成され、化合物3を見出した。望みどおり活性向上を達成したが、溶解度が悪く、経口吸収性も乏しく、hERG阻害活性に懸念があり、これらの問題は大きな分子量と脂溶性の高さという物性面の悪さが要因と考えられた。物性面改善の為に、付随的に側鎖に極性基を導入し、なんとかhERG阻害を減弱させた。しかし、多大な労力を費やした挙句、全ての問題解決が出来なかったので、振り出しに戻り、最初のヒット化合物から再評価する事になった。先ほどの戦略では合成多様性確保から除去したジェミナル・ジメチル基を今度は残し、母核の変換に注力して活性を向上させた化合物4を見出した。最大のブレイクスルーは、ジェミナルのジメチル基をシクロブチル基にする事で活性が大幅に改善した点である。実にメチレン鎖一つ、重原子一つで100倍の活性向上を果たした事になる。この効率的な変換はLLE, LEの激的な改善を呼び込んだ。母核の変換と組み合わせて、活性と物性プロファイル、経口吸収性に優れたMK2206を見出した。さらに、バックアップとしてMK8156を得ている。
 この事例では、最初の最適化戦略では、合成容易性と合成効率が思考を支配していた為に、hERG阻害活性は強く、溶解度の低い物性の悪い化合物になった。こういった問題は最初に予測できなかったかもしれないが、この研究戦略が高分子量と高脂溶性を招いたのは必然といえるかもしれない。もしここで、LEやLLEの指標を重要視し、最適化を行なっていれば、違った結果になったかもしれない。失敗した最初の戦略と成功した第2の戦略を見比べれば、メディシナル・ケミストリーの最適化方針が、研究全体の費用対効果を決定づけるのは明らかである。十分に訓練されナレッジのある創薬化学者から違いが生まれるのである。参考までに、ヒット・トゥ・リードのLE, LLEの変遷はFig. 2に図示した。

 完璧なメディシナル・ケミストリーは存在せず、多くのデザインのアイデアは、議論の余地があり、不確かなものであり、一般性のないものである。おそらく、ただひとつの正解がある、という事はない。状況によっては、難易度の高いターゲット、標的臓器指向療法、ソフトドラッグ(局所投与)、非経口経路投与では、未開拓のドラッグスペースへと踏み込む必要もある。その度に、新しいガイドラインと理解が必要となり、ドラッグライクネスのフレームワークの限界が広がるのである。

 しかし、Aktのケース・スタディでは、レトロスペクティブな視点で見ると、「物性のインフレ」や「分子の肥満」は最適化の必然的な結果ではなく、創薬化学の実践の選択の結果である。ケミストが合成する化合物は、ターゲット、投与形態、自らの持つナレッジと訓練、企業の慣習、文献情報、マネージメント法、政治的な理由から報酬制度まで影響してしまう。

 ここでは実用的な創薬化学でのアドバイスとして、下記の6つの事項を提案をする。
(1)「ここに発明はない」という姿勢にならないよう、新規なアイデアに対して否定的で保守的な反応を回避する為に、パブリック・ドメインから積極的にインスピレーションを得るよう努力する。
(2)レトロスペクティブな教えを理解するようにドラッグ・デザイナーを教育する事に投資し、彼らが研究をプロスペクティブにコントロールするツールとして習得させる事。
(3)良い実践の枠組みの中で課題を解決できるように、実務者を従事させ、促進させる事。
(4)ルールによるハード・カット・オフの回避。たとえば、分子量500以下という制限では、499は許容されるが、501は排除されてしまい、サイエンティフィックな根拠はない。むしろ、全体の物性プロファイルに目を向けさせるように仕向けるべきである。
(5)LE, LLEをフォローし、化合物最適化の進捗をFig. 2のようなラン・チャートでフォローアップする事。
(6)成果の定義をより良いものに設定する事による評価制度の変更。

 メドケムのナレッジによって効果的な研究戦略を立案でき、研究全体の生産性を高める事が出来る。そして、そんなナレッジが遠く及ばず試行錯誤せざるを得ないのもまた創薬である。学会や論文、ニュースのようなパブリック・ドメインには多くのナレッジがふんだんに存在する。これらからインプットを得、実践の場でアウトプットし、創薬化学者として鍛えあげ、良い化合物を創出する。プロジェクトを活かすも殺すもメディシナル・ケミストの手腕にかかっている。そして、薬を待っている患者に届く候補化合物を創出するのである。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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