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製薬企業の生産性減衰、イールームの法則を診断するCDDO提案

Scannell JW, Blanckley A, Boldon H, Warrington B. Diagnosing the decline in pharmaceutical R&D efficiency. Nature reviews. Drug discovery. 2012;11(3):191-200.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22378269

過去60年の科学と技術の進歩は著しく、コンビケム合成は1980年から10年間で合成検体数を800倍に膨れ上がらせた。DNAシーケンシングは1970年代に比べて10億倍加速し、ターゲット創出を加速した。X線結晶構造解析技術の発展のおかげでタンパクの3次元構造は25年前に比べて300倍の情報が得られるようになった。HTS技術によって、化合物探索費用は10分の1に節約された。このような発展とは裏腹に新薬創出の成功確率は落ちており、今では1つの医薬品を輩出するのに10億ドルの研究開発費を要すると言われ、その費用は80倍に増加したとも言われる。この現象を、指数関数的に進歩するムーアの法則の逆転状態として、ムーア(Moore)を逆さに読んだイールーム(Eroom)の法則と名付けた。新薬承認数自体は1950年から全体的にはフラットに見えるが、10億ドルの研究開発費用に対するFDAの新薬承認数は指数関数的に減衰しているのである(Fig. 1)。好ましくないイールームの法則に従った状況の要因を探索する必要がある。ここでは、イールームの法則の4つの主要因として「ビートルズの後追い("Better than the Beatles" problem)」「注意深い審査当局 ("cautious regulator" problem)」「研究開発費ムダ使いの傾向("throw money at it" tendency)」「基礎研究の総当り ("basic researc-brute force" bias)」をあげた。また、「もぎ取りやすい果実の問題(the low-hanging fruit" problem」も影響していると考えられるが、ここではそれほど大きな問題にはなっていないと考える。

「ビートルズの後追い("Better than the Beatles" problem)」
ひとたびビートルズのようなヒット曲が出た後では、その後追いでヒット曲を生み出す事が如何に難しいかを想像してみて欲しい。創薬もこれに類するところがある。昨日のブロックバスターは今日のジェネリックである。他の製造業と決定的に医薬品業界が異なる顕著な特徴が、モノマネや類似品が通用しない点である。これに関連して、「もぎ取りやすい果実の問題(the low-hanging fruit" problem」としてバリデートされたターゲットを追求する手法があるが、約束された創薬ターゲット自体が少ない中で、マジック・ショットガンのような手法によって差別化されうるので、ビートルズの後追いのような致命傷になるものではない。


「注意深い審査当局 ("cautious regulator" problem)」
製薬企業が副作用を過小評価するように誘導しようとする傾向に加え、サリドマイド事件が契機となって、審査当局は、薬効よりも安全性を重要視するようになってきた。よって、既に良く理解された治療薬が存在する場合、「ビートルズの後追い」の医薬品は、より厳しい審査を受ける結果となった。


「研究開発費ムダ使いの傾向("throw money at it" tendency)」
研究開発費を投じればリターンも大きくなる、イノベーションが起こるはず、という分かりやすい説明によって、投資資金は大きくなっていった。


「基礎研究の総当り ("basic researc-brute force" bias)」
基礎研究、とりわけ分子生物学への過大評価がこの問題を引き起こしている。この背景には、最近の創薬は単一ターゲットに強力に結合した化合物が薬理作用を示すと考えられている事があげられる。しかし、実際には単一ターゲットの作用で薬効を発揮する場合はむしろ稀であり、必ずしも臨床試験をする上で、単一作用である事は必須ではない。むしろ、1998年ー2008年の創薬でのファースト・イン・クラスはフェノタイプ・アッセイによって見出されたものが主流であった。また、単一ターゲットに対して大規模な化合物ライブラリーに対してHTSを実施し、イタラティブに構造活性相関を取得する手法は、研究の推進力を奪ってしまった。フェノタイプ・スクリーニングは、たとえそのスループットが低くとも、見出された化合物のケミカルスペースはドラッグライクなものであった。
 たとえば、ターゲット探索においてすべてのターゲットに対して結合活性を示す化合物を探索するのか?そうではなくて、フェノタイピングアッセイの後に活性を示す真のターゲットを釣りにいくるのが良いか?より一般的な話題としては、まずハイスループット・スクリーニングで化合物を探索するのが良いのか、もしくはスモール・データ・セットからイタラティブにSARを取得するのが良いのか?リピンスキー・ルールに従うドラッグスペースの化合物は10の60乗個存在すると言われる。たとえば60万以上の英単語の中から正解の1単語を言い当てるにはどうすれば良いか?という課題を想定してみよう。ここで採れる戦略は2つある。一つは、「20の質問」にYesもしくはNoで回答させて答えを絞り込んでいく手法である。もう一つは、「総当り」で、それぞれの単語に対して「2万種類の推察」を行い、2万種類のYesもしくはNoの回答を得て、答えを探す手法である。20の質問か、2万種類の推察か、どちらがうまくいくか?有能なプレイヤーであれば、「20の質問」を選択するはずである。英単語の60万という数値は、2の20乗より小さいからだ。一方で、「2万種類の推察」で攻めれば、その97%は失敗する事になる。かつての創薬は「20の質問」方式であるのに対して、大規模HTSに頼る手法は「2万種類の推察」に相当する。イタラティブな最適化では、活性、毒性、動態とマルチパラメーターを俯瞰しながらの最適化で練り上げられていくが、HTSでは活性が主役のパラメーターになってしまう。「2万種類の推察」は創薬での「スーパーHTS」と言い換える事ができ、「20の質問」は「ブラッキアン・デーモン」と言い換える事ができる。10種類のケミカルスペースを探索するのに、スーパーHTSでは10の40乗の化合物で埋める必要があるが、ブラッキアン・デーモンでは10の5乗の化合物で済む。


CDDO(Chief Dead Drug Officer)の提案:
このオフィサーは、研究開発のすべてのステージで、開発の失敗にフォーカスする。CDDOは決められた期日までに(たとえば18ヶ月と決めて)、イールームの法則になった要因を説明する為に詳細なレポートを作成する。このレポートは、取締役会に提出され、株主への企業年次報告書にも収載され、科学雑誌に掲載されたり、FDAや米国国立衛生研究所などの組織にも提出される。CDDOにとって、企業の将来の研究開発生産性と業界全体の将来予測の精度を高める為の、強力なインセンティブを提供するように構造化される事が報酬となる。
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テーマ : 科学・医療・心理
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