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より良い化合物を速やかに:デスクトップ上での予測ツール開発と利用

Cumming JG, Winter J, Poirrette A. Better compounds faster: the development and exploitation of a desktop predictive chemistry toolkit. Drug Discovery Today. 2012;(2010).
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612000840

昨今のメディシナルケミストは、大規模の化合物データに種々のコンピューター手法によってアクセスする事が可能となった。製薬企業には生産性の向上と候補化合物の摩耗率を低下させる圧力が高まっており、これらを有効活用する事が重要である。アストラゼネカでは、膨大化する化合物合成量とそれに紐付けされる情報量の多さに埋没する事に対処する為に、2003年からプレディクティブ・ケミストリー・ネットワーク(PCN)を立ち上げた。これは、メディシナルケミストのデザインや予測を支援する為に、パソコン上で利用できる計算ツールを充実させ、必要に応じてケミストが気軽に直ぐに利用できるユーザー・フレンドリーで使い勝手の良い状態を提供する事であった。徹底した顧客志向でケミストのサポーター役に徹したスタッフたちは、弛まぬ努力で、これまでのメディシナル・ケミストの「合成ー試験」のサイクルを「デザインー合成ー試験ー解析」のサイクルへと意識改革させ、利用可能なツールは、Table1のように8種類と充実させ、いづれもユーザーに頻繁に利用される人気ツールになった。スタッフが現場のケミストに使い易いように丁寧にサポートし、アフターケアも行き届かせた。主役にでばるのではなく、徹底的に黒子としてのサポート役に徹し、揺るぎない哲学の元にこのコンセプトは8年間継続して熟成された。そして、いつしか、その黒子はアストラゼネカのメディシナルケミストには欠かせない心臓部のプラットフォームになった。ここでは、その信頼性ある化合物予測法で強力でフレキシブルかつユーザー・フレンドリーに開発した計算ツールの経緯について紹介する。

アストラゼネカ社では、生産性向上を目的にすでにリーン・シックス・シグマ思考をメディシナルケミストリーに取り入れてきた。メディシナルケミストが化合物デザインをした瞬間、その後の合成や試験にかかる莫大な費用の額が決定する。そして、化合物が成功するか否かは最初にデザインした時点で決定してしまうのである。このような事を念頭に、2003年にアストラゼネカでは、ツール提供やトレーニングを通して創薬でのドラッグデザインに貢献するPCN(プレディクティブ・ケミストリー・ネットワーク)を設立した。PCN設立当時から、ケミストがデザインの合理性よりもケミストの直感や合成容易性で合成化合物を選択している事は認識していた。また、1990年代のコンビケム合成の登場によって、より膨大な化合物が合成されるようになった。よって、アストラゼネカの研究者は、データの視覚化、統計解析、仮説ベースのデザインにおける物性予測の重要性を認識していた。これらの要望に応える為にインシリコのデザインや計算ツールの精度を高める必要があった。

2003年を契機に、ケミストの意識は、「合成ー試験」のサイクルから「デザインー合成ー試験ー解析」のサイクルに変わった。リード最適化では、「デザイン」と「解析」が「合成」や「試験」と同じ地位を得たのである。アストラゼネカでは、メディシナル・ケミストがパソコン上で利用する計算化学ツールによってドラッグデザインやDMPK予測を行う一連の作業を「プレディクティブ・ケミストリー」という言葉で定義付けた。これまでに構築したアストラゼネカの有するツールキットは8種類と充実している(Table 1)。


<ツール構築>
PCNのツールキットは、サイト間、疾患領域間、メドケム、計算、構造化学、情報、DMPK、毒性といった他部門のメンバーから構成されるネットワークによって検証される。理解しておくべきPCNの原則の1つは、まずデザインと分析ワークフローに対する理解であり、次に分析力を高め、最後にソフトウェアのソリューションを身につける、という一連の流れである。分析力の教育は、インフォマティクス・グループのビジネス解析チームが対応する。インフォマティクス・グループはビジネス・リファレンス・グループ(BRG)と連携しており、継続的なフィードバックをもらい、ツールをよりユーザー・フレンドリーなものへと進化させていく。

原則の2つ目は、Fig. 1の「炎のトリアングル」であり、この3つの要素がプロジェクトに大きなインパクトを与えると考えている。まず紹介すべき2つの要素は、「偉大な科学」「直感的ツール」である。アルゴリズムは十分バリデートされたものである必要があり、またインターフェースはユーザーが直感的に理解しやすく使いやすいものでなくてはならない。よって、一般に販売されているデータベースそのままではユーザーのニーズに合致しないので、Table 1にあるツールのように、いづれもインハウスで開発する必要があった。インハウスのツールは相互リンクされ、ツール間のデータ移行といった作業を回避した。


<ツール開発>
「炎のトライアル」の3つ目の要素は、「トレーニング・気づき・利用」のTAUである。薬物設計者は、どのツールが利用可能で、意思決定にどのツールが有用なのか、そのツールの背景にある仮定と限界を含めたサイエンスを理解しておく必要がある。よく知られた格言「すべてのモデルが正しいわけではないが、いくつか有用なものはある」、このプロジェクトでは、ユーザーにはコンピューターを盲信しないよう「素直」と「疑い」の間をうまく操縦する事を促す。その為に、プレディクティブ・ケミストリー・サイエンスとワークフローのトレーニングとして「SAR大学」という場を設定している(Table 2)。また、利用状況を調査したところ、使いこなしているスーパー・ユーザーを見出し、彼らにコーチングを依頼し、エキスパートをスーパー・ユーザーに育成させる環境を作った。多忙な研究者にとっては、要望に応じたトレーニングによって、必要としている方法論だけをビデオを使った間に合わせのトレーニングで対応した。


<プロジェクトの与えたインパクト>
2011年の調査では、意思決定するに際してPCNツールは、89%のユーザーが有用と回答しており、その内訳は、26%が非常に有用、41%がまあまあ有用、22%が少しは有用、と回答していた。具体的事例としては、GK活性化薬の研究で、バーチャル・デザインされた化合物から、マッチドペアと物性計算で、候補化合物を見出すまでのプロセスを短縮する事に成功した。また、アグリカナーゼ阻害薬の研究では、三次元構造視覚化ツール、マッチドペア解析、物性ベースのデザインで化合物合成の優先順位を決定した。また、2000年から2010年の間にアストラゼネカの特許化合物のClogPは大幅に改善している事が報告されている。「デザインー合成ー試験ー解析」(DMTA)サイクルが、2007-2010年の最適化研究の時間を大きく短縮した事も報告されている。いづれも、プレディクティブ・ケミストリー・ツールの重要な貢献と理解できる。
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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