スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

医薬品のイノベーションとは?

Aronson JK, Ferner RE, Hughes D a. Defining rewardable innovation in drug therapy. Nature Reviews Drug Discovery. 2012;11(4):253-254.
Available at: http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nrd3715



 「イノベーション」という単語が難しいのは、自分がイノベーティブだと思っていても周囲はそう思っていなかったり、逆に周囲がイノベーティブだと思っていても、本人はその事に気がついていない、という状況に象徴される。つまり、イノベーションはここ10年の流行語で、文献、書籍、学会でも頻繁に使われているにも関わらず、明確な定義がなされていないのが現状なのである。

ここでは、医薬品のイノベーションをケース毎に分類して定義し、明確化する事を目標にする。
なお、イノベーションの分類は、後にも述べる下記サプリメンタリーが要約されており、理解の助けになる。

http://www.nature.com/nrd/journal/v11/n4/extref/nrd3715-s1.pdf


http://www.nature.com/nrd/journal/v11/n4/extref/nrd3715-s2.pdf

http://www.nature.com/nrd/journal/v11/n4/extref/nrd3715-s4.pdf


イノベーションは、以下の3つの属性で分類できる。

1)「新規性」・・・この新規性とは必ずしも"新しさ"を必要としない。たとえばβブロッカーの場合、今からβブロッカーで新薬を出したとしても、既存の化合物が医薬品として十分にあるので「新規性」はないだろう。ただし化合物自体は新しくなくとも、別の用途を見出す事ができればそれは「新規」である。たとえば、アスピリンのような古い医薬品でも、CVイベントを予防できるといった新たな用途が得られるケースは「新規性」に該当する。また、”新しさ”の観点では、新しさが真に新規性あると判断できる場合にのみその価値判断をすれば良い。


2)「実用性」・・・健康に関わる実用性に関しては、QOL(生活の中での健康の質)と生存(生きるか死ぬかの寿命に関わる)の2つの要素に大別される。

その上で、「実用性」は5段階にランク付けして分類できる。
I)現在効果的な治療法が存在しない疾患において効果を発揮する、
II)十分な治療満足度がない疾患領域において治療を改善できる、
III)安全性に優れている(副作用や薬物相互作用のリスクが低い)
IV) 安価
V) 優れた利便性(例えば注射薬から経口薬)

健康以外の側面での実用性では、
A)雇用改善、
B)企業収益、
C)国益の促進、
といった面が考えられる。

また、実用性に関しては、患者、製薬企業、医療制度、政府といったステークホルダー毎に視点は異なるので、優先順位も異なる点には留意が必要である(補足資料2)。


3)「イノベーションの生じ方」・・・一段階の変革による革命的なもの(→破壊的)と、少しずつ改善する進化的なもの(→持続的)に分類される。

破壊的イノベーション:市場が予測不可能なものである。
持続的イノベーション:予測可能な改良型であり、既存薬を一挙に取って代わるものではない。

持続的イノベーションでは、医薬品の「イノベーティブ」といわゆる「ミー・トゥー」(=”新しい”が「新規性」は低い)の間は連続的で地続きなものと考えられている。小さな薬理作用の違いの連続が、ついには大きな違いとなってイノベーションを引き起こす事もある(たとえば、補足資料3)。



 以上の分類を前提に、次に「利益をもたらす(rewardable)イノベーション」を定義する。

「利益をもたらすイノベーション」・・・大胆な変革によってもたらされる新規な医薬品で、個人もしくは社会に収益を与える潜在力もしくは証明済みの能力を持ち、過去に治療方法がないか過去の治療法を凌駕するもので、健康に大きな恩恵があり、許容される薬価で患者が手にする事ができるもの。

ここで、さらにこの定義について注釈する。
A)「大胆な変革(step change)」・・・イノベーションは進化的もしくは革新的であるが、利益をもたらすイノベーションは進化的では機能しない。進化的イノベーションでは、そのイノベーションを引き起こす初期のイノベーターには恩恵があるが、最後の走者はほとんど収益が得られない。利益をもたらすイノベーションは、既存の治療薬に比べて有意で極めて大幅に改善しなくてはならない。
B) 「証明済みの能力」・・・有意なアウトカムを持つ質の高い臨床成績。
C) 収益をもたらす「社会」・・・その社会の構成員に等しく利益がもたらされるのではない。
D)「健康に与える大きな恩恵」・・・広く一般的に期待されるレベルと、オーファン・ドラッグのようにごく一部の特定の患者層に大きな治療インパクトを与えるケースがありえる。
E) 「許容される薬価」・・・治療効果が薬に対する支払いを高価と感じさせない十分なものである事を指す。
F) 「イノベーション」・・・今日のイノベーションは明日には既に定着してしまってイノベーションでなくなっており、その後のイノベーションによって凌駕されるべきものである。
 
医薬品のイノベーションには複数の要素、つまり、
化学構造、合成法、医薬品クラス、製剤方法、薬効薬理、薬物動態、薬理遺伝学、疾患領域
が含まれる。

それらの要素によるランクは補足資料4にまとめられる(下記)。
I)最もイノベーティブな医薬品・・・新規ターゲットもしくは新規メカニズム(薬効薬理)で、患者から(薬理遺伝学的に)苦痛から解き放ったり、既存薬を全く新しい疾患で利用できる(疾患領域)。
II)中程度のイノベーティブな医薬品・・・新たなクラスの化合物であり、副作用や、薬物間相互作用の影響が少なく、新規な構造を有していたり、新規合成法が設定されていたりする。
III)わずかにイノベーティブな医薬品・・・剤形が改良されたり(薬物動態)、薬物輸送が改良されている(製剤方法)。
IV)健康には直接関わらないイノベーション・・・製造法が改良されるといったものが考えられる。
スポンサーサイト

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメント

Secret

プロフィール

Janus

Author:Janus
趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。