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HTSでノーヒット、次の打ち手は内因性リガンドからの挑戦的薬物設計

Chen X, Kopecky DJ, Mihalic J, et al. Structure-Guided Design, Synthesis, and Evaluation of Guanine-Derived Inhibitors of the eIF4E mRNA–Cap Interaction. Journal of Medicinal Chemistry. 2012;55(8):3837-3851.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jm300037x


 HTSでノーヒット、この状況ほどその打開策に研究者のアイデアと創意工夫が試される時はない。アムジェンのeIF4E阻害薬はまさのこの状況であった。低分子eIF4E阻害薬の探索を目指してHTSを実施したがまともなヒット化合物は得られなかった。しかしなんとしてもこの魅力ある本ターゲットの低分子リガンドを探索する為に、活性は非常に弱いものの内因性のm7-GMPとeIF4Eとの結晶が得られている事から、ここからSBDDでリガンドをデザイン、すなわちmRNAキャップであるm7-GMP化合物1の誘導化で、結晶の詳細な考察から確認したN7位方向の脂溶性ポケットを狙って置換基を伸長し、その後に別部分の置換基を変換するする方針をとった。
 
 結晶構造情報をみると、メチル化された7位によって芳香環がカチオンにチャージされており、これが酵素側のTrp102, Trp56にサンドイッチ型にカチオンπ相互作用でスタックしている事が活性の鍵になっている(Fig. 1)。たとえばm7-GppGに比べてメチル化されず4級化されていない構造GppGでは活性は276倍低下する事からもこの芳香環上に非局在化したカチオンが重要であると理解できる。また、芳香環内のカルボニルはTrp102の主鎖アミドと水素結合を形成、N1, N2はGlu103と水素結合を形成しており、活性発現に重要と考えられ変換するのは得策ではない。そして、3リン酸部分はArg112, 157, Lys162と水素結合ネットワークを構築して活性発現に大きな貢献をしている。これが2リン酸、1リン酸では活性は39倍、407倍と低下してしまう。このような背景の元、7位メチルの先にあるPhe48, Leu60, Pro100, Ser92, Asp90で構成された脂溶性ポケットを狙った置換基変換を検討した(Table 1)。リード化合物1は14μMの活性であるのに対して、プロピオンリンカーを介してクロロベンゼンを入れた7では5.35μMまで活性が向上する。この結果に勇気を得て、周辺を変換したが、全く予想外にもリンカーの炭素原子を酸素原子に置き換えた9で、活性は59 nMまで100倍近く向上した。化合物8と比べればわかるように、クロロ基一つで活性が1000倍もの改善をしている事になる。また化合物9はリード化合物1から200倍に活性が向上している。このクロロ基9と同様の活性向上の効果は、ブロモ基10、シアノ基12でも認められた。化合物9でeIF4Eとの複合結晶構造解析が得られ、クロロベンジルが疎水性ポケットにジャストフィットしており、クロロ基が疎水性ポケットとピッタリとファンデルワールスコンタクトをとっている事が理解できた。一方でリンカーのエーテル酸素原子は相互作用に預かっていない。炭素原子を酸素原子に変換して活性が100倍向上した要因は、コンフォメーション解析で説明できる。すなわち水中での安定構造からタンパクに相互作用する際の活性構造とのエネルギー差はエーテルリンカーで0.5 kcalであるのに対して、メチレンリンカーでは3.0 kcal/molである。すなわちこのエネルギー差2.5 kcal/molは活性が1桁につき1.36kcal/molに相当し、100倍=1.36X2=2.72 kcal/molとほぼ一致する。

 こうして見出された化合物9だが、芳香環のカチオニックな性質は膜透過性の低さの要因となり細胞系での活性が見込めない。中性状態をとれる化合物24では活性が100倍低下してしまう。これは先の結晶情報の考察のとおり、サンドイッチ型のカチオン・π相互作用に不利に働くからと考えられる(Table 2)。そこで一端視点を変えて、リボース側の変換に着眼した。結晶情報ではリボース部分は特に重要な相互作用には預かっていないように見受けられる。実際に水素結合ドナーを潰した26で活性は減弱しなかった(Table 3)。このリボース骨格はコンフォメーションを折り畳み構造に固定化するように機能していると考えられる。そこで、これをごっそり除去して別リンカーを介してリン酸部分を導入するデザインを検討した(Fig. 3)。これによってみ見出した化合物33はカチオニックな母核でないにも関わらず活性は95 nMと強力であった。しかし、3リン酸構造のジアニオン構造の為に、膜透過性は低く、細胞系での活性は認められない(Table 4)。リン酸部分を種々等価体的に変換したが(Table 4)、有効な置換基は見出されなかった。今後、細胞内を透過させるプロドラッグ戦略によって課題解決を検討する予定、としている。


  ヒットがでなければ活性が弱く非ドラッグライクな内因性のmRNAキャップから最適化する、この極めて挑戦的な課題はSBDDを軸に展開して有望な化合物を見出す事に成功した。内因性リガンドからの最適化という点では、同じく抗癌剤のテーマであるNEDD8阻害薬で、武田・ミレニアムの開発化合物MLN4924がAMPの誘導体から見出されている(http://www.nature.com/nature/journal/v458/n7239/abs/nature07884_ja.html)。一方でこのeIF4E阻害薬の難しいところは、ジアニオンとカチオンが活性発現に非常に重要という点である。イオン性の相互作用を代替してかつ活性を獲得していくプロセスで脂溶性ポケットを狙っているのであるが、それが塩素原子のファンデルワールス・コンタクトというエンタルピーの寄与と、エーテル・リンカーのエントロピーの寄与によって極めて効率的に活性を稼いでいるのは興味深い。リンカーの1原子の違いでもその効果は大きい。エーテル・リンカーとメチレン・リンカーの安定構造の違いは、昨日紹介のMerck社のHIV治療薬NNRTIでMK-4965の周辺誘導体の変換でも検証されていた(http://medicinalchemistry.blog120.fc2.com/blog-entry-802.html)。このMK-4965の中央ベンゼン環、もしくはインダゾール環をピリドンに変換した新規ケモタイプの検討では、エーテルリンカーの二面角が0°、180°に鞍点があるのに対して、メチレンリンカーは90°、270°となり、ピリドン連結のメチレンリンカーの鞍点はメチレンタイプと同じプロファイルでかつそのエネルギー障壁は3ー6倍でより活性構造を安定化しうる、というものであった。僅か2つの重原子で2つの熱力学的パラメーターを呼び込んだのは、予想外の事だったとはいえその効果は大きい。また、リボースが相互作用に寄与せず構造固定化の為だと判断して大胆に変換した事が、もう一つの大きな課題であったサンドイッチ型のカチオン・π相互作用を脱却できた事も秀逸である。優れたドラッグデザインはいつも既成概念の中のルーチンワークからは生み出されず、高いハードルを越えていく為の仮説と観察力に依存しているのである。
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