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適切にリーダーシップを持ち回り:チームの内発的パワーを最大化せよ

Schneider A, Erden Z, Widmer H, et al. Rethinking leadership in drug discovery projects. Drug Discovery Today. 2012;(2010).
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612001985



製薬企業は研究開発の原動力を再構築する為に多大な努力を払っており、その試みが報告されてきた。しかし、改善すべき重大な事・リーダーシップについては、あまり注目して報告されてこなかったようである。ここでは組織の頂点で権限と責任を持つ中心型リーダーシップ一辺倒の考えを改め、分散型リーダーシップと均衡させるリーダーシップの考え方を提案する。分散型リーダーシップでは、日々の研究活動と科学的な疑問を解決できるグループ・ベースの能力が評価される。昨今の研究チームはリーダーシップが直面している3つの課題に苦しんでいると考えられ、これらは分散型リーダーシップの考え方を取り入れる事で解決できるかもしれない。さらにここでは、創薬プロジェクトで分散型リーダーシップを醸成する方法を提案する。ここで述べられている「分散型リーダーシップ」、特定の一人に集中した権限による外圧ではなく、メンバー全員がリーダーとフォロアーを持ち回り、チーム内の内発的パワーを喚起する手法、日本人の感覚にはフィットするのではないか?


「中心型リーダーシップと分散型リーダーシップの違い」
 リーダーシップとはガイダンスを提供し、チームの方向性を示し、計画を立て、メンバーのやる気を出させ、刺激し、勇気づけ、権限移譲し、フォロワーの期待に応え、明確なビジョンを示し、ロールモデルとしての役割を果たす事である。中心型リーダーシップとは、疾患領域の上級管理職やサイエンティフィック・レビュアといった階層構造の中で権限が集中した状態にある。中心型リーダーシップの権限は、組織構造を制御し、コミニュケーションのチャンネルを構築し、情報の流れをコントロールする。中心型リーダーは、フォロアーに自らの強権を行使し、目標達成の為に自ら共同研究を立案して指揮する。一方で、分散型リーダーシップは、リーダーシップの役割と権限は複数の個々のメンバーに分散している。分散型リーダーシップは外圧で人を動かすのではなく、チームのうちに秘めたるパワーの発揮を狙う。分散型リーダーシップでは、個々の役割がリーダーからフォロワーに切り替わる。分散型リーダーシップは、個々人メンバーの興味と目標をうまく調節し、お互いの将来もしくは現在の活動へのコミットメントを共有しながら共栄する。

 中心型リーダーシップと分散型リーダーシップを比較検討する事は、研究者をイノベーションに向かわせる為にも重要である。まず製薬企業は、異なる3つの階層において、中心型と分散型のリーダーシップがそれぞれ果たすべき責任がある事を明確にしておかなくてはならない。3つの階層とは
1)ローカル・ナレッジを生み出す核となる階層、
2)ナレッジを生み出す為のリソースを提供する条件付きの階層、
3)組織内でナレッジを生み出す為のフレームワークと方向性を構築する構造的階層、
である。
 ナレッジの創出とイノベーションは、ある程度流動的で混沌とした環境の中での普段の研究者の交流を通した核となる階層で生じる。分散型リーダーシップは、核となる階層での「核となる活動」を刺激して稼働させ継続させる事ができる。さらに構造化されていない自律的で自発的な共同研究を推進させる。このような共同研究で適切な実験計画を設定するのはプロジェクト・チーム全体に責任が分散した共同責任である。研究メンバーは、どのアッセイが目の前の課題に解答を出す為の最良の方法かを決定しなくてはならない。複数のアッセイを並走させるにせよ、順次走らせるにせよ、内在するリスクを予測し、評価し、リード化合物創出と開発化合物の選定の手法を現場のメンバーで決定し、上級管理者に提案しなくてはならない。
 構造的階層では、部門長的な上級管理職のような中心型リーダーが組織を作り上げ、その中でリソースを配分し、プロセスの調整と管理を行う。そして、中心型リーダーが、可能性の高い疾患領域にスポットライトをあてて科学的なビジョンを策定し、組織の将来の戦略的方向性を指し示す。この際に日常の非公式な日々のナレッジを創出する「核となる活動」は阻害しないように配慮される。
 条件付きの階層では、中心型リーダーシップと分散型リーダーシップは相互に補完し合い、非公式、公式のナレッジを関連づけさせる。中心型リーダーは、自らの上級管理職としての専門性や自らの経験した過去の創薬PJの教訓を、核の階層で必要とされるナレッジとして持っている。チーム内ではナレッジが出せずにとても解決できない状況を、中心型のリーダーシップが介在する事で解決できる場合がある。


「創薬での分散型リーダーシップ構築にむけて」
 ここでは分散型リーダーシップが製薬企業の生産性加速を補完しうる事を示す。現在、リーダーシップを発揮する上で3つの大きな問題が存在する。すなわち
(1)創薬PJ固有の複雑性、
(2)意思決定力の所在、
(3)PJチームメンバー間の利益相反、
である。世界の製薬企業の創薬プロジェクトの調査からこれらの課題は特定された。
 創薬PJ固有の複雑性は、リーダーシップの1つの大きな課題である。インタビューした科学者たちは様々な専門性を有しており、創薬の本質が種々の専門性で統合されて構成されている事を明らかにした。しかし、バイオインフォマティクス、分子モデリング、生物物理学、前臨床安全性試験、薬物動態やトランスレーショナル医療など、さまざまな科学分野を相互補完した標準的な対処方法は存在しない。研究者は、プロジェクトの様々な段階で全く異なる問題に直面する。よって、様々な専門家の専門知識と状況に対応できる専門家のリーダーシップの発揮が必要である。アッセイ担当者が初期段階でリード化合物を探索する事でリーダーシップを発揮し、創薬化学者はリード最適化段階で重要な役割を果たし、薬理担当者は化合物の選出で能力を発揮する。よって状況に応じて適切な人材が主導権をとる分散型リーダーシップが創薬プロジェクト固有の複雑性に対応できる。分散型リーダーシップでないならば、プロジェクト·リーダーとして "スーパーヒーロー"が存在しなくてはならない。このようなあらゆる状況で全てを解決するような「偉大な研究者」理論のリーダーシップは、1960年代にほとんど放棄された。研究者の調査結果から、創薬プロジェクトはリーダーシップの役割と責任を鍵になるチームメンバーに分散させなくては機能しない事が判明した。
 第2の課題は、意思決定力の所在である。製薬企業の研究開発の問題解決は、必ずしも直線的でも予測可能なものでもない。たとえば研究者がパスウェイに関連するターゲット・タンパクを検証できていないケースなどがそうである。フェノタイプ・アッセイで同定された化合物のMOAが不明であったり、ビトロで酵素を阻害している化合物が、生体内ではフィードバック効果の影響で薬効が見られないといった状況がある。研究者が予想外な問題に取り組む際に、自分たちに十分権限移譲され自由度と自律性を持って取り組めていると感じない状況があるとしたら、中心型リーダーが一方的に意思決定を行なっている時である。意思決定プロセスが遅くなり、組織は硬直化してしまう。これは本来目指すべき魅力あるビジネスの機会を失ってしまい、リソース再配分を遅れさせる典型的な事例である。分散型リーダーシップによって生産性を高める為に、創薬PJを自発的に構成させ、彼らが中心型リーダーの同意を得て、意思決定すべきである。
 第3の課題は、創薬PJにおける中心型と分散型のリーダーシップの相補性の重要性に関わる。中心型と分散型のリーダーシップの間での掛け合いが鍵になるのであるが、特にマトリックス化した組織の中では議論が困難になる。この対話がマトリックスの中で成功したケースを「うまく機能したマトリックス・マネージメント」と呼ぶ事がある。ここではお互いの情報が協同的に補完的に伝達されている。


「創薬における分散型リーダーシップの育成法」
 分散型のリーダーシップはチームの能力を反映しており、構築し難く、それでいて容易に崩れてしまう。分散型リーダーシップは訓練と現場での経験によって培うものである。マネージャーが種々のチームでの経験をつませるように仕向ける事で教育的効果が得られる。

「個人の訓練とチームのメンタリング」
 創薬では特に権限は状況に応じて流動的であるべきであり、個々のメンバーは時としてリーダーとして、他の状況ではフォロアーとしての役割を果たす事になる。創薬チームのメンバーは、ある時点でプロジェクトの適切な部分をリードする為にリーダーとしての立場をとることになる。このタスクは簡単なものではない。マネージャーは研究者が自らがリーダーなのだと意識するのを手助けする必要がある。研究者は全員、すべての科学的議論に自由に参加する事が認められ、議論の分野は彼らの専門領域外であっても良い。なぜならばこれが彼らの分散型リーダーシップの訓練になるからである。また、新人はチームプレーヤーとして、ピアとの交渉、他のチームメンバーの説得、科学的な議論のリードを通じて、最終的にリーダーとして行動する為の必要なスキル、ツール、および原則を身に付ける必要がある。したがって基本的なリーダーシップ能力開発研修は、創薬部門に参加する新人研究者の標準的な教育プログラムとして組み込まれるべきであろう。同様に、チーム・メンタリングが分散型リーダーシップを持つ創薬プロジェクトチームを理解するのに役立つ。経験豊かなチームリーダーは、自らの専門領域外であってもPJチームにメンタリングする事ができる。このように、PJチームはオーナーシップを発揮しつつ、メンバーの様々な視点によって恩恵を受ける事ができる。個々の訓練とチーム・メンタリングによって、チームメンバーは新たな技術を開発でき、疾患領域や研究サイト間でのコラボレーションとイノベーションを促進する。
 
「ナレッジ活用」
 分散型リーダーシップをチームメンバーに簡単に取り入れる方法は、「誰が何をしっているか」を理解して共有する事である。誰が特定の問題に取り組める専門家なのかを知る事は、課題に直面した時に誰が担当できるかを理解する事になる。チームと企業が取り組むナレッジ・マネージメントは、チームのナレッジを透明化し、分散型リーダーシップの浸透を加速させる。たとえば、ナレッジ・マップは誰がどういった技術を持っているのか、ナレッジ・クラスターのつながりなどの詳細な情報を提供できる。ナレッジ・マップは、チームが知っている事をプロファイリングして可視化させ、これまで不透明であった常に移り変わる権限の所在を明らかにし、状況に応じたリーダーが誰なのかを明確にするのである。

「組織文化」
 適切な研究者をリーダーに設定する為にも、プロジェクトメンバーは自らの専門性を他のメンバーに伝えなくてはならない。しかし、メンバーがその専門性を過大評価したり過小評価するようでは、信用・信頼は失墜してしまう。分散型リーダーシップは権力闘争に影響を受けやすく、ついにはその有効性を失ってしまう。分散型リーダーシップは損なわれやすいのである。分散型リーダーシップをケアする為にも中心型リーダーの気配りが必要となる。長期ビジョンとチーム目標の共有を醸成する事で個々人のオーナーシップが強化され、チームメンバー間の信頼関係を確立し、最終的には研究者が彼らの研究と同僚をケアするように導く。


 プロジェクトの開始と中止の決断、重要なリソース配分決定は、中心型リーダーシップの高い階層レベルで行う必要がある。これは、全体的な目標と主なステークホルダーの要望に合致させる為である。また、定期的な主要マイルストーンでの戦略的監督も中心型リーダーシップによって行われなくてはならない。しかし、研究計画と実践、プロジェクト戦略目標の伝達は、プロジェクトチームの責任である。チームでは、戦略的成果に焦点を当て、問題解決できる専門分野に特化した能力を持つ適切なメンバーにリーダーシップを分散すべきである。また、新たな、それはしばしば予期しない結果にも即座に対応する為に、チームが予め決められたワークフローから逸脱する事にいちいち許可を必要とせずに、起業家精神に基づいて自主性を顕示し適切な計画を再構築するのである。また、コアになるメンバーは、適切な専門性ある研究者が対応している事を確認してライン·マネージャーに伝達する必要がある。PJメンバーとライン管理者は創造されたナレッジを共有するのみならず、創薬の初期段階にはよくある障害を寛容し、解決を促進する風土を認める必要がある。

 中心型と分散型リーダーシップの間での掛け合いが、意思決定権限の所在と利益相反のような創薬固有の複雑性に解決の糸口を与える。まずはパイロット・チームでこのシステムを立ち上げ、徐々に組織全体に拡張する事で、リーダーシップの価値観に持続可能な変化をもたらす事ができる。分散型と中心型リーダーシップのバランスをとる事は、将来の創薬組織が競争に勝ち抜く上で重要な要素の一つとなる。
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