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適切にリーダーシップを持ち回り:チームの内発的パワーを最大化せよ

Schneider A, Erden Z, Widmer H, et al. Rethinking leadership in drug discovery projects. Drug Discovery Today. 2012;(2010).
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1359644612001985



製薬企業は研究開発の原動力を再構築する為に多大な努力を払っており、その試みが報告されてきた。しかし、改善すべき重大な事・リーダーシップについては、あまり注目して報告されてこなかったようである。ここでは組織の頂点で権限と責任を持つ中心型リーダーシップ一辺倒の考えを改め、分散型リーダーシップと均衡させるリーダーシップの考え方を提案する。分散型リーダーシップでは、日々の研究活動と科学的な疑問を解決できるグループ・ベースの能力が評価される。昨今の研究チームはリーダーシップが直面している3つの課題に苦しんでいると考えられ、これらは分散型リーダーシップの考え方を取り入れる事で解決できるかもしれない。さらにここでは、創薬プロジェクトで分散型リーダーシップを醸成する方法を提案する。ここで述べられている「分散型リーダーシップ」、特定の一人に集中した権限による外圧ではなく、メンバー全員がリーダーとフォロアーを持ち回り、チーム内の内発的パワーを喚起する手法、日本人の感覚にはフィットするのではないか?


「中心型リーダーシップと分散型リーダーシップの違い」
 リーダーシップとはガイダンスを提供し、チームの方向性を示し、計画を立て、メンバーのやる気を出させ、刺激し、勇気づけ、権限移譲し、フォロワーの期待に応え、明確なビジョンを示し、ロールモデルとしての役割を果たす事である。中心型リーダーシップとは、疾患領域の上級管理職やサイエンティフィック・レビュアといった階層構造の中で権限が集中した状態にある。中心型リーダーシップの権限は、組織構造を制御し、コミニュケーションのチャンネルを構築し、情報の流れをコントロールする。中心型リーダーは、フォロアーに自らの強権を行使し、目標達成の為に自ら共同研究を立案して指揮する。一方で、分散型リーダーシップは、リーダーシップの役割と権限は複数の個々のメンバーに分散している。分散型リーダーシップは外圧で人を動かすのではなく、チームのうちに秘めたるパワーの発揮を狙う。分散型リーダーシップでは、個々の役割がリーダーからフォロワーに切り替わる。分散型リーダーシップは、個々人メンバーの興味と目標をうまく調節し、お互いの将来もしくは現在の活動へのコミットメントを共有しながら共栄する。

 中心型リーダーシップと分散型リーダーシップを比較検討する事は、研究者をイノベーションに向かわせる為にも重要である。まず製薬企業は、異なる3つの階層において、中心型と分散型のリーダーシップがそれぞれ果たすべき責任がある事を明確にしておかなくてはならない。3つの階層とは
1)ローカル・ナレッジを生み出す核となる階層、
2)ナレッジを生み出す為のリソースを提供する条件付きの階層、
3)組織内でナレッジを生み出す為のフレームワークと方向性を構築する構造的階層、
である。
 ナレッジの創出とイノベーションは、ある程度流動的で混沌とした環境の中での普段の研究者の交流を通した核となる階層で生じる。分散型リーダーシップは、核となる階層での「核となる活動」を刺激して稼働させ継続させる事ができる。さらに構造化されていない自律的で自発的な共同研究を推進させる。このような共同研究で適切な実験計画を設定するのはプロジェクト・チーム全体に責任が分散した共同責任である。研究メンバーは、どのアッセイが目の前の課題に解答を出す為の最良の方法かを決定しなくてはならない。複数のアッセイを並走させるにせよ、順次走らせるにせよ、内在するリスクを予測し、評価し、リード化合物創出と開発化合物の選定の手法を現場のメンバーで決定し、上級管理者に提案しなくてはならない。
 構造的階層では、部門長的な上級管理職のような中心型リーダーが組織を作り上げ、その中でリソースを配分し、プロセスの調整と管理を行う。そして、中心型リーダーが、可能性の高い疾患領域にスポットライトをあてて科学的なビジョンを策定し、組織の将来の戦略的方向性を指し示す。この際に日常の非公式な日々のナレッジを創出する「核となる活動」は阻害しないように配慮される。
 条件付きの階層では、中心型リーダーシップと分散型リーダーシップは相互に補完し合い、非公式、公式のナレッジを関連づけさせる。中心型リーダーは、自らの上級管理職としての専門性や自らの経験した過去の創薬PJの教訓を、核の階層で必要とされるナレッジとして持っている。チーム内ではナレッジが出せずにとても解決できない状況を、中心型のリーダーシップが介在する事で解決できる場合がある。


「創薬での分散型リーダーシップ構築にむけて」
 ここでは分散型リーダーシップが製薬企業の生産性加速を補完しうる事を示す。現在、リーダーシップを発揮する上で3つの大きな問題が存在する。すなわち
(1)創薬PJ固有の複雑性、
(2)意思決定力の所在、
(3)PJチームメンバー間の利益相反、
である。世界の製薬企業の創薬プロジェクトの調査からこれらの課題は特定された。
 創薬PJ固有の複雑性は、リーダーシップの1つの大きな課題である。インタビューした科学者たちは様々な専門性を有しており、創薬の本質が種々の専門性で統合されて構成されている事を明らかにした。しかし、バイオインフォマティクス、分子モデリング、生物物理学、前臨床安全性試験、薬物動態やトランスレーショナル医療など、さまざまな科学分野を相互補完した標準的な対処方法は存在しない。研究者は、プロジェクトの様々な段階で全く異なる問題に直面する。よって、様々な専門家の専門知識と状況に対応できる専門家のリーダーシップの発揮が必要である。アッセイ担当者が初期段階でリード化合物を探索する事でリーダーシップを発揮し、創薬化学者はリード最適化段階で重要な役割を果たし、薬理担当者は化合物の選出で能力を発揮する。よって状況に応じて適切な人材が主導権をとる分散型リーダーシップが創薬プロジェクト固有の複雑性に対応できる。分散型リーダーシップでないならば、プロジェクト·リーダーとして "スーパーヒーロー"が存在しなくてはならない。このようなあらゆる状況で全てを解決するような「偉大な研究者」理論のリーダーシップは、1960年代にほとんど放棄された。研究者の調査結果から、創薬プロジェクトはリーダーシップの役割と責任を鍵になるチームメンバーに分散させなくては機能しない事が判明した。
 第2の課題は、意思決定力の所在である。製薬企業の研究開発の問題解決は、必ずしも直線的でも予測可能なものでもない。たとえば研究者がパスウェイに関連するターゲット・タンパクを検証できていないケースなどがそうである。フェノタイプ・アッセイで同定された化合物のMOAが不明であったり、ビトロで酵素を阻害している化合物が、生体内ではフィードバック効果の影響で薬効が見られないといった状況がある。研究者が予想外な問題に取り組む際に、自分たちに十分権限移譲され自由度と自律性を持って取り組めていると感じない状況があるとしたら、中心型リーダーが一方的に意思決定を行なっている時である。意思決定プロセスが遅くなり、組織は硬直化してしまう。これは本来目指すべき魅力あるビジネスの機会を失ってしまい、リソース再配分を遅れさせる典型的な事例である。分散型リーダーシップによって生産性を高める為に、創薬PJを自発的に構成させ、彼らが中心型リーダーの同意を得て、意思決定すべきである。
 第3の課題は、創薬PJにおける中心型と分散型のリーダーシップの相補性の重要性に関わる。中心型と分散型のリーダーシップの間での掛け合いが鍵になるのであるが、特にマトリックス化した組織の中では議論が困難になる。この対話がマトリックスの中で成功したケースを「うまく機能したマトリックス・マネージメント」と呼ぶ事がある。ここではお互いの情報が協同的に補完的に伝達されている。


「創薬における分散型リーダーシップの育成法」
 分散型のリーダーシップはチームの能力を反映しており、構築し難く、それでいて容易に崩れてしまう。分散型リーダーシップは訓練と現場での経験によって培うものである。マネージャーが種々のチームでの経験をつませるように仕向ける事で教育的効果が得られる。

「個人の訓練とチームのメンタリング」
 創薬では特に権限は状況に応じて流動的であるべきであり、個々のメンバーは時としてリーダーとして、他の状況ではフォロアーとしての役割を果たす事になる。創薬チームのメンバーは、ある時点でプロジェクトの適切な部分をリードする為にリーダーとしての立場をとることになる。このタスクは簡単なものではない。マネージャーは研究者が自らがリーダーなのだと意識するのを手助けする必要がある。研究者は全員、すべての科学的議論に自由に参加する事が認められ、議論の分野は彼らの専門領域外であっても良い。なぜならばこれが彼らの分散型リーダーシップの訓練になるからである。また、新人はチームプレーヤーとして、ピアとの交渉、他のチームメンバーの説得、科学的な議論のリードを通じて、最終的にリーダーとして行動する為の必要なスキル、ツール、および原則を身に付ける必要がある。したがって基本的なリーダーシップ能力開発研修は、創薬部門に参加する新人研究者の標準的な教育プログラムとして組み込まれるべきであろう。同様に、チーム・メンタリングが分散型リーダーシップを持つ創薬プロジェクトチームを理解するのに役立つ。経験豊かなチームリーダーは、自らの専門領域外であってもPJチームにメンタリングする事ができる。このように、PJチームはオーナーシップを発揮しつつ、メンバーの様々な視点によって恩恵を受ける事ができる。個々の訓練とチーム・メンタリングによって、チームメンバーは新たな技術を開発でき、疾患領域や研究サイト間でのコラボレーションとイノベーションを促進する。
 
「ナレッジ活用」
 分散型リーダーシップをチームメンバーに簡単に取り入れる方法は、「誰が何をしっているか」を理解して共有する事である。誰が特定の問題に取り組める専門家なのかを知る事は、課題に直面した時に誰が担当できるかを理解する事になる。チームと企業が取り組むナレッジ・マネージメントは、チームのナレッジを透明化し、分散型リーダーシップの浸透を加速させる。たとえば、ナレッジ・マップは誰がどういった技術を持っているのか、ナレッジ・クラスターのつながりなどの詳細な情報を提供できる。ナレッジ・マップは、チームが知っている事をプロファイリングして可視化させ、これまで不透明であった常に移り変わる権限の所在を明らかにし、状況に応じたリーダーが誰なのかを明確にするのである。

「組織文化」
 適切な研究者をリーダーに設定する為にも、プロジェクトメンバーは自らの専門性を他のメンバーに伝えなくてはならない。しかし、メンバーがその専門性を過大評価したり過小評価するようでは、信用・信頼は失墜してしまう。分散型リーダーシップは権力闘争に影響を受けやすく、ついにはその有効性を失ってしまう。分散型リーダーシップは損なわれやすいのである。分散型リーダーシップをケアする為にも中心型リーダーの気配りが必要となる。長期ビジョンとチーム目標の共有を醸成する事で個々人のオーナーシップが強化され、チームメンバー間の信頼関係を確立し、最終的には研究者が彼らの研究と同僚をケアするように導く。


 プロジェクトの開始と中止の決断、重要なリソース配分決定は、中心型リーダーシップの高い階層レベルで行う必要がある。これは、全体的な目標と主なステークホルダーの要望に合致させる為である。また、定期的な主要マイルストーンでの戦略的監督も中心型リーダーシップによって行われなくてはならない。しかし、研究計画と実践、プロジェクト戦略目標の伝達は、プロジェクトチームの責任である。チームでは、戦略的成果に焦点を当て、問題解決できる専門分野に特化した能力を持つ適切なメンバーにリーダーシップを分散すべきである。また、新たな、それはしばしば予期しない結果にも即座に対応する為に、チームが予め決められたワークフローから逸脱する事にいちいち許可を必要とせずに、起業家精神に基づいて自主性を顕示し適切な計画を再構築するのである。また、コアになるメンバーは、適切な専門性ある研究者が対応している事を確認してライン·マネージャーに伝達する必要がある。PJメンバーとライン管理者は創造されたナレッジを共有するのみならず、創薬の初期段階にはよくある障害を寛容し、解決を促進する風土を認める必要がある。

 中心型と分散型リーダーシップの間での掛け合いが、意思決定権限の所在と利益相反のような創薬固有の複雑性に解決の糸口を与える。まずはパイロット・チームでこのシステムを立ち上げ、徐々に組織全体に拡張する事で、リーダーシップの価値観に持続可能な変化をもたらす事ができる。分散型と中心型リーダーシップのバランスをとる事は、将来の創薬組織が競争に勝ち抜く上で重要な要素の一つとなる。

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

適応拡大が見直される中、創薬化学者の役割は?

Aubé J. Drug Repurposing and the Medicinal Chemist. ACS Medicinal Chemistry Letters. 2012:120524102301001.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml300114c

メディシナル・ケミストは、未だ治療薬のない疾患領域で優れた医薬品を創出する事が使命だと考えている。これとは対照的な手法が、ドラッグ・パーパシング(ドラッグ・リポジショニング)である。この手法には「ドラッグ・レスキュー」といった種々の別名が存在するが、本質的には、既存の薬剤が別の疾患に適用できないか探索する事を意味する。この手法のメリットは、既にヒトで安全性や薬物動態といったプロファイルが明確な薬剤を利用できる点にある。疾患探索スクリーニングには化合物を10万化合物程度の伝統的な小分子ライブラリーを当てるので、コスト・エフェクティブでもある。しかし、新たに見出された疾患治療薬として、薬物動態や安全性については不十分な場合もある。このようなケースに備えて、メディシナル・ケミストは、新たに見出された疾患で最適なプロファイルを持つように最適化する役目を担う事になると考えられる。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

製薬企業の現状と生産性改善に向けた挑戦

Khanna I. Drug discovery in pharmaceutical industry: Productivity challenges and trends. Drug discovery today. 2012.
Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22627006

 生産性の低下、研究開発費の高騰、消えゆく知的財産権、先細るパイプライン、これらが製薬企業を前例のない危機へと向かわせている。ここでは製薬企業の生産性を落としている要因を追求し、打開策として「共生型イノベーション」を提案する。このモデルは、失敗のリスクを共有し、理想と現実ののギャップを小さくし、生産性を向上させる。このモデルの特徴は、パートナーシップによってコスト・エフェクティブに質を高める事にある。


 イノベーションは、製薬業界の力強さの源であった​​。数十年間、製薬業界は医療ニーズに応えるべく、命を救うような新しい治療法となる医薬品をいくつも提供し、治療選択肢を増やす事に貢献してきた。多くの疾患、とりわけ急性疾患の多くは治療可能となり、効果的に健康管理が可能になった。心血管、代謝、関節炎、痛み、うつ病、不安、がん、胃腸疾患、婦人科疾患、感染症といった疾患の新薬の発見によってQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は改善し、平均寿命は向上した。 1990年代には、いくつものブロックバスター医薬品が創出され、製薬部門の立場をトップレベルにまで高め、製薬業界の黄金時代となった。1996年及び1997年には、FDAが新規化合物NME56個、バイオ医薬品NBE45個を承認した事が、黄金時代の象徴的結果である。

  2010年の医薬品全世界の売上高は8560億ドルであり、米国と欧州は、この売上高の約60%を締める。大手製薬会社はその収益の多くを研究開発活動に投じてきた。売上高に対する研究費の割合は他のどの産業に比べても常に最高レベルを維持している。米国製薬業界は2010年にR&Dに674億ドルを費やしており、売上に対して17%に相当する。研究開発費を回収できる医薬品が20%しかない事を考えると、これは高く付く投資である。


<<製薬企業の挑戦>>
 大規模な投資にもかかわらず、製薬業界は、生産性の著しい低下に直面している。研究開発予算規模が大きくなれば、それに比例して成功確率が高くなる事を保証するものではない。この数十年間、製薬業界は4300社が競合していたが、1つ以上のNMEを創出したのはわずか261社である。製薬企業の88%が他と合併するなどして姿を消しさり、生き残ったのは残りわずか12%である。以下の議論では、業界が直面している課題の概要を示す。

<高費用、高い確率での失敗>
 科学技術の進歩、大規模な研究開発の投資にもかかわらず、2005-2010年の6年間での新薬申請数(NMEとNBEs)は年間20-25個と最も低水準であった。この中で興味深いことは、2009年と2010年の新たなトレンドとして、プライマリケアでの疾患を狙ったブロックバスター戦略から限定的な疾患での新薬創出へとシフトしている事である。2009年と2010年に承認された薬の24%(年間6-7個)は、専門医療に属するオーファン・ドラッグであった。2011年には希少疾患治療薬、オーファンドラッグの薬剤承認数は合計10個に達し、FDAが過去10年で承認した薬剤合計が35個である事を考慮すると、最も生産的な年である事が理解できる。しかし、多くの専門家は、希少疾患の年間薬剤承認総数は、ここ2ー5年の間に劇的に上昇することはないと推定している。医薬品の承認数の少なさは、開発コストの上昇によってさらに印象を悪くしている。米国やそれに紐付く各国での承認後のフェーズ4の費用を含めると,コンセプト提案から市場に新薬を出すまでの平均コストは10億ドル(8ー18億ドル)以上とさえ言われる。ただ、これらの費用は企業規模と薬剤の種類によって異なる。小規模な組織や、急性疾患では研究開発費はかなり低い傾向がある。また、フェーズ2後期からフェーズ3にかけて開発の中止する主要な要因の一つは費用負担の急上昇による圧迫であった。


<資金の浪費と疲弊するパイプライン>
 多くの製薬企業は、1990年代に10億ドル以上の年間売上高を持つブロックバスターを生み出した為、その後の研究開発戦略をさらに企業規模を巨大化させる為のブロックバスター型にせざるをえなくなった。リスク収益バランスを考慮してしまい、多くの大企業が300万ドル以下の低または中規模の市場をとれる新薬への投資を正当化できなかったのである。残念なことに、ブロックバスター戦略はほとんど機能していない。そして、製薬業界の製品パイプラインは枯渇した。製薬企業の成長に貢献する糧もあった過去のブロックバスターは既に成熟しており、特許の保護を失いつつある。2009-2014年に特許期限は失効し、2090億ドルもの稼ぎ頭を失い、医薬品の歴史にとって最悪の時代に突入しようとしている。多くの企業は、理想と現実のギャップを埋め収益予想を補完する為に苦労している。過去数年には、市場に出て世界的に何百万人もの患者に投薬されるまで成長した医薬品も存在するが、そんなある程度確立されたものでさえ数年後に生命を脅かす副作用が出現する場合もあった。規制当局はこれらの製品は市場から撤回させ、厳格な承認ガイドラインを採用せざるをえなくなった。安全性を追跡し、市販後医薬品の有効性を定義するための新たなプロトコールが実装された。心血管系および糖尿病患者を指向した薬剤では多くの場合、FDAは新薬承認前に有効性と長期的な安全性を証明するために心血管イベントのアウトカム研究を含む大規模臨床試験を実施させている。また新規メカニズムに基づく多くの薬剤は、承認後も追加調査を実施し、安全性パラメータを監視される。

 弱体化するパイプラインと特許満了による収益予想損失の為に、多くの企業が "繁栄"から"生き残り"へと企業姿勢をシフトしている。経費を削減し、ブロックバスター製品の有効期限を引き伸ばす実行可能なオプションを見つけるために必死の努力を継続している。過去5年間で、トップ10の製薬会社は20万人以上のリストラを実行してきた。無駄とおもわれる機能を排除し、吸収合併をノルマにしてきた。しかし、これらの措置は短期的には費用抑制として機能するが、根本的な生産性の回復を促すものではない。

<グローバル化、変化する研究スタイル>
 創薬のコスト増大の為、製薬業界では研究開発予算の効率化の道を模索してきた。中国とインドは大規模な人材プールを持っており、米国に比べて人件費は30ー80%の大幅節約が可能であり、前臨床から臨床に至るまで幅広いサービスを提供している。多くのメガファーマは契約研究機関(CRO)とグローバルに提携したり、中国、インド、シンガポールに研究拠点を構築しようとしている。これらの中国やインドといった新興国は、医薬品研究開発のさまざまな側面で必要な競争力を急速に成熟させてきた。特許条項で合意する事で、新興国市場はR&D、製造、臨床試験とマーケティングの新たな提携先として急成長している。

<社会・経済・政治情勢>
 先進国では"団塊世代"の高齢化が進んでおり、世界人口は増加しているので、医療費は世界的に莫大になっており、これに対処するために医薬品セクター内でも議論が必要となっている。2009年の米国勢調査局の調査では、ここ数年で米国の人口の約12.9%が65歳以上の高齢者になると推定している。よって高齢化によって、医療費と薬剤製品価格抑制の要望がエスカレートすると予想される。社会経済側からの強い要望と成功確率の低さは、結果的に製薬業界にR&D戦略を見直させ、効率性と生産性の向上を強制させる事になる。


<<低生産性解析>>
 製薬企業は、低い生産性と研究開発コストの増大の理由を追求し、方針を修正せざるをえなくなっている。以下に、低い生産性の原因をさまざまな要因で分析する。

<臨床の失敗、変化するパラダイム>
 臨床の失敗理由は、この20年間で大きく変化している。1991年の失敗理由は、主に不適切な薬物動態であった。それ以来、製薬業界はヒトでの薬物動態プロファイルを予測するための透過性、代謝、分布および排泄のスクリーニングを実施してきた。この努力のお陰で、2000年にはDMPKが理由でドロップす確率は大幅に減少した。メディカル·リサーチ・センター(CMR)の発表したレポートで、最近のフェーズ2およびフェーズ3での失敗理由を分析している。それによると、フェーズ2が最も脆弱な段階であった。フェーズ2の成功確率は、2006年と2007年で28%であったのに対して、2008年と2009年では18%にまで落ち込んだ。トムソン・ロイターが2008年から2010年の間にフェーズ2で失敗した理由を分析しており、第一の理由は薬効不足で(51%)、戦略的な理由(29%)も見過ごせない中止の理由として見出された。おそらく競合品に対する差別化点がない事、もしくは不十分なリスク/ベネフィットに由来する高い摩耗率が戦略的な中止に追い込まれた要因と推定される。また治験薬の約19%は、安全性の懸念や不十分なマージンで中止している。失敗した候補化合物の多くは、PPARγやファクターXaといったかつての期待のテーマであった。これらの失敗した開発化合物の約68%が代謝、循環器、癌、神経変性疾患領域に分類される。
 CMRによる2007-2010年のフェーズ3の分析も同様で、新規MOAや新規適応症を狙う薬剤の失敗が全体の50%を占めている。やはり薬効欠如(66%)が​​臨床失敗の決定的な理由であった。安全性面での懸念とリスク/ベネフィットの欠如が第二の理由として21%を占めた。薬効不足の内訳は、プラセボを上回る有意な改善作用が見られない(32%)、コントロールの薬剤に対する差別化欠如(5%)、アドオン効果の欠如(29%)が挙げられた。これらの失敗の多くは、アンメットメディカルニーズを狙う癌や神経変性疾患であった。癌の場合、成功しているのは効果のある腫瘍の種類を限定していた。また、癌をどのように延命措置するかの戦略も臨床試験を成功させる重要な要素となっていた。臨床試験と承認段階に要する期間の平均は1990年で77カ月であったのに対して、2000年代は95ヶ月に増加していた。非臨床の時間も合わせると、研究開発期間が12年以上になってしまうものもあり、これではほとんど特許期間が失効してしまう事になる。Fig. 3には、2010年に各臨床試験段階で生き残った開発化合物の割合を示している。 2009年と2010年の創薬の生産性は6%程度と判定され、医薬品の歴史上、最低レベルである。
 ここで薬効不足理由を理解するための考察を行った。ヒトゲノムの発見以来、疾患で重要な役割を果たす有望な標的の探索が行われてきた。当初の期待感にもかかわらず、見出された有望なターゲットは少なかった。研究段階で疾患を決め、マイルストーンを設定して臨床をクリアしてきた。しかし、ターゲット・ベースのアプローチでは、多くの患者で望ましい成果を得る事はほとんどなかった。これらの失敗は、安全性や薬効が不十分であった為で、予期せぬ生理的な代償機構が機能しているからかもしれない。過去10年間に承認された新規化合物を分析(1999年から2008年)した結果では、興味深いことに、新規MOAで承認された78薬剤のNMEとNBEのうち、多くがフェノタイピング・ベースであり(28個、37%)、ターゲットベースに基づく薬剤の承認数(17個、23%)を上回る。一方でフォロアーの創薬では、フェノタイピング・アッセイは少なく(30個、18%)、ターゲット・ベースが多い(83個、51%)。ターゲットベースは、がんで多く成功しているのに対し、フェノタイピングは中​​枢神経系、感染症でうまく機能している。歴史的に、ゲノム創薬以来のターゲットの出現より以前から、フェノタイピング・スクリーニングのアプローチが、新薬創出の有用な手法であった。もちろん、双方のアプローチにそれぞれの長所と短所を持っており、どちらが一方的に良いとはいえない。また、すべてのNBEsは、ターゲットベースで発見されている。ターゲットベースのアプローチでは、フォロアーのプロジェクトが高い確率で成功できるので、新規MOAの化合物が出ると、それに対して追いつく為のスピードと効率が勝負となる。ファースト・イン・クラスが市場を独占できる期間は縮小しており、1970年代では約10年間独占できたが、今や約1.2年で平均化されてしまう。
 
<技術面以外に基づく低生産性>
 創薬の成功率は、小企業および大企業の両方で低い。メガファーマの革新的医薬品の減少は自由度のないシステム化、企業文化、合併、不確実性、長期ビジョンへのコミットメントの欠如といったいくつかの要因がある。化合物プロファイルが不十分でも、プロジェクトリーダーは、目先のプロジェクトの目標とスケジュールの達成が目的となり、化合物を臨床に入れようと意識が働いてしまっている。
 小さなバイオテクノロジー企業では、非官僚的な組織で高い柔軟性を備えた革新を主導する研究体制をとっていると考えられている。これらベンチャー的企業は研究の強い使命感とコミットメントを持つが、目先の費用対効果比に左右される傾向がある。きめ細かなリード最適化は、資金不足から回避されがちである。失敗する事は企業が倒産する事になるので、プロジェクトを止める事なく、苦しくともなんとか臨床に入れ、ライセンス・アウトで成長を維持するしかない。バイオテックは寿命が3ー5年と短い事もあって、質の低い化合物でも臨床試験で勝負にかけてしまい、失敗する。
 
<<生産性と成功確率の向上>>
 製薬会社は、効率と生産性を向上させるために再編をしようとしている。低い研究開発生産性は、持続可能ではないので、いくつかのモデルを採用し費用対効果を向上させるために議論されている。

<疾患の選定>
 ターゲットや疾患の選定は、創薬プロセスの最初の重要なステップであり、プロジェクトの命運を大きく左右する。したがって、ベストの検証方法を構築し、そしてその方法論の限界を明確にすることが重要である。研究の推進において、学術センターや小規模バイオテクノロジー企業はイノベーションのきっかけであり続ける。その研究手法として、ターゲットベースで選択的な化合物を見出すアプローチは、いくつかの医薬品の創製に成功している。単一ターゲットで高活性・高選択的化合物を創出する場合、ハイ・スループット・スクリーニングを機能させ、リード最適化段階で価値ある構造活性相関を得る事が望ましい。しかし、このアプローチには欠点がある。単一ターゲットのシグナルは、別の補償効果で相殺してしまって薬効不足の要因になったり、関連するネットワーク・パスウェイを介して複雑な応答を引き起こして副作用の要因になる事もある。ほとんどの慢性疾患は多因子性であり、単一のターゲットの変調が最適な応答が得られるとは考えにくい。一方で、患者から得た組織および血漿試料を分析する事で、ターゲットの仮説を検証することが可能となる。こういった手法を利用したフェノタイピングのアプローチは有効かもしれない。現在、疾患の理解と治療的アプローチが検証段階にあり、複雑にパスウェイが絡む慢性疾患では重要である。しかし、フェノタイピング・スクリーニングでは、十分な構造活性相関を得るには低スループットな為に、リード最適化の難しさが課題である。これら両方のアプローチは、長所短所を比較して、より適切な方を選択する必要がある。また、プロジェクトの重要なステップとして、革新的なコラボレーションモデルが課題解決策として提案されている。これらは、官民パートナーシップ、オープン・イノベーション・モデル、および産学のパートナーシップがあり、たとえばIMI、Arch2POC、トランスレーショナルサイエ ンスを推進するためのナショナルセンター(NCATS)、癌治療評価プログラム(CTEP)、ダンディー・キナーゼ・コンソーシアムが知られている(Table 1)。同様にメガファーマは研究初期から新たな標的の検証の為に、国境を越えての "オープン・イノベーション"モデルを模索している(Table 2)。BayerのGrants4Targets 、MRCのCall for Targets、リリーのPhenotypic Drug Discovery Scheme、GSKのPharma in Partnership Program、 Center of Excellence for External Drug Discovery 、バイオジェンのIncubator Conceptが報告されている。

<動物モデル>
 ヒトに外挿できる適切な病態モデル動物は、化合物の評価と解析のために重要である。抗菌剤治療のようないくつかの急性疾患は、動物モデルはヒトへの外挿性が良い。慢性疾患、長期的な疾患では、モデル動物のみならず関連するバイオマーカーやイメージング技術によってメカニズムを検証し、疾患の変調の明確な証拠を示す信頼できる適切なモデルを構築し、成功確率を向上させる事が重要と考えられる。

<免疫系由来の毒性>
 非臨床のスクリーニング(HERG、遺伝毒性、ターゲットの選択、複数種の安全性薬理in vivo試験など)は、臨床に入る化合物の判別に役立っている。特に慢性的な疾患で免疫系由来の毒性(癌化、心血管イベント)が臨床後期試験段階で観察されると臨床開発を進める事ができなくなり、その対価は最も高くつく。非臨床段階で適切なバイオマーカー又は安全性に関する信頼おけるサロゲート・エンド・ポイントの選択、オフターゲットを排除することで、有望な候補を選出できる。

<量より質>
 製薬業界の多くは、標準的な臨床パイプラインの個数が多いほど、成功可能性が高くなると信じている。科学者やプロジェクトチームは、タイムライン通りにパイプラインを充実させるため積極的に業務を遂行する。リード化合物の質が損なわれても、サイクルタイムに対する厳しいプレッシャーによって、不十分な最適化化合物を臨床にねじ込んで失敗する。歴史上、質の高い候補化合物は、少々、他社との競合に遅れをとっても、キャッチアップしついには不十分な候補化合物を抜きさってきたのである。質を担保する為に要したリード最適化の余分な時間は、後の臨床開発での着実な前進に貢献する。一度選択された臨床候補化合物を途中で置き換える事はできない。中小の製薬企業では、仮説を検証するのに複数の化合物を試すチャンスはない。こうした失敗はターゲット・ベースもしくはパスウェイ・ベースの創薬に影を落とす。ほとんどの製薬企業は探索段階で多くのテーマを走らせるが、クライテリアを満たさないものを排除して絞り込む事が重要である。リード創出の質と研究プロセス効率は、創薬の各ステージで入手可能な技術を適切に選び出す事で改善する事ができる。たとえば、ターゲットIDとバリデーションの段階では過剰発現やノックアウト、ヒット創出ではX線結晶構造解析、SBDD、フラグメントベース、バーチャルスクリーニング、HTS、リード最適化では母核のホッピング、狙うポケットがアロステリックかアクティブサイトか、ADME、選択性と安全性スクリーニングといった手法が挙げられる。リード探索と臨床試験で、プロジェクトはいつもターゲット・プロダクト・プロファイル(TPP)に見合うのか、臨床での標準的な治療法に比べて差別化できるのか、といった事を判断するための「クリティカルなキラー」実験を検討すべきである。イノベーションにとってリード創出とこれらのプロセスを問題解決していく事が重要となる。優れたADMETプロファイルと安全性を併せ持つ化合物の質は、ヒトでの臨床プロファイルに外挿する為に重要となる。また候補化合物を開発段階に進め、臨床で得られた発見を研究にフィードバックする事は重要であり、第二世代の開発品の選別に役立つ。

<臨床検証>
 臨床試験は、費用対効果が高くなるように、できるだけ早期に有効性と安全性の重要なパラメータを評価することを目標に設計する必要がある。臨床デザインは、患者層選別、シミュレーションモデル、バイオマーカー、PET、サロゲート・エンド・ポイントを考慮する必要がある。多くの企業は、「Quick Win, Fast Fail」(迅速に勝利し、速やかに撤退する)という、可能な限り早期に臨床に持ち込んでGo / No Goの意思決定を行う戦略をとろうとしている。リリーは、費用対効果の高い、迅速に臨床試験を見極める"コーラス"を試みている。政府機関、製薬会社、および患者の権利擁護団体は、アルツハイマー病やパーキンソン病の新たな治療のために、より効率的な治験を設計する為の標準化された臨床試験データベースを開発した。これは、ヒト薬物動態プロファイルの初期評価を得るためにマイクロドーズ(フェーズ0)で化合物の優先順位を設定し、化合物を選択するのに役立つ。 100分の1の投与量で放射性標識された治験薬のマイクロドーズによって、薬効用量を予測し、陽電子放射断層撮影(PET)との組み合わせで、ヒト薬物動態プロファイルと化合物のターゲット組織分布を早期に評価できるようになる。マイクロドージングは、スケーリング時に薬物動態プロファイルの投与量線形性を前提としているが、初期で情報を得る費用対効果の高い有用な方法となる。


<<共生型イノベーション>>
 製薬企業は1998ー2007年のNMEの70%をフォロー・オン研究で創出してきたが、新規メカニズムの探索は、あまり得意とはしていない。実際、新規メカニズム(そのうち70%はオーファン・ドラッグ)の50%以上のNMEは小規模のバイオテックや大学から見出されている。慢性疾患で低生産性にあえぐ大規模製薬企業は、バイオテックのパイプラインに刺激を受け、アライアンスによって自らの生産性の低さを補完しようとしている。一方で、小規模のバイオテックは資金面での苦しさを解決する為のスポンサーを求めており、大企業と小企業、もしくは産学連携でお互いに補完しあう共生型のイノベーション・モデルが打ち出されるようになった。共生型イノベーションとして大きく4つ、(1)前競争段階での共同研究、(2)オープン・イノベーション、(3)産学連携型創薬、(4)ベンチャーファンド、に分類できる。

<前競争段階での共同研究>
 メカニズムの複雑な疾患の理解を深めるために、学術研究機関と大小の製薬企業をメンバーとする提携モデルが提案されている。ここでは新しいターゲットや治​​療法の選別、検証、ツール開発、アッセイ、ヒット創出法、薬効と安全性予測のための新規バイオマーカーが検証される。これらパートナーシップは、政府機関、財団、公益信託、製薬業界や学術機関などの公共および民間の情報源から財政支援を得る。パートナーは、個々の研究プロジェクトで利用するデータや技術はオープンアクセスできる状態にある。たとえば、革新的医薬品イニシアティブ(IMI)は、ヨーロッパの医薬品セクター競争力を強化するために設立され最大の官民パートナーシップである。製薬産業欧州連盟(EFPIA)と欧州委員会(EC)で構成されたコンソーシアムは、複雑な疾患に有効性と安全性を予測する技術や手法の開発を目指している。同様に、ダンディー・キナーゼ・コンソーシアム(DKC)は最大のキナーゼライブラリーを構築し、プロテインキナーゼとホスファターゼの理解を深める。 Arch2POCMとEnlightはパートナーにお互いの不必要、必要の要望に応じて資産のやり取りを促し、スピンオフ企業の為に集合知を利用する。アルツハイマー病神経イメージング研究イニシアティブ(ADNI)は、疾患の進行を予測するために、臨床試験でのバイオマーカーとイメージング技術を開発している。同様に、米国立衛生研究所財団(FNIH)バイオマーカー・コンソーシアムは、広範な治療領域で新薬開発、予防薬、医療診断をサポートするためのバイオマーカー探索を目的としている。 NCATSとCTEPは、NCI-業界のパートナーシップを通じて、ネグレクト疾患や癌の新規治療法を探索する。しかしながら、このような官民、産学連携は、他のコンソーシアムと重複したり、知的財産、パフォーマンスと報酬システムの取り扱い、パートナーの大型化とプロジェクト管理の複雑さを課題にはらんでいる。

<オープン・イノベーション>
 製薬業界は、IT業界で普及した"クラウドソーシング"を使ったオープン·イノベーションのモデルが試みられている。モデルは、新しいアイデアを特定したり、技術的な問題の解決策を模索するために、外部の科学者とのネットワークを活用し、専門知識にアクセスできる。リリーは、Innocentiveを含むいくつかのオープン·イノベーションのプロジェクト、PD2(フェノタイピング創薬イニシアチブ)、TD2(ターゲット創薬イニシアチブ)を実践している。YourEncoreは、退職したベテラン科学者の大規模なネットワークを構築している。別のモデルとして、GSKは、学術機関に15000個の抗マラリア新規化合物を提供している。リリーでは完全集積型ネットワーク(FIPNet)といったオープンイノベーションモデルを行なっている。これらオープン・イノベーションの取り組みの多くは有用であるが、創薬の初期または探索段階に限定されている。これは知的財産の所有権と報酬システムの問題が絡むからかもしれない。

<大企業とバイオテック、アカデミアの連携>
 生物学的製剤の関心の高まりとともに、産学の連携によるテーマの推進が積極的になっている。たとえば、ファイザー社は、アンメットニーズのための新規な生物学的治療を導入するため、大学や病院と連携したオープン·イノベーションとしての 治療イノベーションセンター(CTI)を設立した。連携を確実なものにする為、学術機関のすぐ近くに研究センターをおいた。GSKとアストラも、炎症性疾患の新しい治療薬の基礎研究の為に、マンチェスター大学と連携している。フランスでは、エリート研究機関とサノフィ·アベンティス社との共同研究(サノフィ·アベンティス - AVIEASAN)で、老化、免疫炎症疾患、感染症、再生医療などの分野で新たな治療オプションを提供しようとしている。

<ベンチャー・ファンド>
 製薬各社や公的機関は、ステージとアセットのニーズに応え、いくつかのファンドを用意している。たとえば、Biogenerationベンチャーズ、インペリアルイノベーション、アトラスベンチャー、Forbion、Aretus、リリーミラーファンド、サードロック、アストラ·MedImmune社などがある。リリーミラーファンドでは、リリーが最大で20%の資本を投​​資し、専門知識と技術ノウハウを提供している。

<リポジショニング>
 ほとんどの大企業は、適応拡大、ドラッグ・リポジショニングでを拡大しようとしている。従来のビジネスモデルに反して、ジェンザイム社(サノフィ·アベンティス)などの希少遺伝性疾患が成長している。これら希少疾患で見出した新薬や臨床的中止化合物の新しい用途を狙ったドラッグ・リポジショニングのアプローチは、過去6年間で急成長している。アンメットの適応症に対し、これら化合物をスクリーニングして、既存の薬剤の新たな用途が特定できたり、リード最適化の価値ある出発点が得られる。リポジショニングのアプローチは、開発サイクルの短縮・削減、開発コストの抑制が可能で、安全性、薬物動態プロファイルで確実性を持つ。最近では、NIH主催のイニシアチブNCATSで希少疾患やネグレクト疾患を狙って製薬会社か​​ら特許を取得したり、中止薬の提供を受け、大規模にスクリーニングしている。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

臨床情報と研究情報の融合、ケモインフォマティクスの活躍に期待

Scheiber J. Back translating Clinical Knowledge for use in Cheminformatics—what is the potential? Bioorganic & Medicinal Chemistry. 2012.
Available at: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0968089612003513

これまでの創薬は、化合物を臨床治験に進める為の意思決定として主に研究段階の情報を利用する、 "ベンチ(研究)からベッドサイド(臨床)へ"のアプローチにフォーカスしている。しかし、見落とされがちな事は、 "ベッドサイド(臨床)からベンチ(研究)へ"のアプローチによって臨床情報を研究に有効利用できるという事である。一つには市販薬の豊富な化学構造情報と臨床データをケムインフォマティクス解析によって活用できる。たとえば、市販医薬品の部分構造情報は、有害及び有益な双方の作用についてのナレッジでもあり、優れた薬物設計を目指した新規化合物合成のフラグメントとして使用する事ができる。ここでの有害とは市販医薬品から望ましくない作用に関連づけられるもので、部分構造がオフターゲット活性の要因になっている、といった情報である。
さらに、臨床データは研究段階のターゲット探索、ターゲット・バリデーションのあらゆる段階で利用可能である。ここにケムインフォマティクスが大きく貢献できると考えられる。

臨床情報を有効活用するには、現在の創薬に対する考え方を大きく変える必要がある。 そもそもリード探索や最適化の解析時にインプットしておくべき患者の情報として、誰しもが毒性に起因する部分構造検索を取り入れたいと思うだろう。しかし、臨床後期および市販後データを利用したケムインフォマティクスの活用は、たとえば特定の望ましくない副作用やオフターゲットとの作用を避ける為のフィルタといったもっと斬新なアイデアを実践できるようになる。さらに踏み込むなら、リポジショニングにとどまらず、患者をサブ・ポピュレーションに分類する事でのオーダーメイド医療への活用が期待される。表現型の情報を提供する電子カルテ内のゲノムの情報は今やホットトレンドである。遺伝と疾患の関連には前提条件があるものの、たとえば最近の二つの顕著な事例が象徴的である。まずPlexxikonのVemurafenibであるが、これはB-RafとMEKのパスウェイを阻害するが、 B-Rafに共通のV600E変異を持っている場合のみVemurafenibは奏功する。この変異を有するメラノーマ患者だけが治療できる。Vemurafenibはこの特定の変異を有していないメラノーマ細胞を抑制することはできない。さらに印象的な別の事例は、VertexのIvacaftorである。これはわずか4%の患者で見つかったCFTR遺伝子のG551D変異を標的とすることで特定の嚢胞性線維症患者において奏功する。塩化物イオンは、CFTRタンパク質によって構築されたチャネルを介して細胞膜を透過する。これは、汗、消化酵素や粘液の生産に不可欠な段階である。患者がG551D変異を有する場合はCFTRタンパク質が効果的にこのチャネルを開かず、イオンは透過できない。このイオンの透過できないという問題をvacaftorは改善する事ができる。この2つのケースでは、薬物の作用機序に対する患者の遺伝的変異に明確な相関がある。これらは極めて特別な事例であり、この結果が直ぐに別の薬剤開発に利用できるというものではない。しかし近い将来、患者の遺伝子のみならずプロテオミクスすらも詳細に記載されたデータベースが入手可能になるであろう。臨床データのノイズは今以上に減り、患者特異的なオンターゲット、オフターゲットが容易に判別されるだろう。遺伝子の配列データ、ターゲットに関する知識は絶えず増加していくだろう。結果として次世代シーケンシング技術の周辺情報は膨大になり、非常に詳細なレベルで臨床情報の読み出しが実施され、このデータの多くが研究者にとって利用可能になる。同様の流れで、患者についての治療薬がどのように作用するのか?どのような問題があるのか?投与量はどの程度必要なのか?どんな症状なのか?他の薬剤との組合せはどうなのか?といった表現型の情報も収集されるであろう。そして将来的にはこれらが電子カルテ内に構造化された方法で収集される事になる。すでに利用可能な化学データベースとこの貴重な臨床データを組み合わせて、特定の化合物のフラグメントを他の記述子とリンクさせ多次元で大規模解析を実施し化合物の最適化でプロファイルを操作できるようになる事を意味している。最近、いくつかの報告では、臨床情報を初期の創薬段階に利用する事が例示されている。特に臨床での副作用情報は、化学と生物の根底部分を理解する上で重要である。個別化医療、薬理遺伝学、次世代シークエンシングは相互に関連して捉えられるが、これは真の個別化医療が、患者の遺伝子配列をシーケンスし、化合物の個別の代謝の薬理遺伝学を理解して初めて可能になるからである。また、ケモゲノミクスの知識によって、薬剤の追加効能を探索できるかもしれない。この新たな効能追加には適切な患者層の選別も重要な要素である。

ケムインフォマティクスは、種々の情報を組み込むことにより、その展望を広げ、有能な技術のために大きな利用の場を提供し、現在の使用事例を拡大する事ができる。たとえば夢あふれる使用例として、化学的類似性が利用可能なバイオマーカーを特定し、コンパニオン診断テストの開発を推進するようなアプローチを想定できる。これは特定の化学部分構造への遺伝子発現プロファイルの変化をリンクすることによって達成できる。同じ変化が類似した構造を持つ分子で発生した場合は、ケムインフォマティクスによって駆動される非常に強力なヒントとなる。

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

避けては通れない事:メドケムの復活

Lowe DB. Nowhere To Go But Up: The Return of Medicinal Chemistry. ACS Medicinal Chemistry Letters. 2012;3(1):3-4.
Available at: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ml200297a

創薬化学は、新しいとはいえ不愉快な立場になりつつある。どうしてこうなったのか?何が時代遅れなのか?

製薬企業の大混乱の後、改めて創薬化学の立ち位置を問いなおすのは価値のあることかもしれない。しかし、この質問は一見奇異に思える。多くの創薬化学者はこの質問に対して、自分たちが何処でどういう役割を果たしているか喜んで応えてくれるに違いない。しかし、その回答ができるのは、今でも仕事のある研究者だけであろう。即答できる研究者はかつて程多くはない。これまでにもよく話題になったのは、創薬において化学と生物のどちらが中心的役割を果たしているのか、という問いかけだ。創薬化学者は、「自分たちがいなければ、何も新しいものが生まれない」というし、生物研究者は「自分たちがいなければ、何も評価できない」と言う。このようなやり取りは未だ回答のない議論として続けられている。少なくとも過去25年の創薬化学者は努力不足ではなかった。計算化学で結合モードを予測しようと努めた(結果的に全く逆の結合様式だったかもしれないが)。ロボット技術を活かして高スループットで化合物のスクリーニングを展開した。朝から晩まで何百万もの化合物を検証した。この先に正答があるに違いないと期待した。しかし、ロボット技術が手元にあったとしても如何に有望な開発化合物を見つける事が困難な事か?四苦八苦の末に企業が行き着いた真に効果的な手法は、高給ケミストのクビキリだった。今となっては、欧米の高給化学者が通り一辺倒な化学変換に費やす時代は終わった。簡単な化学合成は安価な人件費の上海やバンガロールでやれば済む。一方で、生物製剤と低分子医薬の境界領域にはケミストの活躍の場があり、薬剤ータンパク共役系、アプタマー、オリゴヌクレオチド、修飾酵素といった分野で能力を活かす事が期待できる。このような分野においても新規な化合物はメディシナル・ケミストにしか生み出せないのである。

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趣味で読んだ創薬化学論文を綴った日記。

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